第005話 覚醒

「まぁ、改めて自己紹介しておこう。俺は里中颯斗。よろしく」

「俺は山田寛治やまだかんじ。短い間だが、よろしくな」

「私は高取結愛たかとりゆあ。よろしくね」

「私は篠崎瑠美奈しのざきるみなだよ。よろしく」


 里中が自己紹介すると、他の連中もそれに続く。


 ヤンキーっぽい見た目の山田。気の強そうな見た目の女の子の高取。陸上部系の健康的なサバサバ系女子の篠崎。


「お、俺は六道小太郎。暫くの間よろしく頼む」


 どいつもこいつも挨拶に慣れていて、眩しいくらいに陽キャしている。一緒に行くことを了承した俺だが、すでに疲れ始めていた。


「それじゃあ、アイツらに見つからないようにここから一番近い市役所を目指そう」

『了解』

「分かった」


 俺達は連れ立ってこそこそと数キロ先の市役所を目指して歩き出した。


「おい、これ見てみろよ!!」

「しー!!声が大きい……!!」

「わ、わりぃ」


 山田が皆にスマホを見せてくるが、全く声のトーンを落としておらず、篠崎に小声で怒られ、申し訳なさげに頭を掻く。


 俺達は念のため、辺りを見回して化け物が近くにいないことを確認すると、ホッとため息を吐いて安堵した。


「それでどうしたんだ?」

「ああ。この動画を見てくれ」

「何よこれ!?」


 山田の用を改めて確認する里中に、山田はスマホ画面に映っている動画を見せる。その画面を横から見ていた高取が信じられないと目を見開いた。


 俺も少し身を乗り出して画面を見せてもらう。


 そこにはあの化け物と戦う人間達が映し出されていた。


 その人間達は各々がしている。ただ、その武装は現代的なものではなかった。全員がまるでゲームの中のキャラクターのようだ。


 その手に持つ剣で切り裂き、槍で突き、杖で魔法を放ち、錫杖で回復魔法を唱えている。


 彼らはあの渦から出現した黒い影と戦い、実際に倒していた。


「これはどういうことなんだ?」

「それがな。今世界中でここと同じようなことが起こっているらしい。そしてこいつらだけでなく、どうも世界中でどう見てもファンタジーみたいな力が使えるようになる人間が増えていっているみたいだ」


 動画見せられた俺達を代表として里中が尋ねると、山田はSNSで得たらしい知識を披露する。


 まだネットは無事だということか。


「作り話とか嘘とかじゃないのかしら?」


 高取が鼻で笑うように呆れたように山田に尋ねた。


「いや、現にこの動画に力を使えるようになった奴らがコメントしてんだよ。その中には日本人もいる。だから俺達にもそういう力があるかもしれない」

「確かにその力があればあの化け物たちに対抗できる」

「発現条件とかは分からないの?」

「その辺りは全く分からない。ただ、覚醒する際には――」


 篠崎の質問に山田が答え、先を続けようとした瞬間、


『ステータスが覚醒しました。ステータスが覚醒しました。ステータスが覚醒しました。ステータスが覚醒しました。ステータスが覚醒しました。ステータスが覚醒しました』


 脳内に中世的な声が鳴り響く。


「「「「え?(はっ?)」」」」


 四人も同じだったのか、突然の事態に間抜け面を晒して驚いていた。


「……今の聞こえたか?」

「ええ。聞こえたわ」

「俺も聞こえたぜ」

「私も聞こえたよ」

「俺も聞こえた」


 しばしの沈黙の後で里中が全員を見回しながら尋ねる。俺達は順番に彼の言葉に同意するように頷いた。


―ブーンッ


 古いテレビを点けた時の電子音のような物が聞こえると同時に、俺の前に半透明のウィンドウが六つ現れる。


「うわっ!?」「うぉっ!?」「きゃっ!?」「なにっ!?」


 ステータス同様彼らも同じような状況になったせいか、再び彼らは驚愕の声を上げた。


「なんだこれ……」

「なんかゲームのステータス画面みたいだな」

「それよ。私もお兄ちゃんがやっていたからみたことがあるわ」

「私もソシャゲで見たことあるよ」


 各々のステータスは視れないらしいけど、どうやら彼らも目の前にウィンドウが浮かんでいるようだ。


 ただ、彼らは一か所を見つめていることからおそらくウィンドウは一つだと思われるが、俺の前にはウィンドウが六つも浮かんでいて全く状況が飲み込めない。


 どういうことだ?


「なぁ?」

「どうした?」

「浮かんできたウィンドウって一つ……だよな?」

「ん?そうだね」


 俺が里中に探りを入れると、嘘か本当かの判断はできないが、俺みたいな奴も助けようとする里中が嘘をつくとは思えないので、彼のウィンドウは一つなのだろう。


「そうか。ありがとう」

「いや、どういたしまして」


 俺が感謝して頭をさげると、彼はにこりと笑って答えた。


「それで皆どんな感じだ?俺は剣士」

「俺は戦士だな。パラメータみたいなのはないのな」

「そうみたいね。あるのはレベルとジョブとスキル。私は魔術師ね」

「私は盗賊だよ」

「俺は……」


 俺は六つもステータスウィンドウが浮かび上がっているので、どれを言えばいいのか全然分からずに言い淀む。


「あ、ちょっと待って。私鑑定ってスキルっていうを持ってるから、試しに使わせてもらうわね」


 俺が答える前に高取が自身のスキルを使用する。


「六道君はクラフターって職業みたいね。どうやら道具の製作などを行う生産職ってやつらしいわ。戦闘は得意じゃないみたい。その代り、材料があればいろんな物を作ることができるみたいね。剣士はその名の通り巧みな剣技で敵にダメージを与える職業、戦士は盾を持って敵の攻撃を防いだり、率先して攻撃を引き受けたりする職業、魔術師は魔法で遠距離からの攻撃、盗賊は素早い動きで敵をほんろうしたり、気配を消すのが上手いから斥候をしたり、感知能力で敵を察知したりできるらしいわね」


 俺だけでなく他のメンバーも見たらしく、それぞれの職業の特徴を上げていく。


 どういうことなのか分からないけど、俺の眼の前には六つのウィンドウが浮かんでいるけど、その中で実際に獲得したのはクラフターのステータスということなんだろう。


 ―――――――――――――――――――

 ■名前  六道小太郎

 ■職業  クラフター(ランク一)

 ■レベル 一

 ■スキル 収納、生産、修復、強化

 ―――――――――――――――――――


 これが俺のクラフターのステータスになる。


「これで俺たちもあの化け物と戦えるようになったってことだ。逃げるよりも戦ったほうが良いかもしれない」

「どういうこと?」


 力を手にした里中は、あの人間を一齧りにしてしまった影と戦う気らしい。


「レベルがあるってことは敵を倒せばレベルが上がる可能性が高い。レベルが上がれば当然俺たちの強さが増すと思う。そうなれば生存率がグッと上がるはずだ。だから、化け物の数が一匹なら戦ってみたほうがいい。」

「確かにその通りだね。避難所に向かいながら一匹の化け物がいたら戦ってみる見たほうがいいかも」


 他の連中は里中の意見に逆らう気は全くないらしく、彼の言葉に好意的な反応を見せる。


「それじゃあはぐれている化け物を見つけたら積極的に戦おう」

「「「おー!!」」」


 こうして俺達は化け物と戦うことになってしまった。


 俺は返事してないんだけどな……。

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