第14話 自信作です!
時間にして、30分くらい。
「……うん。これで大丈夫かな」
何度も塗り直した魔方陣を両手で持って、LEDに透かしてみる。
込めた霊力は一定で、塗り残しはない。
左右のバランスも悪くないと思う。
私なんかじゃ見抜けないミスはあると思うけど、限界まで頑張れた。
「……大丈夫、だよね?」
「おう! さすがは相棒だな!」
問いかける私の言葉に、大黒が頼もしい笑みを浮かべてくれる。
これは術をする前にするいつものやり取りで、意味はあまりない。
太鼓判を押して貰った直後に、術が崩壊するなんてこともいっぱいあった。
だけど、大黒の笑みを見ていると、自信が湧いてくるから不思議だ。
「さすがは六道さんですね。完璧です」
「え……?」
いつの間にか背後にいた社長が、描き上げた魔方陣を眺めて頷いてくれる。
慌てて取り繕おうとした私を制して、社長は優しく微笑んだ。
「はじめましょうか」
「はっ、はい!」
緊張が高まり、鼓動がはやくなる。
思わず胸に手を当てる私を横目に、社長は目を細めた。
「必要な物は揃っていますか?」
「え……?」
術の発動に必要なものは、そんなに多くない。
簡易の術式なら特に。
だけど、
「お願いしていた写真とタブレットがまだ……」
タブレットはスマホで代用出来るけど、写真は絶対に必要になる。
だけどそのことは、社長もわかっているはず。
そう思っていると、社長がニヤリと口角を上げた。
「なるほど、なるほど。了解しました」
含みのある笑みを浮かべて、くるりと背を向ける。
そうして、
「お聞きの通りです。写真とタブレットがあれば、
「――ぇ?」
呆然と声を漏らした私を尻目に、社長が
「手が遅い。重ね塗りは無意味、無駄。そう評価していた方がいましたね?」
初耳だけど、音を遮断していた時に言っていたのだろう。
『私は聞いていましたよ?』
社長の視線が、そう物語っている。
「大半の普通の方は、彼女の素晴らしさに気付いたようですが」
ひとりひとり視線をあわせて、社長が距離を詰めていく。
後方にいる陰陽師さんたちを中心に見ながら、社長がふわりと微笑んだ。
「そんなあなた方は、効率良く、探し人を見付けられたのですか?」
「「……」」
気まずそうに視線を逸らす人。
怒りを含んだ視線で社長を見返す人。
反応は様々だけど、誰ひとりとして口を開かない。
「探し人の術すら成功できないあなた方のために、うちの六道が、
両手を大きく広げた社長が、虫も殺さないような微笑みを浮かべる。
えっと、これってあれだよね?
これ以上ないくらいに、陰陽師さんたちを煽っていますよね?
「……あのー、社長」
どうして煽っているんですか?
みなさん、殺気立っていますよ?
視線がすごく怖いですよ?
それになにより、私の術は失敗すると思いますよ……?
そんな思いを胸に声を掛けたけど、社長には届かなかったみたい。
そのまま歩みを進めた社長が、
「あなた方の尻拭いをはじめます。写真とタブレットをお借りできますね?」
「……」
そのままなにかを言いかけて、部長は静かに口を閉じた。
となりにいた
「渡してやれ。そういう契約を交わしている」
「……わかりました」
グッと奥歯を噛みしめた部長が、広い袖口に手を入れた。
「写真とタブレットです。本物の術とやらを楽しみにしてますよ」
皮肉を含む言葉を気にせず、社長は写真とタブレットを受け取る。
音を消す足運びで魔方陣の前に進み出て、うやうやしく頭を下げた。
魔方陣の中央に写真が置かれ、その上にタブレットがのる。
「準備が整いましたね。はじめましょうか」
「はっ、はい……」
背後から向けられている殺気は気にしない。
失敗した時のことも、出来るだけ気にしない。
ーーそんなに煽って、失敗たらどうするんですか!?
そんな思いも、心の奥底に封印する。
チラリと見えたけど、探し人は40歳くらいの男性みたい。
「六道さん。他に必要な物はありますか?」
「……いえ、なにもないです」
あとは、真言を唱えて、霊力を注ぐだけ。
「そうですか。それでは、よろしくお願いします」
優しく微笑んだ社長が、1歩だけ後ろにさがる。
魔方陣の側にいるのは、私と大黒の2人だけ。
感じたことのない殺気が、私の背中に注がれている。
後には引けない状況になったみたい。
「……はじめます」
描き上げた魔方陣の前に座って、私は静かに目を閉じた。
両手を広げて、数珠を握る。
「掛けまくも畏き
人探しの手伝いを神様にお願いして、力をお借りする。
そのイメージを思い描いて、みたらし味の線に霊力を流していく。
神様に祈りが届くように、全身の感覚を研ぎ澄ませる。
「……答えてくれた?」
満ちた霊力が、神様の力で赤い糸に変わった。
糸の先がタブレットに入り、探し人に繋がろうとしている。
その感覚が確かにある。
このまま進めば、探し人に辿り着く!
そう思ったとき、見えない何かに阻まれた気がした。
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