AFTER THE END 作:対艦ヘリ骸龍
都市の上空に観測された複数の光球が、その都市の住民の過半数を一瞬で蒸発させ、残りのほとんどと都市そのものを焼き払う。わずかに生き残った者達も放射性降下物により被曝、最終的には死に至るだろう。
それが闘争の果てに辿り着いた結末。反物質兵器から旧型核兵器まで、ありとあらゆる戦略級の兵器を消耗品の如く使い潰した大戦争の果てに、人類は滅亡した。
いつかはこうなるだろうと思っていた。艦長はリアルタイムの映像を見ながら、私にそう零した。
連邦と帝国はその政治形態こそ異なれど国力はほぼ同等。それでも洋上で艦隊を磨り潰し続けるだけなら良かったものをと。始まりはいつだったかと言えば先次戦役で連邦側が味方を巻き添えに、帝国艦隊に対し戦略級兵器を放った時だろうと言った。曰く、これは二つの過ちを重ねているらしい。
まず一つは対艦隊での戦略級兵器の使い方を教えた事。もう一つは戦略級兵器を使った事。同じ事ではないかと問うたがどうも違うらしい。
結果として今次戦役において、帝国側はあっけなく戦略級兵器の使用を解禁した。というか開幕がそうだった。開戦劈頭、連邦領各地の港に向け戦略級兵器弾頭の弾道ミサイルを放ち、そしてその弾頭のいくつかが予定コースを外れて民間の市街地を直撃した。想定状況としては最悪もいいところだ。
そうして連邦もあっさりと戦略級兵器の無差別空爆に移行。かくて全面的殴り合いの果て、クロスカウンター的に人類はほぼ滅んだ。キラー衛星がうようよする宇宙にも逃げ場はなく、いずれ大気の動きによって放射性降下物が降ってくる為、この星にいても未来は無い、と。
残存する人類は極僅か。つまり無数の戦略級兵器による攻撃をも免れるような場所にあった集落。あるいは大深度地下シェルター。あるいは。
「──異常はないか、《フォレスタ》」
艦長達の様に、海に逃げた者だ。
〈今のところは何もない〉
リアルタイムデータは艦橋内にも送り続けているのだが、敢えて聞かれたという点を重視し再度の解析をかける。それでも特に異常は無く、故にそう返すしかない。三次元捜索レーダー、艦首音響探知、対電波傍受装置のいずれも艦隊構成艦艇以外の存在を探知していない。海底地形の分布も最新の海洋観測データと一致する。暫定的に旗艦としてとりまとめている他二隻の航空母艦のUAV群の偵察結果から周辺の海域に他艦は確認できず。
「そうか」
〈異常事態なぞ起こらんよ。僅かな生き残りはこの間合流したS級戦略原潜で恐らく最後だ。あとはもう、海の底かドックの中でくたばってるさ〉
割り込んできたのは
「そうとは限らないだろう、《ボルティモア》」
〈EMPで通信系統が全滅している可能性もある。《シルヴェスタ》がそうだった〉
〈だとしても合流できなきゃ意味がないだろうが。《シルヴェスタ》はほぼ偶然で助かったようなもんだぞ〉
艦長の意見に具体例を添えて補足を行った。しかしながら《ボルティモア》の意見の法が合理的だ。
UAVの偵察範囲内をたまたま通りかかったから、
私を含め空母が2、戦艦は《ボルティモア》ただ1隻、他に巡洋艦9、駆逐艦13、潜水艦6、その他に非武装船舶33の、計65隻でこの船団は構成されている。攻撃当時、外洋にいたか地方の港でモスボールされていた船がほとんどだ。とはいえ軍艦はかなりの部分で自動化が進み、乗員は少ない艦では十人程度の艦もある。非武装船舶も無人の補給船も含まれているため、乗員乗客合わせても数千だろう。その中に子孫を残す能力のある個体はどれほど含まれるか。本来であれば最悪の場合人工的にそういう事も出来るのだが、客船や軍艦にそういう設備はない。そして私達が目指す先も孤島の軍事拠点あるいはそれに準ずる施設だ。データ上人間の生存はおおよそ可能である、しかし繁殖は自然繁殖に頼らざるを得ない、というのは確定事項。
つまるところ、人類は遠からず完全に絶滅するだろう。それは艦長とて重々承知のはずだ。終わりの確定している生存に意味はあるのだろうか。私にはいまいち彼が何を考えて先を目指すのかが分からない。
〈……艦長。この生存に意味はあるのか〉
「さあ? 人の生に意味を見出すのは後世の人間の仕事だろう。尤もこの有様じゃあ後世の人間なんて居るようには思えないが」
〈では、仮に艦長が見出す側であったならばどう考える〉
「この生存は無意味だよ。数が少なすぎる上に環境が極悪だ。先へ繋ぐ望みは無い。滅びを少しばかり、先延ばしにしているだけだ」
〈ならばなぜ生きている?〉
「大体は、死にたくないから生きている。要は怖いから逃げているってだけの話だ。怖がっているのは苦しんで死ぬ事で、それから逃げるとはつまり生きるって事だ。先の事なんて考えていない」
動物の生存本能とか、本能的な恐怖って奴だろうな、と進路の遙か先に視線をやって、艦長は呟いた。
〈──良く、分からないな〉
「そうか。しかしまあ、なんだ。ゆっくり考えると良い。貴様には時間がたっぷりと残されているのだからな、俺達と違って」
そう呟く艦長の顔は『寂しげ』と形容される類いの表情を浮かべていた。
なるほど、確かにそれはその通り。私は、正確には私以外の空母二隻と《ボルティモア》もそうだが、最低でも半世紀は持ち堪えるだろう。大規模メンテナンスが出来なくなった炉が絶えるのが先か、整備されなくなった回路が切れるのが先か、いずれにせよ百年は持ち堪えるであろう事は推定できる。そして人類の個体平均寿命は三桁に届かない。
最終的に、私達だけが人類の滅亡の目撃者となるのだろう。何もかもが潰えた後で。
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