ある民主主義の死 ―ポツダム体制の崩壊とナチ・ドイツ―

はじめに

 「ポツダム体制」とは、その始期と終期に諸説はあるが、おおむね一九一八年一一月のドイツ皇帝ヴィルヘルム二世の退位と新帝ヴィルヘルム四世の即位から、一九三三年三月のアドルフ・ヒトラー内閣による全権委任砲成立までの期間のドイツ帝国における政治体制の通称である。

 「ポツダム体制」の名は、その基礎となった新憲法が帝都ベルリンの衛星都市ポツダムで制定されたことによっている。

 

 この新憲法(一九一九年憲法、ポツダム憲法)の下、ドイツではそれまでの強大な帝権が縮小され、皇帝はほぼ儀礼的・象徴的地位に納まった。

 また、議院内閣制が規定され、実際にポツダム体制下での内閣は議会の多数派に基盤を持つ議院内閣であった。

 世界に先駆けて生存権や労働基本権を盛り込むなど、今日でもその先見性を評価されることも多い。

 

 だが、この「民主的な」政治体制は常に左右両極からの政治的圧力、あるいは肉体的なそれをも伴った暴力に晒され続け、政治的に安定した時期は極めて少なかった。

 その脆弱性を衝かれ、アドルフ・ヒトラー率いるナチ党による独裁体制が生れた。

 

 以下、本章ではアドルフ・ヒトラーが全権委任法を成立させるまでの人物史を中心に据えつつ、ポツダム体制の形成と崩壊を論じる。

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