黄土の暗闘 ―中国大陸における日英と合衆国関係Ⅰ―

前文

一九世紀後半から中国大陸は列強角逐の場となり、帝国主義の縮図と化していた。


 辛亥革命によって清朝が倒れた後、その争いは質的な変貌を遂げた。

 すなわち、清朝時代は租借や割譲によって直接的に領土や勢力範囲を拡大することを志向していたのに対し、清朝滅亡後の内乱状態の中で、列強は内戦の当事者たちを支援することで自国に有利な政権を中国大陸に樹立することを目的とするようになっていったのである。

 

 その中でも特に熾烈な戦いを繰り広げたのが日英と合衆国、そしてソ連であった。 

 特に日英と合衆国のそれは第一次南北戦争後の合衆国の伝統的な反英感情、日米の太平洋における勢力争いや貿易摩擦とあいまって、両者の対立が抜き差しならないものになる大きな要因の一つとなった。

 

 第一次南北戦争後の合衆国にとって、南部連合とは脇腹に突きつけられたナイフに等しかった。

 さらに戦争中に南部寄りの中立であったイギリスとの関係も悪化したから、イギリスの保護領であるカナダも含めて、合衆国は三方向に仮想敵国を抱えることになった。

 このような状況下で北米大陸の外に目を向ける余裕などあろうはずもなく、合衆国がアジア・太平洋に本格的に目を向けたは、二〇世紀初頭のセオドア・ルーズヴェルト政権以降のことであった。

 「遅れて来た帝国」日本よりもさらに遅れる形となった合衆国が、すでに列強諸国による分割が進んでいた中国大陸に進出することはむろん容易ではなかったが、合衆国はその機会を虎視眈々と窺っていた。

 


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