第八話 逃避行その3

 そいつは、ゆっくりと目を開き、眼球を動かして辺りを見渡すと、自分の体に繋がれたコードと、薄い緑色の液体状の物の中にある感覚に襲われる。


 体は機械のようなものに拘束されており、動かそうにも固定されていて動けず、仕方なく辺りを見渡すが、白衣を着た人間数名が、箱状の物体を指で操作してあるのが見える。


(ここは、どこなんだ……?)


 声を発して、周りに助けを求めようとしても、口には酸素マスクのような物が付けられており、口から泡を出すのが精一杯である。


「……!?」


 白衣を着た人間達が、慌てふためいた表情を浮かべて、そいつの元へと近寄ってくるのが見え、自分は何かとんでもない事をしてしまったのではないかと反省をするが、今のこの、自分一人の力ではどうにもならない現実を何とかしてくれとばかりに大きな声を出そうとするが、泡しか出ない。


「なんでまた起きるんだ!? エラーコードか!?」


「脳波が異常値を示しております! バイタルは正常です!」


「薬剤を増やせ!」


 水の中でくぐもっていてはっきりとした声は聞き取れなかったが、何を言っているのかそいつには理解できず、ただ自分が起きたのが異常なんだなと分かり、再び瞼を閉じた。


        🐉🐉🐉🐉

 「はっ」


 カフスは、何か酷く、そして好奇心をそそる夢を見て目が覚める。


(何だったんだ、あの夢は……!?)


 先日見た夢と同じ内容だが、それは別世界にいるのを錯覚させられる夢であり、まずこの世界ではお目にかかれないであろう奇妙な物体が存在する不思議な世界である。


「ううん……」


 隣には、ユーリルが安らかな寝息を立てて夢の世界へと意識が飛んでおり、思わずキスをしたくなる衝動にカフスは駆られる。


(あー、キスしてぇな!)


 カフスは健全な青年の性的欲求には逆らえないのか、艶っぽいユーリルの寝顔を見て本能には逆らえきれず、周りを見渡してキスをしようとする。


「グオオ……!」


 刹那、箱入り娘の姫君とは到底思えない、断末魔のようなイビキが部屋に響き渡り、カフスは慌てて唇を離し耳を塞いだ。


       🐉🐉🐉🐉

 ガルーダは、巨大な怪鳥だが、戦争が終わり占領統治された際に、生活を脅かす存在だと指定危険生物に認定され、大半が駆逐されたが、生き残ったものが何匹かおり、たまに住民に頼まれて軍部が出動する時がある。


 対処法としては、ガルーダの口から出す雷に耐性のあるイエロードラゴンを使って駆除するのだが、カボス村の外れにあるイル城を根城にするガルーダは従来種とは比べ物にならないほど巨大で強大であり、全く歯が立たずに放置されていた。


 ロゼの妻であるジュリーは体が弱く、体質改善に必要な滋養強壮の成分を持つマンドラコアを栽培しているのはイル城に住む変わり者で評判の魔女、ドーラただ一人だけである。


「と言うわけなんですよ……」


「ふうん、じゃあすぐに行くか!」


 カフスは二つ返事で了承し、外へと出ようとしたがポルナレフに思い切りどつかれて地面へと尻餅をつく。


「馬鹿野郎! 指定危険生物だぞ! 遊びに行くんじゃねぇんだよ! 死ぬぞ俺ら下手したら!」


「そうですよ! ねぇロゼさん、この村の中にテレパシーを使える人っていませんか!? その人に頼んでドーラさんに聞いてみましょうよ!」


「そうだ、それは名案だ!」


 ポルナレフとマリーナは、意気投合したのか、自分たちエルフ族で高度な能力がないと使えないテレパシーを使うことができる人間がいるかどうか、ロゼに尋ねる。


「うーんそれがねぇ、うちの村ってエルフ族の人ってそんなにいないし、みんな凡庸な人ばかりだからね、能力的にも。ただ魔力増幅石を使ってドーラさんにテレパシーを送ってガルーダを駆逐してくれと頼もうとしたが、一方的に連絡が遮断されたんだよ。あっ、俺らドーラさんを迫害したとか差別はしてないよ、人間嫌いなんだよあの人は……」


 ロゼは、自分たちが決して嫌がらせをしたとかではないのに何故城にいて、連絡をシャットダウンしたのかが気になっている様子である。


「人間嫌いかぁ……」


 カフスは、何やら考えがあるが、その考えが邪で奇妙で頓珍漢なものではないかとポルナレフ達は勘繰っている。


「うーん、どうやって交渉に行けばいいんだろうなあ。雷がなければ……」


「せめて行動を制限できる術があればいいんだが……」


 シオンとカールは、ガルーダの対処方法で何かいいアイデアがないかと思案に駆られており、葉巻を口に咥えようとしたがジュリーの事を思い出し、慌てて火を付けるのをやめた。


「それなんだが、あるぞ。実験途中なんだが、雷をシャットダウンできるバリアを発生できる機械がある」


 ロゼの発言に、周囲は「すげぇ!」と感嘆の声を発したが、カフスは、何か欠陥があるのかと感じたのか、素直に喜べない様子である。


「なあそれはさ、すぐに壊れたりはしないよな?」


「いや、それが、たった10分程度しか持たない。物理現象を完全には防げるのだが、今の技術ではこれが限界だったんだ……」


 カフスはロゼに尋ねた後、「どうすっかな……」と深い悩みに陥っており、他の連中もまた、いくらホワイトドラゴンがいるとはいえ、ガルーダとまともに戦えば全滅は必死なんだなと絶望のため息をついた。

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The different world 〜異質な奴ら〜 @zero52

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