第5話 誘拐

 少なくともこの世界に限って言えば、生まれた種族全員は例外なくほぼ全員が一生に一度以上必ずドラゴンに乗る。


 遠くに行く移動手段がドラゴン以外無く、熱気球も一応あるのだがそこまでは流通しておらず、一部の学者が観測用に使っているのである。


「うおー、超スゲェー!」


 カフスはまだ精神年齢が17.8歳の少年と変わらないのか、朧月夜を風を切って飛んでいるホワイトドラゴンに乗り、かなりはしゃいでいる。


「おい見ろよ、あんなクソでかい屋敷が護摩粒みてーだ!」


「五月蝿いよ馬鹿! お前ドラゴンとか乗った事ないのかよ!?」


 ポルナレフはまるで学生が修学旅行に出掛けている時と同じテンションのカフスの頭を軽くポカンと叩き、「これから犯罪をやるのにこんなノリでいいのかよ……?」と心の中で深いため息をつく。


「いや、だいぶ前に乗ったきりだから、忘れたわ!」


「何だよそりゃ! 普通デートとかで彼女と一緒に乗るだろう?」


「いやおっさん、彼女いるのかよ!?」


 実年齢は24歳だが、明らかに30代にしか見えないシオンの発言に、カフス達はただただ驚嘆している。


「え!? でもお前童貞だったとかって聞いたんだが……?」


 カールは、ほんの少し前に聞いたシオンの事を思い出し、「何故この歳まで童貞なんだろうな?」と疑問に駆られ、シオンに事の真相を尋ねる。


「いや、お前さんぐらいの時に風俗で筆おろししたんだよ!」


「何だよ、素人童貞じゃねぇか!」


「うるせぇ! いやそれよりも、城の前に着いたぞ!」


 カフスはシオンに思い切り頭を叩かれ、不貞腐れながら言われるがままに下を見つめると、眼下には城があり、窓からはお転婆娘と噂されるユーリルと、よくできた侍女と評されるマリーナが口をパクパクさせて彼らを見上げている。


「よっしゃ、行くか!」


 カフスはドラゴンの手綱を引こうとしたが、慌ててポルナレフに制され、頭を2.3発ぐらい叩かれてムカっとした表情を浮かべている。


「馬鹿野郎、考え直せ! 立派な犯罪だぞ!? 懲役20年じゃ済まされないし!」


「あ!? そんなの関係ねーだろ! 勢いで何とかなるんだよ!」


「いや、このドラゴンの名前はどうする?」


 カールは、ホワイトドラゴンの首元をさすりながら、鼻炎気味の鼻をすすり、見回りの守衛が驚いているのを面白げに眺めている。


「そっちかよ!? バレちまったぞ俺らの存在が! これで特定は確定路線じゃねぇか! 俺ら終わったな……」


 シオンは、自分自身が犯罪者になってしまったという、どうにも変えられない事実が受け止められないのか、かなり動揺をしている。


「名前か、うーん、満月だからムーンだな!」


 カフスは後ろに浮かぶ満月を見て、ホワイトドラゴンの名前をすぐに決め、巨乳で有名な事でも知られるマリーナの胸の谷間をガン見している。


「ムーンってなんだよ、そのノリはよ!」


「あ!? いいんだよそんなの! 行け、ムーン!」


『グオオ……!』


 ムーンはカフスの指示に従い、翼をはためかせ、ユーリルが怠惰な毎日をぶち壊す起爆剤になるように、勢いよく城へと向かって行った。


     🐉🐉🐉🐉

 パキラ国は、世界大戦以前は軍国主義寄りの思想だったが世界大戦で大敗を喫し、ジュルツ国が使った、『得体の知れない人命を奪う』兵器で国民の3分の1を失う被害を被った。


 全滅を恐れた当時の国王、ガラフは寿命を30年ぐらい削る思いで平和協定を渋々結び、占領下に置かれて不利益なる条例や、独裁政権から民主主義に変わった憲法を作り上げた後に過労でこの世からいなくなった。


 現在の国王のジオウは、先代の負の遺産というべき戦争の慰謝料を払う為に国税を上げてしまい、デフレとインフレが交互に入り混じる現状をどうやって打破するか、クーデターでも起こるのではないかと

 いう恐怖に怯えており、心労はそれはかなりキツい状態で有る。


 国民はというと、テロを起こして状況を変えようとする集団はいるがそれは小規模な事しか行えないショボい連中の集まりであり、大半の国民はもう諦めていて、一部の富裕層が幅を利かせている為もあってか、日々の暮らしをどうやって過ごすかとか、そればかりの悩みの毎日である。


 パキラ国の兵士はお世辞にも列強に比べたら強くはないが、相手と差し違える自爆攻撃すら厭わないほどの愛国心は失われてしまっていた。


 だが、そんなやる気ゼロの社畜の彼らにも、絶対に敵には回したくないというものは座学で最低限の知識はあり、それがホワイトドラゴンである。


「姫様! お逃げください!」


 マリーナは、子供が修学旅行に行くワクワクとした感覚を思い出してアドレナリンが大量に出て、ハイになっているユーリルの腕を掴んでこの場から逃げようとしたが、エルフ族のため腕力は無く、ユーリルに突き飛ばされた。


「何をするんですか!」


「私、嫌! だってさ、生まれてから親のレールで生きて、好きなことができないし、遊べないし、勉強とかばっかだし! こんなクソのような国にずっといたくない!」


 ユーリルは目に涙を浮かべており、目の前に迫ったムーンと、マリーナの巨乳をガン見している下心満載の四馬鹿を見て、「白龍の王子様が来たんだわ」と期待を胸に浮かべている。


「よー、ユーリルの姫様! 俺らと一緒に誘拐されてみない?」


 カフスは街でナンパする時と同じような軽口を吐き、それをみたポルナレフ達は「すげぇなこいつ、良い度胸してやがるな……」と感心している。


「行く行く!」


 ユーリルはわくわくして、それはまるで、社交界でナンパしてくる軽率でだらしがないチャラ男と変わらない変な奴を疑う事なくついていく世間知らずの女の子であり、マリーナは手を掴んで引き戻そうとするが逆に手を引かれて、勢いそのままドラゴンへと飛び乗った。


「キャー! イヤー!」


 シオンはどさくさに紛れてマリーナの概ねJカップぐらいのスイカのような胸を揉み揉みしており、上機嫌であり、それを見たカールは、「羨ましいな」とぼそっと呟いた。


「よっしゃ、行くぞ!」


 カフスは意気揚々として、ムーンに上空に上がるように指示を出そうとするが、若気の至りの塊のカフスの手綱を止める。


「行くぞ、って何処へだよ!?」


 ポルナレフはノープランなカフスに呆れながら尋ね、他のドラゴンは乗っていたが、初めて乗る最強のホワイトドラゴンのムーンの背中をさすっているユーリルを見て、「この姫様、そうとう溜まっていたんだなあ」とため息をつく。


「冒険の旅だ、行くぞ!」


 カフスはポルナレフの手を離して、ムーンの手綱を引き、風圧に吹き飛ばされないように思わずカフスに抱きついたユーリルの、マリーナほどではないがCカップの胸が背中に当たり、思わず股間が熱くなった。

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