第二章 男女6人のワクワクぶらり旅

第六話 逃避行その1

 満月の夜、ホワイトドラゴンのそいつはこう思った。


『こんなドタバタな脱走劇も、悪くはないな』と。


「うおー! すげぇー! 街があんなに小さいぞ!」


 逃走に加わった一味の人間族の青年は、精神年齢がまだ子供なのか、それとも感受性が豊かなのか、大抵の人間が一度は経験するドラゴンに乗るという行為をかなり満足気な顔をして、小さくなっていく街を感動しながら見ている。


「お前五月蝿えよ! 子供かよ!」


 まだ若いエルフ族の青年は、その青年の頭を軽く叩き、また同じようにはしゃいでいる女性を見て、子供のようだなと深いため息をついた。


「うわー! なんか凄い風強いし、気持ちいいんだけど!」


 その人間族の女性もまた、生まれてこの方ドラゴンになり外出するという行為をそこまで頻繁にしていなかったのか、普通の人間ならごく普通に体験する、『ドラゴンに乗るという行為』をかなり感動している様子である。


「だろ!? 思い切って俺らに誘拐されて良かったろ!?」


「うん!」


「うん、じゃないですよ! あなた方のやってることは立派な犯罪ですよ! てかね、いつまで胸触ってるのよ!」


 エルフ族の女性は、侍女なのか、誘拐という言葉を聞いて怪訝な表情を浮かべ、どさくさに紛れて自分の胸を触っているドワーフ族の青年の頭を思い切り引っ叩く。


「うわ!」


 ドワーフ族の青年は、頭を叩かれた衝撃で軽く脳震盪を起こしたのか、ぐらりと気を軽く失い、ドラゴンの背中から転がり落ちる。


『やれやれだな……世話が焼けるぜ』


 ドラゴンは「グオン」と軽くため息のような咆哮をして、頭がぼーっとして地面に落ちていく彼を追いかけようと、背中に乗っている凸凹な連中が落ちないように気を遣いながら高度を落としていく。


      🐉🐉🐉🐉


 パキラ国から離れた辺境の村の小高い丘に、カフス達はいた。


「危ねぇだろ、あんな所から落としやがって!」


「どさくさに紛れて胸を揉みまくってたのは誰よ!?」


 マリーナは嫁入り前の体を汚されそうになったのが相当に気に入らなかったのか、汚物を見るような目でカールを睨みつけている。


「私まだ嫁入り前なんですけど!?」


「いやね、この子彼氏いない歴イコール年齢なのよ!」


 ユーリルは、一国を背負う姫君であるのにも関わらず、下賤の民が使う汚い言葉遣いをし、あまり外に出ていなかったのか、周囲を物珍しそうにキョロキョロと挙動不審に見渡して、それを見たカフス達はドン引きしている。


「姫様! そんな汚い言葉を使わないで下さい! それよりもねぇ、あなた達これって立派な誘拐なんだけど! ちょっとねぇ、誰か来てくださらない!?」


「は!? いいじゃない別に! 国に帰ってねぇ、あんなクソ野郎と一緒になるだなんて嫌よ! 臭いし!」


「いや、そりゃ国の為なので……」


「どうせこんな国、他の国に舐められて終わりでしょ!?」


「それを言ったら終わりですよ!」


「あのさぁ、取り込み中にスゲェー悪いんだけどよ……」


 ポルナレフは彼女達のやり取りに苦笑しながら、丘の下の方を指差し、「あれを見てくれ」と促している。


「ん?」


 彼の指差す方法には、二つ首の犬が一匹、目を滾らせてゆっくりとこちらに向かってきており、あからさまに自分達に敵意があるんだなとユーリル達は直感で分かった。


「……!? ねぇあれってケルベロスじゃないの! あれって、うちの国が一匹残らずに駆逐した害獣でしょ!? なんでここにいるの!?」


「あんた物知りだな!」


 マリーナは、一応姫君付きの侍女という立場であり、危害が及ばないようにする為に一通りの知識は座学で徹底的に頭に叩き入れていたのである。


「なんか、ヤバくねぇかこれは!?」


 シオンは、ゴブリンらしく、腰にぶら下げていた樫製の棍棒を取り出し、カールもまたポケットからナイフを取り出して身構えている。


「かかってこいや犬野郎!」


「威嚇してんじゃねぇよ、馬鹿!」


 カフスはナイフを出して、ケルベロスを威嚇しているのだが、ポルナレフは厄介な事になったら面倒だとカフスの頭を引っ叩く。


「人の頭を叩いてるんじゃねぇよ! 魔法でなんとかしろ! あんたエルフ族だろ!?」


「いやだからさ、あの空間魔法で一日分の魔力を使っちゃったから、寝ないと回復しないんだわ……」


「この落ちこぼれ!」


「五月蝿えぞコラ! なぁ、見たところあんたエルフだよな? 俺と同じで。大なり小なり魔法が使えたよな? 姫君の付き人だからそれなりに魔力あるんじゃねぇか?」


 ポルナレフは自分が不甲斐ないのを認め、同じ種族のマリーナを見て、自分たち種族の特性である魔法が使える事を確認する。


「いや、私回復呪文と解毒呪文しか知らない! 学校の先生が姫様の身の世話するならそれ以外は学ぶ必要はないと言っててさ……」


「何だよ、学校って使えないんだな! 行かなくて良かったぜ!」


 カフスは、学歴が無い自分をネガティヴに感じていたが、日常生活に役に立つ術を教える機関である学校が正常に機能していない事を知り、何故か軽く胸の引っ掛かりが取れたようである。


「来るぞ!」


 カールがそう言うと、ケルベロスは口から涎を撒き散らして、喉元をかき切ろうと彼らの方へと四足歩行の足を思い切り駆け出して向かう。


「ひ、ひええ!」


 ケルベロスはユーリル達の元へと飛び込んでいき、カフスはナイフを突き立てるが、切先は確かに胴体を突き刺したはずだったが、体をすり抜け、蜃気楼のように消えていった。


「!??」


「はは、ちょっとした悪戯だよ」


 丘の下からは、頭が見事に禿げ上がった中年で腹が出た男が何やら機械のようなものを手に取っており、ドヤ顔で彼達の方へと歩み寄る。


「ロゼ!?」


「お久しぶりです、姫様」


 そいつは歳のせいで脂ぎった頭から太陽の光が反射して、加齢臭も伴ってか、見るも無惨な中年男性という様子であり、それを見たカフス達は「キッショ!」と心の中で呟いた。

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