第64話
「嫌ですわ」
「…………」
「…………」
「今度の王家主催のパーティーで、是非君にパートナーを頼みたいと思ったんだが……」
「お断り致します」
「今回だっ……」
「今回も次回も必要ありませんわ」
「……せめて最後まで話を」
「聞いてもわたくしの答えは変わりませんもの」
「………………」
「プッ……!兄上が誘いを断られるなんて初めて見た!くくっ」
「……イライジャ、少し黙っていてくれ」
腹を抱えて笑っているイライジャを見て、ラクレットは溜息を吐いた。
何故、わざわざヴィクトリアをパーティーに誘おうとしたのか、ラクレットの思惑が透けてみえる。
直接、両親に打診せずに選択の余地があるだけまだマシだと考えるべきだろうか。
「今回はパートナーがいた方が、ヴィクトリアのためになるのではないのか?」
「それと……ジェイコブ殿下の為にですか?」
「…………」
「付け加えて言っておきますが、エルジーはこの程度で諦めるとは思えませんし、わたくしが恨みを買うだけですわ。弟想いなのは結構ですが、逆効果だと思いますけれども」
「そうならないように立ち回るつもりだ」
「ですが、ラクレット殿下……こうは考えられませんか?」
「…………?」
「その優しさが、ジェイコブ殿下の成長を阻む一因になっているのではないのでしょうか?だからこそ陛下もジェイコブ殿下の成長を願い、今回はいつもより厳しい対応をしたのでは……?」
「……!」
「兄上もヴィクトリアも、一体なんの話をしているんだ?」
「オホホホ、イライジャ殿下は少々そこで大人しく黙っていて下さいませ」
「…………わ、分かったよ」
「あらあら、素直で良い子ですわね」
イライジャのカッと赤くなる頬を見てヴィクトリアは考えていた。
しかし、これ以上好意を持たれてもヴィクトリアは返すことは出来ない。
(早めに手を打った方がいいわね)
シュルベルツ国王がイライジャの気持ちを知ったとしても承諾することは絶対にないだろう。
それにシュルベルツ国王の悲しむ顔は見たくない。
「わたくし……シュルベルツ国王や、べジュレルート公爵、イーシュ辺境伯に誘われたら喜んでパーティーでも隣国でもお供いたしますが、今のところそれ以外の男性に全く、全然、これっぽっちも興味がございませんの」
「……!!」
「勿論、次の婚約者もお父様やお母様には歳上の方でとお願いしております。残念ながら他の方には、わたくしの心を満たすことは出来ませんわ……ごめんあそばせ」
「…………ッ」
ヴィクトリアの言葉を聞いてイライジャはショックを受けたようだ。
「俺……先に戻る」と言ってフラフラと歩きながら背を向けてしまった。
「ヴィクトリア、イライジャは……」
「王家と同じ家のものが二人も関わるなんて、周囲の貴族から過度にバリソワ公爵家に肩入れしていると不満が出ますわよ?」
「分かっている。だが……」
「これもシュルベルツ国王陛下の為ですわ」
「父上の為、か……」
「こう見るとラクレット殿下も、まだまだ子供ですわね」
「子供って……同じ歳だろう?」
「精神的に、という意味ですわよ。ラクレット殿下と年が同じことくらい存じておりますわ」
「…………。君を誘おうとした私が馬鹿だったよ。私も付け加えておくが……今回、ジェイコブのせいでパーティーに一人で参加することになる君の顔を立てようと思ったけれど、どうやら逆効果だったようだしね」
「あら、お気遣いありがとうございます」
「まったく……君に敵う気がしないよ」
「ウフフ……では、わたくしは侍女達とランチの約束をしていますので失礼致します」
「ああ、引き止めてすまなかった」
ヴィクトリアは眼鏡を掛け直して、去ろうとした時だった。
「…………ヴィクトリア」
「はい?」
「ありがとう」
ラクレットのその言葉にヴィクトリアは口角を上げた。
「まぁ!ラクレット殿下にも素直で可愛い部分がおありですのね」
「フフッ、私をなんだと思っているんだ」
クスクスと喉を鳴らしながら笑うラクレットに、シュルベルツ国王の面影を感じつつ、ヴィクトリアはその場を後にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます