第63話
(こうやって取り繕えない時点で、ね……)
シュルベルツ国王ならば談笑しているうちに、いつの間にか喋らされていることだろう。
べジュレルート公爵は、上手く相手を転がしながら聞きたい情報を得るに違いない。
イーシュ辺境伯はその素直さとストレートさで、全てが許されてしまう。
三人の顔を思い出すだけでヴィクトリアは胸が締め付けられるほどにときめくのだ。
(その熟れた甘さを知ってしまったら、もう抜け出せないのよねぇ……)
ヴィクトリアはおじ様達の温かい時間を思い出して、フーっと熱のこもった息を吐き出した。
イライジャはそんなヴィクトリアを見て頬を赤らめている。
そんなことを考えているとラクレットが思い詰めたように口を開いた。
「ジェイコブが……バリソワ邸から帰ってきた日から元気がないんだ」
「あら、そうですの」
「…………」
思い浮かんだのはエルジーに声を掛けられた時のことだ。
ジェイコブが聞いてしまった『エルジーの本音』によって、相当なダメージを負っているようだ。
(……当然よね。本当の目的は『ラクレット殿下』で、自分は利用されただけって気付いたんだもの)
あの後からジェイコブはバリソワ邸を訪れていないようだ。
ジェイコブが今、エルジーのことをどう思っているかは分からないが、ラクレットとイライジャが心配する程だ。
相当、落ち込んでいるのだろう。
「……理由を知らないか?」
「それはわたくしではなく、ジェイコブ殿下の婚約者であるエルジーに聞くべきではないのでしょうか?」
「…………それは」
曇るラクレットの表情を見て、ヴィクトリアは目を細めた。
(もしかして、ラクレット殿下はエルジーの気持ちに気付いていたのかしら?)
エルジーがラクレットにどうアピールしていたのかはヴィクトリアの記憶にはないが、普通に考えて自分の弟の婚約者の妹が、自分にアピールしてきたら戸惑うだろう。
だからこそラクレットはジェイコブを励ますこともできず、エルジーの元に聞きにいけない。
呑気なイライジャとは違い、ラクレットはエルジーとジェイコブの間に何かがあったのか、本当はなんとなく分かっている。
だけど自分の考えが事実かどうかを確かめたい……そんなところだろうか。
(……あらあら。弟想いですこと)
しかしそれはエルジーとジェイコブの二人の問題だ。
ここでラクレットにエルジーの気持ちを伝えるのは違うし、ヴィクトリアが気に掛ける必要もない。
「お話はそれだけですか?もう宜しいでしょうか?」
「もし、知っていることがあったら教えて欲しいんだ……本当は、何か知っているんじゃないのか?」
「…………」
ラクレットもヴィクトリアの表情から何か知っていると勘付いたのだろう。
その言葉を聞いて、ヴィクトリアは小さく息を吐き出した。
「もし…………わたくしが理由を知っていて、ラクレット殿下にお伝えしたとしても、わたくし達に出来ることは何もありませんわ」
「……!」
「それはラクレット殿下も分かっているのではないでしょうか?」
「…………だが」
「だからこそジェイコブ殿下は、お二人を頼ろうとしない。ジェイコブ殿下が選んだことなのですから、見守って差し上げたら宜しいのでは?」
「あぁ……その通りだ」
「……兄上?」
やはりラクレットは何となくその理由と状況を理解しているようだ。
眉を顰めているラクレットと首を傾げているイライジャ。
(もういいかしら……)
ヴィクトリアは腰を折り、その場から立ち去ろうとすると引き止めるようにラクレットから名前を呼ばれた。
「ねぇ、ヴィクトリア」
「はい……?」
「話は変わるが、もしよければ私と……」
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