第62話
ヴィクトリアはいつものようにシュルベルツ国王とべジュレルート公爵のマッサージを終えて、ココと共にワゴンを引いて喋りながら、ルンルンで歩いていた。
今日も城の侍女達と喋りながらランチをとることを楽しみにしていたヴィクトリアが、ココに休憩の許可を取ろうとした時だった。
「少しいいか……?」
「…………!」
ヴィクトリアの前に立ち塞がるのは二人の王子、ラクレットとイライジャの姿。
表情は暗く、どこか思い詰めた様子を見て、嫌な予感をひしひしと感じていた。
「ココ、ヴィクトリア・バリソワはどこにいる?」
「ラクレット殿下。ヴィクトリア様を探していらっしゃるのですか……?」
「あぁ……最近、また城に通い出したと聞いた。しかしずっと探しているのに姿が見当たらないんだ」
「俺たち、避けられてるんじゃねぇ?この間のこともあるしさ」
「イライジャ、少し口を閉じていてくれ」
「だってさー、ヴィクトリアに嫌われてそうじゃん?」
「よせ、ココの前だぞ」
「「…………」」
その言葉にココと顔を見合わせた。
ヴィクトリアはどこにいるかと問われたら、二人の目の前にいる。
どうやら変装しているヴィクトリアの存在に気付いていないようだった。
(髪色や背格好で気付かないのかしら……?)
男性は女性の変化に疎いとは聞くが、まさかここまでとは思わずに首を捻る。
変装が上手いと喜ぶべきだろうか。
二人がそこまでヴィクトリアに興味がない証拠だろう。
ヴィクトリアは二人に問いかけた。
「どうかされたのですか?」
「少々聞きたいことがあってな……私たちが探していたと伝言を頼めないだろうか」
声でも気付かれないようだ。
再びココと目を合わせた。
(シュルベルツ国王陛下や他の侍女やホセ様や料理長やココさんも、普通に気付いて下さっていたから気にしなかったけど……)
ここは経験と愛情の差という事にしておこうと、ヴィクトリアは片手を上げた。
「ここにおりますけれども」
「は…………?」
「はぁ!?どこだよ」
「ラクレット殿下、イライジャ殿下……お久しぶりでございます。わたくしがヴィクトリア・バリソワですわ」
「…………」
「…………」
二人は暫く固まって動揺した後に、ラクレットが口を開いた。
「何故…………変装をしているのかな?」
「べジュレルート公爵の指示ですわ。再び、城で働く許可を頂いた条件の一つですの」
「…………そう、か」
「うわぁ……全然、分かんなかった」
「オホホホ……」
恥ずかしそうに視線を逸らしているラクレットと素直なイライジャ。
ヴィクトリアは空笑いをしながら二人を見ていた。
ラクレットはほんのりと頬を染めながらも、場を切り替える為に咳払いをする。
「ゴホン……ヴィクトリアに聞きたいことがあるんだ」
「なんでしょうか?」
「すまないが、ココは外してくれないか?」
「…………ですが」
「ココさん、申し訳ありませんが皆様とランチの約束をしていているので、少し遅れると伝えて下さいませんか?」
「かしこまりました」
ココは心配そうにヴィクトリアを見ながらも、ワゴンを引いて去っていく。
ヴィクトリアは二人に向き直った。
目の前には令嬢達が我先にと群がる二人の王子。
この国の令嬢ならば大喜びな状況であっても、ヴィクトリアにとっては、何の魅力も感じない。
(おじ様達との時間はあんなにもキラキラと輝いているのに……どうしてかしら。不思議だわ。何も感じないわ)
ヴィクトリアは「フー」と小さなため息を吐いた。
王子達も自分達に好意を寄せる令嬢の視線ばかり見ているせいか、ヴィクトリアの二人に全く興味がないという態度に大きな違和感を感じているのだろう。
表情が固くなっていく。
「わたくし、約束があるのでお話があるのなら早急にお願い致しますわ」
「…………分かっている」
この程度でムッとしているラクレットとイライジャを見てヴィクトリアは思っていた。
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