第65話
ヴィクトリアは歩きながら考えていた。
(王家主催のパーティーの頃には、もうヴィクトリアは表舞台にはいないのよねぇ)
まんまとエルジーの策略にハマり、毒を盛ろうとしたヴィクトリアは騎士団に拘束されて何もかも全てを失った。
その件でジェイコブとの婚約の件も有耶無耶になり、エルジーは本格的にラクレットの婚約者になる為に動き出す。
そしてそのまま舞台は学園に移り、ヒロインと悪役令嬢のエルジーとの戦いが始まるのだ。
(ヒロインとラクレットの出会いって、この王家主催のパーティーだったかしら?)
パーティーには他に誰が参加するのか……そう考えてハッとしたヴィクトリアは足を止めた。
(つまり……正装したシュルベルツ国王陛下とイーシュ辺境伯とべジュレルート公爵が見れるということッ!?そういうことなのねッ!?)
ヴィクトリアは王家主催のパーティーで正装した三人を見ることが出来ると気付いてしまったのだ。
(アビ!?ジュストコール!?フラックも素敵ッ!!!どんな形!?何色なのッ!?!?!?はあああぁあぁ……想像が膨らむうぅ!!)
どうしてこの世界には写真や映像に残せる機械がないのかと後悔から唇を噛む。
(写真さえあれば、この日の思い出を何度も何度も見返すことが出来るというのにッ!!!!!)
いつもの姿に比べて、普段とのギャップは計り知れないのではないか。
普段からほんわかして笑顔が可愛くて、お茶目なシュルベルツ国王陛下の紳士全振りの格好を見たらどうなるだろうか……。
(間違いない。倒れるわね……)
無精髭とラフな格好が印象的なイーシュ辺境伯がキッチリとした格好をして、ちょっと窮屈そうにしている逞しい筋肉なんかを見たりした日には……。
(眼福だわ。鼻血を吹くわね……)
べジュレルート公爵の色気たっぷりで紳士淑女達を虜にするあの上品な姿が更に美しくなり、普段のとギャップを思い出したりなんかしたら……。
(神々しすぎて昇天するわね……)
鼻血を吹くなんて生優しいものでは済まない。
果たしてヴィクトリアはどうなってしまうのか。
(ーーーー蕩けるやろがいッ!!!!死んじまううぅッ)
イケおじの正装の破壊力は嫌という程に知っている。
まさしくこの世界にくる前に心待ちにしていた『イケおじの乙女ゲーム』もそういったギャップを狙って来ていたからである。
妄想だけでこれだけ美味しいのだから、実際に見たら腰砕けである。
そしてダンスを踊る前に気絶なんかした日には後悔で枕を濡らす事になるだろう。
ヴィクトリアは邸に帰ってから、侍女達の力を借りて耐性をつけようと思っていた。
(少し目と心を鍛えなければね……!取り寄せていた肖像画、早く届かないかしら)
今日の仕事を済ませたヴィクトリアは早々にバリソワ公爵邸に帰った。
すると、そこにはエルジーの姿があった。
彼女は笑顔で玄関の前に立っており、大きな違和感に眉を顰めた。
父と母も今日は機嫌がよさそうだ。
「あら、おかえりなさい。ヴィクトリア」
「お母様……ただいま帰りましたわ。今日は誰かがいらっしゃってましたの?」
「ああ、今日は久しぶりにジェイコブ殿下が来ていたんだ。エルジーを大変、気にかけてくださってね」
「エルジーの対応は素晴らしかったわ」
「私、もっと頑張らないと。お姉様みたいになれるように……」
背筋にゾクリとしたものを感じた。
やはりエルジーの様子はどこかおかしい。
「やっとエルジーがやる気になってくれて嬉しいな」
「本当ね。早くヴィクトリアに追いつけるように頑張るのよ」
「ウフフ……はぁい」
深く刻まれた隈にカサついた色の悪い唇が、不気味に弧を描いている。
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