第57話


ヴィクトリアは美しい笑顔にうっとりとしていた。


(存在自体が奇跡ですわ……!公爵を生み出してくれた作者様神様、どうもありがとう……)


ヴィクトリアはあまりの眩しさと尊さに菩薩の如く微笑んでいた。

そんな時、スッと腕が伸びて大きな手のひらが頬を滑る。

夕日に照らされた美しすぎるべジュレルート公爵の姿にヴィクトリアは目を見開いた。



「こんなになるまで遊んで……ほら、汚れがついている。まったく何をやっているのか」



口調が砕けたべジュレルート公爵の親指が汚れを拭う。

神に感謝しながら身を任せていると、公爵は突然眼鏡を取ってポケットにしまった。

眼鏡をしていても美しいのに、眼鏡を取ったらもっと美しい。

軽く息を吐き出しながら髪を掻き上げたべジュレルート公爵の印象がガラリと変わったような気がした。


(一度でなく、二度も美味しい……!!!!!)


そんな公爵の姿に手を合わせて拝んでいると……。



「そんなにこの子達が好きならば、また公爵邸に遊びに来るといい」


「いいのですか!?」


「ああ、だが……このことは皆には黙っていてくれ」


「…………はい。絶対に黙っております!約束いたしますわ」


「もし約束を破ったら……」



べジュレルート公爵の顔が、ぐっと顔が近づいて耳元に長い髪と息がかかる。

呆然としていると、彼の口から驚くべき言葉が飛び出した。



「…………どうなるか分かるな?」


「ーーーーッ!?!??」


「オレのこの姿を知ってんのは、ローガンとワイルダーだけだ。だからヴィクトリア……固く口を閉じておけ」



ニタリと歪む唇を見てヴィクトリアはすぐに悟る。


(こ、こ、これはもしかして、昔は超ヤンチャだったタイプでは……ッ!?!?!?!?)


ただ顔が美しいだけでは、ここまで女性を虜にすることはできないだろう。

様々な女性に対応出来る適応力の高さと自分の魅力を分かった上での計算された動きは場数をこなしているに違いない。

シュルベルツ国王やイーシュ辺境伯は天然だが、べジュレルート公爵は真逆で全てが計算され尽くしている。


そしてこのモフモフ天国はべジュレルート公爵が本当の姿を見せられる癒しの場なのだろう。

上品で美しく勤勉なべジュレルート公爵の裏の顔……とんでもない威力の尊さがヴィクトリアに襲い掛かる。


(厳格で勤勉なべジュレルート公爵の中身が俺様で鬼畜とか聞いてないんですけどおぉぉっ!!!?)


ヴィクトリアの性癖にクリティカルヒット。

帰り際のまさかの暴露にヴィクトリアの心臓は破裂寸前である。


すると、べジュレルート公爵の目がスッと細められる。

神々しい公爵の姿にヴィクトリアは言葉を失っていた。



「………………………」


「聞いてるのか、ヴィクトリア?」



ヴィクトリアは今すぐ叫び出したい気持ちを抑えていた。

もし、そこに山があったのなら間違いなく……。


『ーーーーギャップゥウゥゥウゥッ!!』


と、叫んでいただろう。


ヴィクトリアは顔全体を押さえて、酸素を求めて荒く呼吸を繰り返している。


(最高かよ……本当、最高かよ…………!くっそ、最高なんだよなぁ)


上品な知的イケおじかと思いきや、中身は腹黒い俺様イケおじだ。


(ブンブン振り回されたいッ!!理不尽な命令をされてみたいわッ!絶対にしてくれないでしょうけれども!!!!!!)


それにシュルベルツ国王とイーシュ辺境伯しか知らない秘密をヴィクトリアとも共有してくれた。


(これは………………勝ちでは?????)


語彙力を失ったヴィクトリアは天にも昇る気分だ。



「おい、大丈夫か?」


「…………はい。あの……ちょっと……気持ちが……想像以上に昂りすぎて、燃え尽きそうですわ」


「……………は?」



この後もべジュレルート公爵のギャップと眩しさに身を焦がしながら拝み続けたのだった。

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