第58話

* * *



べジュレルート公爵との約束を守る事でヴィクトリアは城に行くことを許可された。

朝から侍女達に手伝ってもらい準備を進めていた。


(眼鏡よし、髪もちゃんと結った……完璧ですわ!)


馬車に乗り込んでから、城への道のりをワクワクした気持ちで過ごしていた。

ヴィクトリアが馬車から降りると城の門の前には……。



「ヴィクトリア様、おはようございます!」


「ヴィクトリア様」


「……ヴィクトリア様ッ」


「皆様……!どうされたのですか」



見覚えのある大勢の人が集まっていた。



「皆、ヴィクトリア様を待っていたのですよ」


「ヴィクトリア様、お待ちしておりました」


「新メニューの味見を頼みたいんだ」


「この感じ、懐かしいですねぇ」



侍女長のココに執事のホセ、料理長とゼル医師に騎士達に侍女達。

予想外の出迎えに驚いていたが、久しぶりの再会にヴィクトリアは嬉しくなり涙ぐむ。


そのまま皆と談笑しながら城の中へ入った。

まさかこんな風に歓迎されるとは思わずに、ヴィクトリアは感激していた。



「皆様、ありがとうございます……!」



そして侍女服に着替えて、ココと共にいつもの場所へと向かう。



「お久しぶりです。陛下」


「え…………?」


「ウフフ、また寝不足ですか?」


「ま、まさかヴィクトリア……!?」


「はい!べジュレルート公爵に許可を頂きまして、また陛下のお側で働けるようになりましたの」


「…………っ」


「本日より、また宜しくお願い致します」



机に手をついて立ち上がったシュルベルツ国王は大きく目を見開いる。

そしてくしゃりと髪を掴んだと思いきや、ペタリと力が抜けたように椅子に座って脱力している。



「ところで、その格好は……?」


「わたくしだとバレないように振る舞うことが公爵から提示された条件のひとつですの。周囲の貴族達には示しがつきませんから……」


「リアムが……そうだったんだね」


「今日からはこの格好でお世話致します」



ヴィクトリアは三つ編みをして眼鏡を掛けて、三角巾を頭に巻いて髪を隠していた。

我ながら完璧な地味スタイルで、すぐにヴィクトリアとは気付くことは出来ないだろう。

一見すると普通の侍女に見えるのである。



「ヴィクトリア特製ハーブティーを持って参りました!」


「あぁ……そうだね。君がこうしてまた来てくれて僕は嬉しいよ」


「~~~っ!」



シュルベルツ国王のはにかむような笑顔に高鳴る心臓。

妄想だけではカバー出来ない、生の姿にやはり大興奮である。

すぐにココから渡されるハンカチで涎を口元を拭う。


そんな時、大量の書類を持ったべジュレルート公爵が部屋に入ってくる。

ヴィクトリアと目が合うと、微かに口角が上がった気がしたが、すぐに元の表情へと戻ってしまった。



「シュルベルツ国王陛下、これが追加の資料です」


「げっ……!でた。リアムの鬼畜ぅ……」


「……うるさいですよ」


「休憩してもいい?」


「そうですね。ヴィクトリアも来たことですし、休憩しましょう。そのあとは私も手伝いますから頑張りましょう」


「やっぱりリアムは優しいなぁ」


「全く……その間抜けな表情を外では見せては行けませんよ」


「はいはい」


「ハイは一回」 


「…………はい」



二人の会話を血走った目で盗み見ながらハーブティーを入れていた。

シュルベルツ国王とイーシュ辺境伯の会話は天然同士で可愛らしい感じだったが、べジュレルート公爵とシュルベルツ国王との会話も大変美味しい。



「これで仕事が捗りますね。陛下」


「あぁ……そうだね」


「??」



ふと、シュルベルツ国王と目があった。

柔らかく微笑む笑顔と口パクの『お か え り』を見た瞬間…………………ヴィクトリアの眼鏡がミシリと音を立ててヒビが入った。

そのままヴィクトリアはスローモーションでソファによろめいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る