第49話

「ーーーーありがとうございますッ!ですが、モカロフ公爵夫人達のべジュレルート公爵に対する気持ちには遠く及びませんわ……!」


「あなた……素晴らしいわ」


「ふふっ、わたくし達はアナタを歓迎するわ!」


「本当、素晴らしい心意気ね。ヴィクトリア」


「これからも頑張りましょう……!」


「晴れてわたくし達の仲間入りよ!」


「まぁ……!とっても嬉しいですわ」



その言葉にヴィクトリアは手をあげて喜びながら、夫人達とハイタッチしていく。

それから直ぐに持ってきた袋から、紙と羽根ペンを取り出した。



「あら……それは?」


「ファンクラブの規約やルールがありましたら、是非とも教えてくださいませっ!わたくし、メモを持って参りましたわ!!」


「「「「「…………」」」」」



あまりのガチっぷりに夫人達も若干、引き気味ではあったが、無事ファンクラブに入ることが出来たことに安堵しつつ、ご機嫌で夫人達から聞いたファンクラブの心得を書き込んだのだった。


それから有益な情報交換とべジュレルート公爵の魅力について夫人達から聞ききつつ、想像と妄想を爆発させていた。


思う存分、夫人達と語り尽くしたヴィクトリアが最高の気持ちでバリソワ邸に帰ると、父と母が今か今かと帰りを待っていた。



「あらまぁ……お父様お母様、そんなに震えてどうされたのですか?」



しかしモカロフ公爵夫人から気に入られたという証拠をヴィクトリアは持っていた。

それはモカロフ公爵が隣国からわざわざ取り寄せたというモカロフ邸にしか咲かない特別な薔薇だった。



「ヴィ、ヴィクトリア……まさかその薔薇は!」


「モカロフ公爵夫人に頂きました。話が盛り上がりすぎて、すっかりと帰りが遅くなってしまいましたわ……!」


「「…………」」



ヴィクトリアは艶々の肌を押さえて満面の笑みを浮かべていた。

それからもモカロフ公爵夫人から預かった手紙を母に渡して、お土産にと頂いた薔薇ジャムを父に渡す。

これでヴィクトリアが夫人に気に入られたことが分かるだろう。



「こ、これは……!」


「お姉様方には大変良くして頂けましたわ。今日持って行ったお菓子も御夫人達に気に入って頂けましたし、良かったですわ」


「お菓子……?」


「パティスリーローズの焼き菓子を持って行ったのですわ!」


「あそこの焼き菓子は今、予約制でかなり待たなければ手に入らないはずだぞ!?」


「今日、明日で買えるものではないのよ!?何故貴女が……」


「料理長の弟の店なのですわ!新作の味見をした御礼に頂いたのです」


「………料理長?城のか!?」


「味見……?ヴィクトリアが……!?」


「はい、そうですわ!わたくしは確認しなければならないことがありますので、もう部屋に戻りますわ……!」


「あ、あぁ……」


「……わかったわ」



呆然としている父と母の横を通り、ヴィクトリアは足早に屋敷に入る。

鼻唄を歌いながら歩いていると、後ろから聞こえるドタドタという足音と荒い息。


(……今更、何の用かしら。まぁ、大体は想像出来るけど)


部屋の中まで入られては困ると、ヴィクトリアが足を止めると、待ってましたと言わんばかりに地味なドレスを着たエルジーが駆け寄ってくる。



「ーーー話があるの!!今すぐわたしの部屋に来てよッ!」



ヴィクトリアの前に立ち塞がるように現れたのは、目の下に深い隈が刻まれていて、ボサボサの朱色の髪をしたエルジーだった。

久しぶりに見たエルジーは以前よりも痩せこけて覇気がなくなってしまい、自信たっぷりの笑みを浮かべていた数ヶ月前とは別人のようだ。



「いきなり部屋に来いだなんて、どういうつもりかしら……?」


「いいから早く来なさいよッ」


「残念ながらわたくしは忙しいの。話があるならここでして頂戴」


「……ッ!?」



苛々した様子でエルジーがヴィクトリアを睨みつけている。


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