第48話

(なるほど……わたくしがべジュレルート公爵を狙っていると思われているから、こんなに敵視されているのね)



「それは事実です。ですが、わたくしは今日、べジュレルート公爵のファンクラブに入りたいと思い……」


「そうすれば、わたし達がべジュレルート公爵に近付く事を許可すると思って?」


「中途半端な気持ちならば、わたくし達は容赦致しませんわよ?」


「わたし達の願いはべジュレルート公爵が、自分の意思で相手を選ぶこと……」


「そうですわ!薄汚い気持ちで、彼に近づかないで頂戴ッ」



怒りを露わにする夫人達の話を聞いた後でもヴィクトリアは笑みを崩さない。



「父と母は、確かにわたくしの婚約者を探しております」


「ほら、やっぱり」


「復讐の為にべジュレルート公爵を弄び利用するような真似は、絶対にあってはなりませんわ!!」


「いいえ、そのようなつもりは」


「どうだか……!」


「ここでわたくしが何を言っても、信じてもらえないかもしれません。ですが、わたくしの熱い思いを皆様に伝えることは出来ると思うのです……!」


「熱い、想いですって……!?」


「そんなものでわたくし達が靡くと思いまして?」


「その前に、此方をどうぞ」


「これは……?」


「今、御夫人たちの間で人気だと聞きましたわ」


「これは……!予約がとれないというあの店の!」


「一度、食べてみたかったのよ」


「美味しそうね!」



パァっと表情が明るくなる夫人達。

今の流れを黙って見ていたモカロフ公爵夫人が口を開く。



「……おやめなさい」



その声と同時に、周囲の婦人達がピタリと静かになった。

モカロフ公爵夫人だけは、厳しい表情のままだ。



「そんなものにわたくしは騙されないわ」



その言葉に他の婦人達もサッと手を離した。



「先に……あなたの話を聞かせていただこうじゃない?」


「はい、勿論ですわ……!是非、わたくしの思いの丈を聞いて下さいませ」



ヴィクトリアはキラキラと瞳を輝かせた。

こうして今は敵視されてはいるが、それをひっくり返した時こそ、ヴィクトリアの信頼は高まるのではないだろうか。


そして、こうして同じ『好き』という気持ちを共有出来る。

これ以上、素晴らしい喜びはないだろう。

友達の好きな人はみんな、同い年や年上と言っても少しだけ上の男性が大半を占めていた。

今まで寂しい思いをしてきたが今、ここにいる夫人達はべジュレルート公爵が好きなのだ。


(こうして遠慮なくイケおじについて語れる日が来るなんて……!)


ヴィクトリアは大きな息を吸い込んでからカッと目を開いた。



「ーーーわたくし、根っからのピーーーで、ピーーしか愛せませんのッ!!それにピーーーをピーーしてピーーーするくらい好きで、大好きなのです……!!!!!」


「「「「………」」」」


「ピーーーーでピーーーで、それに埋もれてもいいくらいですわッ!あ、勿論これでも抑えておりますのよ?勿論、シュルベルツ国王にイーシュ辺境伯とべジュレルート公爵のピーーーとピーーーも聞きましたし、バッチリですの!!是非ともこの気持ちを共有したいとずっと思ってましたの!それから、それから……っ」



夫人達は絶句していた。

ヴィクトリアの口から次々に流れる想像以上の熱意と愛。


部屋にはヴィクトリアの『ピーーー』が、響き渡っていた。


ノンストップで語られるヴィクトリアの『おじ様』に対する愛に、息を吸うことも忘れるレベルだ。



「ですから今は、シュルベルツ国王やイーシュ辺境伯、べジュレルート公爵、三人を推しておりますわ!!以前もわたくしは……ッ」


「「「「「……………」」」」」



夫人達のキョトンとした顔を横目にヴィクトリアは今まで溜め込んだ想いを思う存分、語り尽くしたのだった。



「はぁ……はぁっ、わたくしの愛、伝わりましたでしょうか?」



荒く息を吐き出しながら、ヴィクトリアは問いかける。

その言葉にハッとした夫人達は満面の笑みを浮かべて親指を立てた。



「「「「「合格ッ!!!」」」」」

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