第47話
手紙を送ってから数日後、ヴィクトリアはモカロフ公爵邸に行く為の準備を行っていた。
ファンクラブに入りたいと熱い想いを語った手紙を送ると、モカロフ公爵夫人からすぐに返信が届いた。
内容は至ってシンプルだった。
『うちの屋敷にいらっしゃい』
その文面を見ただけで侍女達は震え上がっていた。
モカロフ公爵夫人は誰からも恐れられる社交界のご意見番で、彼女に逆らったものは、二度と表に出てこられないという噂があるほどらしい。
ちなみにモカロフ公爵は夫人とは逆で、人当たりがよくコロンとした体型にニコニコしている穏やかで可愛らしいおじ様である。
「今回は地味で、夫人達からの印象がいいように露出はかなり少なめでお願い。メイクも地味、リップも地味」
「髪はどうされます?」
「ストレートでいいわ!ドレスも……うーん、この辺が無難かしら」
「アクセサリーは……」
「「「「小ぶりのダイヤ」」」」
「それかパールですよね!」
「アハハハ~!」
「ウフフ、やっぱりわたくしの侍女達は最高よ!!!」
夫人達のウケがいいように外見を整えて準備していた時だった。
侍女達の顔が曇り、あることを話してくれた。
「最近、エルジーお嬢様の侍女達が次々に辞めていっているみたいですよ。それかヴィクトリア様付き侍女になりたいって……」
「あら……それは感心しないわね」
「わたし達も、もしかしたらエルジー様の元に……っ!」
「……わたくし達はヴィクトリア様の側にいたいのにッ!」
「あぁ…それに関しては心配しなくても大丈夫よ。わたくしが貴女達を守ってみせるから。というよりは、こんな事もあろうかと、お父様やお母様に先に釘は刺してあるのよ?安心して頂戴」
「ありがとうございます……っ!」
「大好きです!ヴィクトリアお嬢様ッ」
「一生ついていきますからッ」
「まぁ、ありがとう!」
ついに周囲にまで影響が出始めたのだろう。
エルジーの八つ当たりに耐えられずに侍女が逃げているようだ。
着々とエルジーは追い詰められている。
しかしヴィクトリアは今から失敗できない『戦い』に出るのだ。
エルジーどころではない。
「お父様やお母様から、もし何か言われたら、わたくしにすぐに知らせてね」
「「「はい!」」」
「さぁ……出陣よッ!!!!!」
「「「いってらっしゃいませ、ヴィクトリアお嬢様」」」
手土産を持って、ヴィクトリアは馬車に乗り込んだ。
父と母にモカロフ公爵邸に行くことを伝えた際には「絶対に粗相をするんじゃない!」「一体、何をやらかしたの!?」と何度も言われたのだが「問題ありませんわ」と一蹴した。
それとべジュレルート公爵から『城に来るな』と手紙に書かれていることを知るや否や「誰の怒りを買ったの!?」と根掘り葉掘り聞かれたヴィクトリアは「バリソワ公爵家に恥じないように動くことを誓いますわ」とニッコリと笑いながら言うと、その言葉に二人は押し黙ったのだった。
要は実害が出ず、公爵家の名に傷がつかなければいいのだ。
(……失礼がないようにしなくちゃね)
モカロフ公爵邸に着いて、ヴィクトリアはゆっくりと馬車を降りた。
案内されるがまま長い廊下を進んでいく。
(ヴィクトリアならば絶対に大丈夫……そう思えるわ)
目の前の大きな扉が開いた。
そこにいたのは社交界の重鎮ともいえる錚々たるメンバーの姿があった。
(一瞬も気を抜けない緊張感とこの威圧感で足が震えちゃう……!でも今からべジュレルート公爵について語り合えると思うと興奮するわ)
予想通り、ヴィクトリアを見る視線は些か……いや、かなり厳しいようだ。
「本日は、お招き頂きありがとうございます。ヴィクトリア・バリソワでございます」
「……噂には聞いてるわ」
いつの間にか囲まれるようにしてヴィクトリアの周りに夫人達が立っている。
「……ジェイコブ殿下を妹に譲ったそうじゃない」
「そして今は婚約者を探していると噂で聞いたのだけど……」
「それもかなり年上の男性をねぇ……?」
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