第50話
「お姉様にお願いがあるのッ!」
「お願い……?」
「お父様とお母様にこの話を聞かれたらッ、こんなところにいるってバレたらマズイのよ!!お姉様なら分かるでしょう!?」
「……。わたくしは別に困らないわ。ここで話せないのならもう行きますわ……わたくし部屋で、先程学んだことを復習したいのよ」
「くっ……単刀直入にいうからよく聞きなさいッ!!」
なんとも悪役令嬢らしいセリフだと思いながら、ヴィクトリアは「何かしら?」と答えた。
今からエルジーが何を言うのか、手にとるように分かってしまう。
「ーーージェイコブ殿下と公爵家をお姉様に返してあげる!!」
「ブフォッ……!!」
「な、なにがおかしいのよ」
「ゴホン…………いいえ、ごめんなさい。続けて頂戴」
あまりにも想像した通りのセリフを言うものだから、思わず吹き出してしまった。
「もうこんな生活うんざりなの!!あの男も公爵家もわたしは要らないッ!!要らないのよ……っ!お姉様にとっても悪い話じゃないでしょう!?」
「…………」
「だって……だって!ジェイコブ殿下は本当にっ……何の役にも立たないし、お父様とお母様だってあんな風に別人みたいになってわたしを責めるのよッ!?わたしはっ、わたしは本当は……!こんなはずじゃなかったのに……ッ」
「…………」
「お姉様が公爵家を継げばいいのよ……!そうすれば今まで通りッ!!もう、こんな生活耐えられないッ」
ヴィクトリアが冷めた視線を送っていることにも気付かないのか、エルジーは必死に訴えかけている。
どうやらヴィクトリアから奪い取ったものは、もういらなくなってしまったようだ。
(…………呆気ないわね。これでラクレット殿下を狙っていたというのも驚きだけれど)
そこには謝罪も反省もない。
あるのは自分の理想通りじゃない悔しさと『もう嫌だ』という気持ちだけだろう。
「結構よ」
「え…………?」
「だから"要らない"と言っているの」
「な、何言って……」
「わたくし、今の生活がとても気に入っているの。ジェイコブ殿下もバリソワ公爵家も今のわたくしにとっては必要ないわ」
「は…………?」
エルジーは信じられないと言いたげに、目を見開いている。
何故、こうも平然とヴィクトリアに擦り付けようとするのか。
問いただしたいところではあるが、今のエルジーには何を言っても無駄だろう。
「自分で欲しがっておいて、おかしなことを言うのね」
「……っ!!」
「責任を取りなさい。最後まで……ね?」
エルジーが握る拳はブルブルと震えている。
「何よッ!急に……っ!こんなのおかしいでしょう!?アンタこそ責任を取りなさいよッ!!」
「…………はい?」
「わたしがこんなにお願いしてるのにっ、こんなに苦しんでいるのに…………っ、どうして助けようとしないの!?」
ヴィクトリアが首を傾げていると、エルジーの後ろの角の部分に見覚えのある人影が見えた。
(あらあら……まるで漫画のようなタイミングね)
ヴィクトリアは思った。
これ以上はもうやめた方がいいだろうと。
エルジーが潰れてしまえば、ヴィクトリアが再び選ばれてしまう可能性もある。
年上の男性に嫁ぐことは望んでいても、公爵家を再び継ぐ立場になれば、二十歳以上年上の男性と添い遂げることはまず不可能になってしまう。
「もう宜しいかしら?」
「ダメよッ」
「わたくし、お部屋に戻りたいのだけれど……」
「わたしがまだ納得してないもの!!!」
「それこそお父様とお母様に言って下さる?どちらにせよ、二人の許可が必要でしょう?」
「そんなこと……!そんなこと言えるわけないじゃないッ」
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