第41話


「さぁ……満足したのなら腕と足を出せ」


「え……?足、ですか?」


「あの時、足も擦りむいていただろう?」


「…………気付いて、いたのですか?」


「あの家族や騎士を気遣っていたのだろう?」


「……………」


「無理をさせてすまなかった。もっと早く手当てするべきだが……腕を出してくれ」



そう言うとイーシュ辺境伯は立ち上がり、消毒液や包帯を取りに向かった。

綿につけて消毒を行った後、丁寧に包帯を巻いていく。



「……傷が残らなければいいのだが」


「大した事、ありませんのに……」


「未婚の令嬢がそんな事を言うものじゃない」



その言葉にピンと反応をする。



「イーシュ辺境伯は、結婚なさらないのですか?」


「面倒はごめんだ……それに俺には貴族の女性の気持ちは分かってやれないからな。それに、こんな見た目だしな」


「素晴らしいではありませんか!全てがッ」


「……そう思っているのは、恐らくヴィクトリアだけだ。ほら次は足を出せ」


「あのぅ……優しくしてくださいませぇ」


「…………。いやらしい声を出すな」



スカートで隠れていた部分に手当てをしてもらっていると、

一切の下心なく、こちらの心配と配慮しながら淡々と手を動かすイーシュ辺境伯にヴィクトリアは感動していた。

しかし全く女性として意識されていないのなら「押すしかねぇ!!」と思ったヴィクトリアは踏み込んだ質問を投げかけた。



「わたくしのようなタイプはいかがでしょう!?」


「…………………は?」


「わたくし、イーシュ辺境伯について教えて欲しいことが沢山あるのです!」



これでイーシュ辺境伯の好みや好きなことを根掘り葉掘り聞き出せると思っていたヴィクトリアの元に、慌ただしい足音が聞こえてきた。


ーーーーバンッ!!



「ーーーーヴィクトリアッ!!」



そこに現れたのは予想外の人物だった。



「シュルベルツ、国王陛下……?」


「ワイルダー、どうしたんだ?」


「ココにヴィクトリアが怪我をしたと聞いて、それで……!」


「ただのかすり傷ですわ」


「…………普通の令嬢ならば大騒ぎだろう?」




シュルベルツ国王はその言葉を聞いてホッと息を吐き出した。

しかしその後ろから現れた人達にヴィクトリアは目を見張る。



「ーーーなっ、何やっているんだッ!!は、はっ、破廉恥だぞ!?」


「……あら、イライジャ殿下」


「イーシュ辺境伯に剣の稽古をつけてもらおうと待っていたのですが……お邪魔でしたか?」


「「…………」」



顔を真っ赤にしているイライジャの後ろから冷静に顔を出したのはラクレットだった。

その言葉を聞いて、改めて二人で今の自分達の状況を確認する。


ヴィクトリアはベッドに腰掛けて片足を出して、イーシュ辺境伯は膝をついてヴィクトリアの足を太ももに乗せている。

見方によっては特殊なシュチュエーションに見えるのだろうが、二人はそれに全く気付かない。



「「手当を……」」

「しているだけだが?」

「してもらっているだけですわ」



奇跡的に声がシンクロする。



「一体、何があったんだ……?でも、ヴィクトリアが、元気そうでよかったよ」


「まぁまぁまぁ!!!シュルベルツ国王陛下がわたくしを心配して下さってますわッ!イーシュ辺境伯、聞きまして?」


「あぁ、聞いた聞いた……よし、これで終わりだ」


「ありがとうございます!!御二方に心配して頂けるなんて、今日はなんていい一日なのでしょう……!」


「……本当に大丈夫なのかい?」


「うふふ、大丈夫ですわ!それよりも……わたくし、陛下とお話したいことがありますの」


「えっと……ヴィクトリアの無事は確認出来たし、僕はこれで」


「ーーーお待ちくださいッ!!逃がしませんわよ?」



一瞬で移動したヴィクトリアは、ガッシリとシュルベルツ国王のジャケットを掴む。

それと同時に大きく肩が揺れた。



「ヴィクトリア……その。どこまで……」


「ホセさんから、さっくりと聞いておりますわ……!」


「!!」

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