第42話
「ちゃんと睡眠は取らなくては仕事の効率は落ちますわよと何度も何度も申し上げましたのに!質の良い睡眠は大切ですわよ!それからホセさんを困らせてはいけませんッ!どうせまた"あと少しだけやったら休むよ"とでも言って朝まで机に向かっていたのでしょう!?にしては、今日はまだ顔色は良さそうで安心ですけれども、陛下にはいつまでも元気で居てもらわねばいけませんのに……!体調を崩した後では無理はできませんのよ!?あと、サンドイッチは残さずきっちりと食べましたか?」
「ヴィ、ヴィクトリア……僕はっ」
ヴィクトリアの猛攻にたじたじな父親の姿を見ていたラクレットとイライジャは大きく目を見開いている。
母が亡くなってから、自分達がいくら言っても、休む事なく働き続けていた父の健康をこれでもかと心配しているヴィクトリアの姿が驚きだったのだろう。
「ふっ……ハハッ!」
「イーシュ辺境伯……?どうされましたか」
滅多に声を上げて笑うことのないイーシュ辺境伯の笑顔にラクレットとイライジャはこれでもかと口を開けている。
そしてヴィクトリアもすかさずその笑顔に反応してシュルベルツ国王を逃さないように肩を掴みながら、グリンと首を動かしてイーシュ辺境伯を見て感動していると、それに気付いた彼はゴホンと咳払いして、元の表情に戻ると二人に向き直る。
「……ラクレット殿下、イライジャ殿下。待たせてすまない。すぐに向かうから先に向かって準備していてくれ」
「は、はい!」
「……はい」
その言葉にラクレットは小さく頭を下げ、イライジャは珍しく困惑しているのか複雑な表情を浮かべて去っていった。
ヴィクトリアは二人のチクチクとした視線を感じながらも、イーシュ辺境伯とシュルベルツ国王と同じ空間に存在出来る事に感激していた。
(わたくしの視界に、二人の美しいお・じ・さ・ま……最ッ高ッ!!!!!)
しかしイーシュ辺境伯はこれから王子二人の相手をしなければならない。
ヴィクトリアはもっとこの時間を堪能したかったが、イーシュ辺境伯をこれ以上、引き留めるわけにはいかない。
丁寧に腰を折り、御礼を言う為に口を開いた。
「イーシュ辺境伯、今日は色々とありがとうございました」
「こちらこそ。ヴィクトリアには感謝している」
「え……….?」
「騎士の事もそうだ……それに、あんなに美味いサンドイッチは今まで食べたことがなかった。ありがとう」
「~~~はいっ!!!」
一見すると体格もよく強面で近寄りがたいが、心優しく気配りが出来て素直で純朴なイーシュ辺境伯を益々と好きになった。
恐らく人柄を知っている領民達からは、英雄並みの人気なのだろうと確信したヴィクトリアは瞳を輝かせて手を合わせていた。
「ワイルダーの事もそうだ。ヴィクトリアの言う通りだぞ?無理をしすぎるのはよくない」
「いやー……あはは」
「リアムから手紙が送られてくる度に、剣を交えながら説教してやろうと思っていた」
「うっ……それは勘弁してくれ」
「ならば、しっかりと俺達の上に立ち続けてくれ」
「あぁ、勿論だよ」
「…………ッ!!!!!!?!?!」
ヴィクトリアはあまりの尊さに口元を押さえて壁をバシバシと叩いていた。
「はひ……!」
「どうしたんだい……?」
「どこか具合でも悪いのか?」
「いえ……あまりにも供給が多すぎて、爆発しそうなだけですわ」
「「…………?」」
戸惑う二人に「続けて下さいませ」と、言うと二人は不思議そうにしながらも話を続けた。
「ワイルダー、続きはまた今夜だ。いつものように部屋に行く」
「ああ、待ってるよ。今日はリアムも来られるみたいなんだ」
「本当か?それはよかった」
「久しぶりに美味しい酒が飲めそうな予感がするんだよね」
「程々にしろよ?」
「あはは、ローガンは心配性だなぁ」
リアム、はべジュレルート公爵。ローガン、はイーシュ辺境伯。ワイルダー、はシュルベルツ国王の名前である。
(ーーーー尊ッ!!!!!!!!)
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