第26話
ラクレットの大きな声と共に右肩を掴まれて足を止めた。
「……………何か?」
ヴィクトリアは振り向かずに、そのままの状態で答えた。
「まだ明確な答えを聞いていないぞ……!」
「……………」
「わっ、分かったぞ!父上のジャケットを大切そうに握りしめているってことはヴィクトリアは、父上を狙っているんじゃかいか!?」
イライジャが慌てて声を上げるが、この流れはラクレットの時と同じ流れだろう。
そしてラクレットが掴んでいる肩に力が入ってひっくり返されると、扉に背があたる。
逃げられないようにラクレットはドンッと腕をついた。
これが乙女ゲームや少女漫画ならば、キュンとする場面だろうが、ヴィクトリアは頬を赤らめるどころか逆に顔を近付けて戦闘体制を取る。
唇が触れてしまいそうな距離でも動じないのは流石といったところだろうか。
イライジャはヴィクトリアをチラリと見るが、胸元に視線がいくようで恥ずかしそうに必死に目を逸らしている。
「……父上に媚を売って何をするつもりかな?」
「おい、お前……!白状した方が身の為だぞ!?」
「………………」
「もし王家に害なすつもりならば……」
反撃とばかりに迫り来る二人の王子……しかしヴィクトリアはもう、我慢の限界である。
大きく大きく息を吸い込んでラクレットの耳元で口を開いた。
「ーーーったく、うるっせぇですわね!!三十年後に出直してこいやッ!このピーーーーー共がッ!!」
「「!?!?!?」」
どすの利いた大声に、ラクレットはマネキンのように固まっている。
そしてイライジャは声が出ないようだ。
その隙に腕を振り払ってから、ラクレットを睨み上げた。
「本当に鬱陶しいわ……!引き際も分からないのかしら?」
「「…………」」
「その耳をかっぽじって、今からわたくしの言うことをよーーーーく聞いてくださいませ!?この際だからハッキリと申し上げておきますわッ!!!!わたくしは純粋に、陛下やイーシュ辺境伯やべジュレルート公爵のような素敵なおじ様を崇拝しているのです!!!ピーーでピーーで夜も眠れずにピーーーーになってしまうくらいに、お慕いしていますのッ!だからエルジーとジェイコブ殿下が結ばれてバリソワ公爵家から解放された今、わたくしは人生で一番楽しい時間を過ごしているのですッ!止められる者などどこにもおりませんわ!!!!!!」
「「…………」」
「ゴホン…………なのでこれ以上、無粋な詮索はやめて下さいませ。それに、わたくしは陛下の負担が軽くなるようにお手伝いしていたのです」
「父上の、手伝いだと……?」
「えぇ、先程も徹夜で書類を片付けていた陛下の凝り固まったお身体を解そうと、隣国の技術を駆使してほぐしてきたばかりです。汗で透けてしまった服に気づいて下さった陛下がジャケットを貸して下さり、感動と幸せのあまり気絶してここに運ばれてきたのですわ!!疑うのなら確認してくださって結構です。侍女長とゼル医師がわたくしの証人ですから!!
「「…………」」
「そこに悪意も復讐も企みもありません………あるのは『愛』だけですわ」
「…………!」
「あ、い……?」
「そうですわ!!陛下には、もう申し上げておりますが、わたくしは歳上の男性がそれはそれは死ぬほど大好きですの……!ああ、陛下を狙っているという言葉に関しては否定できませんわね!狙っておりますわ!!堂々とッ!下心満載ですわッ!」
ヴィクトリアの言葉は流石に予想外だったのだろう。
二人は驚いているようだ。
しかしこれ以上、二人と話すことはないとヴィクトリアは愚痴を呟きながら扉を開く。
「全く……!一から十まで説明しなければ分からないなんて。乙女の秘密に土足でズケズケと……あり得ませんわ」
「…………」
扉を閉める前、ヴィクトリアは首をグリンと動かして、最大限に目を大きく見開きながら二人に忠告する為に口を開いた。
「…………もしもわたくしの邪魔をなさるつもりなら、それ相応の覚悟を持って下さいまし。いつでも受けて立ちますわ」
「「…………」」
「では、失礼致します。ごきげんよう」
大きな音を立てて扉が閉まる。
ラクレットとイライジャはあまりの出来事にそのまま立ち尽くしていた。
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