第25話
なんの因果か俺様で自由人の第二王子、イライジャの登場である。
(ああ、神様……!これはシュルベルツ国王のジャケットを堪能してはいけないというアナタからの試練なのかしら)
ヴィクトリアの額に青筋が一本、また一本と増えていく。
こうやって時間が過ぎていけば、ジャケットの鮮度と匂いは着々と落ちていくというのに……。
(許さねぇ……!許せねぇ、絶対に)
ヴィクトリアが心の中で恨み言を唱えている間も、イライジャのデリカシーのない絡みは激しくなっていく。
ヴィクトリアとラクレットが同い年の二十歳。
イライジャが十七歳、ジェイコブとエルジーが十六歳である。
イライジャは素直で貴族らしからぬ行動や言葉遣いは荒っぽく見えるが、人見知りもなく距離の詰め方が上手い。
それが令嬢達には親しみやすく人気もある。
明け透けな言葉は彼のキャラだから許されるのだろう。
しかし悪く言えば子供っぽく自分のことしか考えてない。
つまりは理性的で紳士なおじ様達とは真逆な立ち位置である。
ヴィクトリアの苦手なタイプと言っても過言ではない。
「イライジャ、待て……!今までのヴィクトリアとは何かが違うんだ」
「今までの?何も変わらねぇように見えるけどな」
「……………」
「相変わらず怖いくらいに美人だけど詰まらなそうな顔してるなぁ」
「イライジャ……!お前はいつも口が過ぎると何度もっ」
「兄上もヴィクトリアも固い固い……!巷では、妹に公爵家と婚約者を取られた可哀想な令嬢だって噂されてるぜ?」
「…………」
「もしかして侍女の真似事でもして、その準備をしているのか?」
「おいッ……!」
「だって、城の侍女の服着て働いているんだろう?」
どうやらラクレットとイライジャと解釈や考え方は全く違うようだ。
ヴィクトリアがどこで何を言われても構わないが、城にいる間、こんな風に毎回毎回絡まれるのは正直言って鬱陶しい。
ヴィクトリアは痛んだ指をほぐすように、手首や指を動かしながらポキポキと鳴らしながら考えていた。
「先程、ラクレット殿下にお話しした通りですわ。同じことを二度言うのも面倒なので、詳しくはラクレット殿下から聞いてくださいませ」
「なんだそれ、意味分かんねぇ」
「…………イライジャ殿下」
「な、なんだよ……?」
「口は災いの元……という言葉はご存じかしら?ご存知ありませんわよねぇ?」
イライジャは何の事だがと言うように目を丸くしている。
そして、ヴィクトリアは、はだけた胸元のままイライジャにグッと顔を近づけた。
胸元に気付いたのか、カッと赤くなるイライジャの頬。
(……自由に振る舞っているわりには、女性経験は少なめかしら。このくらいで動揺するなんてね)
ラクレットはその様子を見て、目を見張った。
「なにを!?」
「なっ……」
背伸びをしてイライジャの顔にそっと手のひらを添えてからスルリと撫でる。
うるさい唇を親指で撫でれば、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
「ウフフ…………煩い口が、やっと静かになりましたわね」
「ヴィ、クトリア……?」
そのままイライジャを睨み上げながら答えた。
「わたくしは復讐にも、公爵家にも貴方達にも……これっぽっちも興味がありませんの。それと殿下達やジェイコブ殿下に危害を加えることは絶対にありませんわ。陛下が悲しみますもの……だからご安心下さいませ」
「どういう、事だ……?」
「ああ勿論、自滅する場合は別ですけれど……ウフフ」
「「…………」」
屋敷でのエルジーの様子を見れば、ジェイコブが現実を知るのも思ったよりは早そうだ。
そのまま手と体を離した。
呆然としているイライジャとハッとするラクレットを他所に、パッパッと簡単に乱れた衣服を払ってから、大切に大切にジャケットを持って出口に向かって歩き出す。
「ーーー待てッ!」
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