第17話


どうせ探すならと、ヴィクトリアはこの二人に言っておかなければならないと口を開いた。



「今更、令息を探すにはもう遅すぎますわ……皆、婚約者がおりますから」


「…………っ」


「ですがもしも、お父様とお母様がわたくしの幸せを願ってくれるのならば……!一つだけお願いがありますの」


「な、なんだ……?」



ヴィクトリアに釣り合う家柄の令息はもう婚約者がいる事だろう。

だけど今のヴィクトリアにとって、そんな令息達の元に嫁ぐ事が幸せなのかと問われたらノーである。

両親には現実を思い知ってもらったこのタイミングで言わなければならないのだ。

ヴィクトリアは大きく深呼吸をしてから、カッと目を見開いた。



「ーーー最低でも二十歳、欲を言えば三十歳以上年上の男性にして下さいませッ!!!」


「「!!?!?」」


「それだけは絶対に譲れませんッ!わたくしはそんな素晴らしい男性の元に嫁ぎたいのですわ!」


「なっ……何を言っているんだ、ヴィクトリア」


「中途半端な令息に嫁ぐくらいならば………わたくし、潔く平民になりますッ!!!!!」


「「………………」」


「わたくしからは以上ですわ!では明日から城に行って参ります」



目を見開き、口をあんぐりと開けている両親に、完璧な挨拶をしてからヴィクトリアはスキップをして歩き出した。



次の日、ヴィクトリアは城に通う準備を始めた。


ゼル医師の口添えがあったからかヴィクトリアはスムーズに城の中へ。

そして怪訝な顔をしている侍女長に連れられて、案内を受けた後、侍女達の前に立っていた。



「おはようございます。本日から宜しくお願い致します……!」


「ヴィクトリア様……ゼル医師から陛下の為に、と伺いましたが、本当に宜しいのでしょうか?」


「はい。勿論ですわ!」


「ですが、この仕事は……」


「皆様のご迷惑にはならないように気をつけますわ」


「いや、そういうことではなくてですね……」


「仕事の邪魔は致しません!わたくしもなるべく早く仕事も覚えますので、ご指導の程、宜しくお願い致します」


「「「「…………」」」」



ヴィクトリアは満面の笑みで頷いた。

支給された侍女服は、動き易くてドレスよりも着心地がよい。

しかし、コソコソと嫌な話し声が聞こえてくる。

やはりヴィクトリアの行動が不可解に見えるのだろう。


もうエルジーとジェイコブの婚約が結び直された事は、城に住む者ならば誰だって知っているだろう。

ヴィクトリアがどんなつもりでこんな事をしているのか、大体の想像がつくからこそ気不味いのだろう。


(復讐の為に陛下に近づこうとしている……とか思われているのでしょうね)


しかしヴィクトリアは、城で働くおじ様達とシュルベルツ国王と触れ合うことが目的である。


(信頼を勝ち取る為に、やる事は沢山あるわ……!フフッ、まずは周りから固めていかないとね)


ヴィクトリアは貴族の令嬢としては完璧だ。

だが侍女の仕事が出来るかといえば、勿論やった事がないので出来ない。

だからこそ城で働く侍女達も、ヴィクトリアに不信感があることだろう。

しかし、今……ヴィクトリアには前世の記憶がある。


(一通りの家事は出来るわ!おじ様達に尽くす為に……!)


いつか……おじ様と添い遂げる為に家事能力を高め、介護の資格を働きながら取得したヴィクトリアに死角なしである。

最強の貴族令嬢に家事スキルがプラスされた。

侍女の仕事も慣れればすぐにこなせるだろう。


(これで陛下に尽くせるわ……!)



「では、陛下の元へ紅茶と朝食を持っていきましょうか」


「分かりました」



侍女長から一通り仕事の説明を受けて、ワゴンを引いていく。

コンコンと扉を叩く音……もしかしたらシュルベルツ国王の寝顔が見られるかもしれないとワックワクで部屋の中へと入ると……。

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