第16話

「勿論ですッ!こんなにも真剣に陛下の心配をしてくださるヴィクトリア様に協力致しますとも……!」


「まぁ……!嬉しいですわ」



ここでシュルベルツ国王の健康を守り、ヴィクトリアが株を上げれば、間違いなくイーシュ辺境伯とべジュレルート公爵の株も同時に上がるのではないだろうか。

これは一石二鳥どころか、三鳥が飛び出してパラダイスである。


(そうなったらシュルベルツ国王も幸せ。わたくしも皆様も幸せ……!)


そうと決まれば作戦実行である。



「ゼル医師……わたくしはシュルベルツ国王の健康を守るあなた達の働きにとても感謝しております。心からッ、そう……心から応援しておりますわ」


「ヴィクトリア様っ……そんなに私達のことを!」


「えぇ、いつも陛下の健康を見守ってくれているゼル医師は……わたくしにとっては神も同義。感謝しております」


「……!」


「なのでわたくしもゼル医師と共に、この城で働きながら陛下を支えていきたい…………勿論、難しいことは百も承知ですわ。ですが、わたくしの熱意を理解してくれたゼル医師ならば分かって下さりますよね?」


「分かります……!」


「…………口添え、して頂けます?」


「勿論ですともッ!」



(ーーーーイヨッシャアアアアアアアア!!!)


持つべきものは城で働く古株のおじ様の権力とコネである。

そして間違いなくヴィクトリアに追い風が吹いている……そんな気がした。




* * *




そしてヴィクトリアは城で働く為に奔走する為にバリソワ邸に帰った。

父と母の元に向かい「城で働きたい」と笑顔で報告すると、父は凍りついて母はヴィクトリアのその言葉にフラリと倒れ込んだ。



「ヴィ、ヴィクトリア……!何を言っているんだ」


「わたくし、陛下の為にお手伝いをしたいのです!これは国の安寧に繋がる……そうは思いませんか?」


「なっ……な、にを!?」



あまりにも突拍子もないヴィクトリアの行動に両親は言葉も出ないようだ。

公爵令嬢であるヴィクトリアが城で働くなど、そもそも前例もなく、あり得ない事だろう。

しかしヴィクトリアは常識を踏み潰して、前に進まなければならないのだ。



「という事で、わたくしは暫く城で働かせて頂きますね」


「そんな事をしたら周囲から何を言われるか……ッ!」


「そうよ!バリソワ公爵の娘が侍女のように働くなんて、あり得ないわ……!ヴィクトリア、あなたなら分かるでしょう!?」


「えぇ、分かりますわ」


「なら…………」


「ですが、わたくしは今まで出来なかった事をやりたいのです。それに……わたくしにお父様とお母様の気に入るような結婚の申し込みは来ていないのでしょう?」


「…………!」


「……っ」



その言葉に表情を曇らせていた両親に、ヴィクトリアはニッコリと微笑んだ。


婚約は解消されて一週間。

『第三王子を妹に取られた人形令嬢』の話は、瞬く間に社交界に広がった。

どこから話が漏れたのか……様々な憶測が追加されていた。

それに悪い噂が広まるのは、あっという間だった。


父と母はヴィクトリアの嫁ぎ先を探し始めたが、今のところ来るのは男爵家に子爵家の次男……しかしそれではバリソワ公爵家のプライドが許さなかったのだろう。



「もう少し待っていてくれ……!必ず嫁ぎ先を探し出してみせるから」


「あら、無理をなさらないで下さいませ」


「でもヴィクトリア、もうあなたは……急がないとっ」



そう、ヴィクトリアはいい家に嫁ぐには年齢が行きすぎていると言いたいのだろう。

確かにこの世界では二十歳となれば、もう嫁いでいてもおかしくない年齢だ。


(お父様とお母様は、バリソワ公爵家に相応しい嫁ぎ先が見つけるつもりなのね……でもまだまだこの状況では無理でしょうね)

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