第5話
「ですが、王家との関係を考えればエルジーとジェイコブ殿下にバリソワ公爵家を任せた方が宜しいのではないでしょうか?」
「だが、ヴィクトリア……!」
「あなたはバリソワ公爵家を継ぐ為にあんなに努力してきたのに……」
父と母は悲しそうに眉を寄せる。
エルジーはそれを聞いて勝ち誇った笑みを浮かべている。
しかし生半可な覚悟で人の婚約者を奪い取ったエルジーに、先ずはこの過酷な現状を理解してもらわなければならない。
それとヴィクトリアとの婚約を軽んじ、エルジーの手を取った世間知らずの坊ちゃんにも……多少のお仕置きは必要だろう。
「構いませんわ。別にわたくしは、ジェイコブ殿下でなければ、絶対にダメという訳ではございませんし」
「っ……!」
「まぁ、一つだけ言わせていただくのなら……わたくしを選ばなかったこと後悔しないでくださいませ」
恋は盲目と言うが、夢が覚めた時にジェイコブは何を思うだろうか。
ジェイコブを陰でサポートしていたヴィクトリアの有難さを知るのは、もう少し先のことになるだろう。
それを聞いたエルジーが声を上げる。
どうやらヴィクトリアの言葉がエルジーの癪に触ったようだ。
「なによ!お姉様ってば……!今までなにもしなかったくせに偉そうにッ」
「何もしなかった?偉そう?わたくしは婚約者として、バリソワ公爵家を継ぐ者として、自分の出来る限りの事は致しましたわ」
「……っ、違うわ!そういう事じゃない」
「なら、どういう事かしら」
「ヴィクトリアお姉様は何も分かってないッ!今までジェイコブ殿下の気持ちに少しも歩み寄ろうとしなかったじゃない!!ジェイコブ殿下は、いつも寂しそうにしてたんだから!私だったらそんな思いをさせないわ」
「…………エルジー、ありがとう」
その言葉とジェイコブの反応を見て、ヴィクトリアはクスリと笑った。
どんな理由であろうと、これはヴィクトリアに対する裏切りなのだ。
「それで?」
「それでって……!信じられないッ!人としての心がないの!?お姉様だって、もっとジェイコブ殿下に優しくしてあげなさいよ!年上でしょう!?いっつも無表情でニコリともしない!だからジェイコブ殿下に愛想を尽かされるのよ」
「ふふっ……だから優しい貴女が選ばれたというの?」
「そ、そうよ!私こそジェイコブ殿下に相応しいのッ」
「あらそうなの……」
「ふんっ、今更悔しがっても……」
「何を勘違いしているのか……全く悔しくありませんわ。その優しさでジェイコブ殿下と仲良く出来る様に頑張って下さいませ」
「当然よッ」
エルジーは己の目的を忘れてしまっているのか自分で自分の首を絞めている。
ジェイコブもどうすればいいか分からずに右往左往している。
自己主張の激しいエルジーと流されやすいジェイコブは、お似合いなのかもしれない。
「エルジーはバリソワ公爵家を継ぐ気がある、ということでいいのかしら?」
「…………そ、それは」
「なら、わたくしが今までしてきた事を、あなたは今からジェイコブ殿下の為に死ぬ気で頑張るのね……素晴らしい心意気だわ」
「…………!?」
「遊びに行く間もないくらい、我儘もいえないくらい…………ずっとずーっと、テーブルに向かって鞭で叩かれながら勉強することになるのねぇ」
「ぁ……」
「ウフフ……バリソワ公爵を継げないのは残念だけど、今からエルジーのように自由に振る舞えると思えると楽しみだわ」
「ヴィクトリア……」
その言葉を聞いた父と母の顔が曇る。
今までヴィクトリアは父と母の言う通りに動いてきた。
寸分違わず、敷かれたレールの上を真っ直ぐに歩いてきたのだ。
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