第3話

 ぼーっと空の遠くの方を眺めながら歩いていた時、不意に後ろから声をかけられた。


 「池田」


 後ろを振り返ると、そこには金森がいた。


 「これ、忘れ物。」


 危ない、僕はノートを忘れていたようだ。僕が密かに書き溜めていた、小説が書かれているノート…


 「も、もしかして読んでないよね?!」


 僕は慌てて彼女に聞く。


 「う、うん、、いや、少しだけだよ…?」


 「……。」


 彼女は黙ってしまった。


 「池田が毎日持ってるからさ、何が書いてあるんだろうって…す、すごいおもしろかった!!」


 まさかの彼女に褒められたということに、僕は驚きを隠せなかった。しかもこの中に書かれているのは、学園恋愛もの。こんなことを考えていると思われたら正直恥ずかしいくらい、自分の理想を詰め込んだ作品だった。


 「ちゃん、可愛い子だねっ!」


 くっそ。僕の女子の知り合いが少なさすぎるために名前を借りていた。しかもヒロイン。学園の高嶺の花的存在で、誰もが好きになってしまうような容姿にもかかわらず、どこか抜けている。僕の理想のヒロインだ。


 主人公が告白しようか迷うシーンでは、真白に対する妄想が広がっていくのだが、僕の持つ真白のイメージは、どうしてもだ。金森の性格も、少し含まれている。


 「あ、、お、、面白かった?」


 何言ってんだ自分。ただのめんどくせぇやつじゃねぇか。


 「めっちゃ面白かった!!」


 金森が初めて僕に見せたその笑顔は、まさに作中の真白のようだった。僕にとっての理想のヒロイン…なのかもしれない。


 すると彼女は


 「ねぇ明日ひま?」


 明日は土曜日。部活動にも所属しない僕は暇以外なんの感情も湧かない日。


 「うん、暇だよ?」


 「ほんとに?!も、もしよかったら、、遊びに行かない?」


 い、今なんて…?まさか金森が誘ってくることがある…?

 普段あれだけ静かで人との関わりを減らそうとするみたいな感じの金森が…?


 「行く!!」


 金森は満面の笑みであった。

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