第10話 人に寄り添うものであれ
「ころしてくれ」
「かわいいです」
「これなら、客もイチコロね」
「しゃぶりつきたいわ」
「似合ってますから安心してください」
「風光明媚の桜」
「憎たらしいほど似合ってますわね」
俺はメイド服を着せられていた。
おい、ソウルメイトよ。なぜお前まで目を輝かせてるんだ。
自己嫌悪よりも恥ずかしさが現れているだけが不幸中の幸いだろう。昔の俺なら睨みつけてただろうしなぁ。
「メイシンの御披露目は終わりですわ。わたくし達も準備しましょう」
「我は──」
「あんたも着るんですわよ。拒否権がお有りだと思ってらっしゃいます?」
「ソウルメイトがやってるんだよ、逃げないよね?」
逃走しようとしたヒバは、グロリーとミャナに肩をを掴まれていた。
ざまぁみやがれ。
「ソウルメイト!ヘルプミー」
「……」
「いや待って。何その笑みたすけてええ」
俺の笑みを見たヒバは素に戻り、二人の少女に連行された。
さて、思いついた一つの作戦を実行しよう。
「なぁ、カランセン、提案があるんだが」
「いきなり来すぎだろ!」
「あんたがオレの生放送で宣伝したら、そうなるわよ!あんた、思ってる何倍も人気なんだから!!何でオレだと来てくれないのに……お冷と八番テーブルこれ」
昨日、俺はカランセンのチャンネルで宣伝をした。
そしたら、某テーマパークに並ぶほどの行列を生んだ。
キッチンにはホヤケ家族。ドリンクや食器洗いはカランセン。ホールには俺とミャナとグロリーとヒバ。レジにはワフという配置になっている。
「ごめん、お冷を零しちゃった。掃除入るね」
「それヒバに任せて。五番四番テーブルの料理できたわよ!」
「二番カウンター席に日替わり万寿定食大盛り一つお願いします」
汗を拭く余裕すらない戦場だ。食欲すらも容赦なく牙を向けてくる。
「あれ、あんな娘いたっけ」
「ほら、男のあいつだよ。ハーレム状態のやつ」
「へぇ、痛いやつだと思ったけど女装すると可愛いんだな。多分、今日アレでいけるわ」
ヒバの初めての女装は、女性陣が本気を出したことで見事にしおらしい娘になっていた。女装を嫌がる様子が更に可愛さを加速させていた。
そういう声が聞こえるたびに、背筋を凍らせているヒバを見るのが面白い。これなら女装をして得だったかもしれない。
「ナイシン、本当に性格悪くなったわね」
「わたしと出会った時なんて真面目って書かれた石でした。今のメイシン君はとっても素敵です」
「そうね。ホヤケ、キッチンは?」
「お父さんが何とかするようです。なので、ホール入ります。引き続きレジお願いします」
「わかったわ、任せなさい」
そんな声が耳に届いた。
何にもなかった俺がここまで染まったのか。
「と…うわ…で、これをニしゅ…ん続…たいわ。ぁ、ああいぅえぉ。配信てきなぃわね、これ」
ランチタイムが過ぎ、日が空から落ちようとしている時間になっていた。
ミャナとホヤケを除いたメンバーが休憩室で体力を回復させている。カランセンの声は枯れ、所々言葉が聞き取れない。
大和日本倭の交流イベントとして二週間開催することにした。ヤクザが来られないように、いつでも客がいる状態をキープするのが狙いだ。
更に店の様子もライブで配信しているため、下手には出れない。夜は警備人をカランセンが雇っている。
『これで痺れを切らし感情に任せて色々と洗いざらい吐き捨ててほしいわ』
未だに俺たちはあの男の目的がわかっていない。俺たちが攻めに出られるのは、その情報を掴んでかららしい。
「ふふ……穢された、もう婿になれない。封じたい禁忌の体験だ。記憶の奥底に沈めたい」
「わたくしは可愛らしくて、気に入ってますわ。それに子犬のようになっても状況は変わりませんわよ。まだまだ一日も終わってないですの」
「うぅ……」
ヒバは唸り声を上げて、机に突っ伏してしまう。それを口を手で隠してに笑うグロリー。
「ナイシン、女装に対して免疫が得たみたいだけど、裏で目覚めたりしたのかしら?」
「まぁな、こうやっておふさげなら大丈夫だ。あくまで女装だからな」
「わかったわ。なら、滅多にない機会だし全員で写真撮らないかしら?」
お前ってやつは、俺を試しやがって。
でも、それ以上にダメージを受けそうな奴が背筋をピクピクさせている。それに気がついたグロリーは背中を押して顔を上げさせないようにした。
「反対意見はないみたいね。ミャナとホヤケが戻ってきたら、撮影しましょ」
「んぐんぐぐぐぐ」
そのまま撮影までグロリーに抑えつけられ、ヒバは撮影された。
交流イベントを始めて四日が経過した。
「ねぇ、ホヤケ。相談したいことがあるの」
「ん?どうしたんですか、カランセンさん」
彼女の顔がこわばっていることから、嫌な話なのだと予想できる。
「さりげなくでいいから、ナイシンにいつ寝てるのか聞いてほしいの。以前から気になってたのよ、彼がいつ寝てるか」
「そう思ったのって」
「オレの変わりに毎日毎日、自分で盗聴してるの。そのノートを見つけちゃって、深夜から朝まで埋まってたの」
「じゃあ徹夜でわたしの手伝いを。止めないと、倒れちゃいます」
身体が彼のもとへ向かおうとするが、何処からともなく現れたワフに手首を掴まれ止まってしまう。
「今止めたら、逆効果になるわ」
「じゃあ倒れるまで待てってことですか?」
「違うわ、倒れないって断言できるからよ。考えてみなさい、今までだって彼の時間配分はおかしかったでしょう?」
「そ、それは」
「私は天才だけど、彼は努力で成り上がった凡人なの。ゲームもでき、勉強もでき、運動もできるのは、人の数倍も経験値を得ているからでしかないわ」
その通りだ。彼は一体どのようにして勉強する時間やゲームを練習する時間から体力をつける時間を設けているのだろう。
「貧血以外で彼が倒れた記憶って、私には存在しないわ。二人もそうでしょう?」
ワフがいつも見てきたように言う。
「逆に返せば、会ってすぐの頃は良く貧血で倒れてたわね」
「それどころか、住んでる所や部屋や服や身だしなみもダメダメだったんです」
「流石ね」
「そこー悦に浸るところじゃないわよ。大して変わらないでしょ、あんたもナイシンも」
ミャナから聞いた話だと彼女の部屋も想像以上のゴミ部屋だったらしい。
彼女が叱責してようやく重い石が動いたようだが、気を抜くとすぐにゴミ部屋に戻るという話を聞いた。
「悦に浸るところよ、そうよねホヤケ」
「いや、それはないです」
「四面楚歌ね。まぁ私は嬉しいから他人の意見なんて耳に届かないけど」
「あのねぇ……」
わたしたちに何を言われても、ワフは優しく微笑んでいた。
「カランセンが根拠の無い話をするとは考えにくいけど、ストーカーみたいに彼の行動を纏めた時間割でも作ったのでしょう。あ、私にだけオナ○―のしてる日教えてちょうだい」
「言い方改めないと、あんたには見せないわ」
「ぶーぶー」
ワフはわかりやすく、唇を尖らせる。
「まぁ、いいわ。結論から言えば、二十時から二十二時の間しか彼は寝てないわね」
二時間だけ。そして彼は一度も授業や休み時間に寝ている姿を見たことがない。
その情報をわたしの頭は否定する。だって、そんなの人間じゃ……!
「三十分……」
「え」
ワフがとんでもないことを漏らした。誤って口が心の声を出してしまったのだろう。
様子を見る限り、カランセンには聴こえてないようだ。ワフは先ほどの嬉しそうな顔から一変し、苦虫を噛みしめた顔をしていた。
わたしは……。
「今日も情報無しだ」
「意外と口が軽いと思ったんだけど、思い通りには動かないね」
「山の如く待機するのみ。目的がわからず、動けば無謀で潰えてしまう」
いつものように、二十時十五分から公園に集まり三人で話し合う。
「ねぇナイシンくん。睡眠時間何分なの?」
「いきなりなんだよ」
「分、時間と違うのではないか。まさかそんな」
ヒバは茶化そうとするが、ミャナの眼を見て冗談じゃない事に気がつく。
そして俺も、確信を持った彼女の問いを完全に誤魔化せないと察する。
盗聴メモノートを拾われたか。
「人間でいう睡眠という行為を俺は二十分してる」
「なんでそんな無理を」
「これが天才じゃないのに、なんでもできる才人のネタだね」
「僕と会う以前から⁉︎それは呪いなのかな」
「呪いじゃない。祝福の方だ。俺にとってはどちらも似たようなモノだけどな」
彼女はどうやって、この事を知ったんだ。そう思うと冷や汗が止まらない。嫌な、嫌な予感がする。
唇を震わせて、ミャナに問う。
「なぁ、これ誰から聞いて、誰が知ってるんだ」
「全員知ってるよ」
心臓に矢が刺さったかのような衝撃が襲う。
俺なら俺なら、それを聞いたらどうするかなんて決まってる。そして守ってもらっているのに、馬鹿げた無茶をしたに人を見たら。
「なぁ!二人はホヤケの家に向かって彼女を探してくれ」
「最初からそうするつもりだったけど、僕を責めないのは意外だった」
「そんな場合じゃない!好きな人がもし自分の為にこんな生活してたら、誰の静止も聞かず飛び出すに決まってるだろ!止められるわけない」
「ホヤケちゃんの気持ちに気がついてるんだ。これ渡しておくね」
ミャナは自分のケータイを取り出して渡してくる。
マップには丸が動いている。説明されなくてもこれが何かわかる。
「ホヤケちゃんを助けてあげて。そして慰めてあげて、きっと自分を責めるから」
「わかってるよ」
そこで俺の電話が鳴る。カランセンからだった。
「ごめんなさい。ホヤケが飛び出して、更に」
「大丈夫だ。俺がなんとかする。彼女の場所もわかってるから、ホヤケの家族を安心させてくれ」
それだけ伝えて、俺は電話を切った。
「我も共に行こう」
「これで僕達がホヤケの家に行く必要が無くなったよね」
「なんでお前らは俺の力になってくれるんだよ。怖くないのかよ」
二人は答えは決まってるかのように、合わせて口にした。
「ナイシンに助けられたから」
「くっそ、おの女どこ行った!」
「遠くには行ってない筈だ。探せ、捉え損ねたら俺たちの首が飛ぶぞ」
「そんなこと、いやでもわかってんだよ」
男達の足音がわたしから離れていく。
「ごめん。みんな」
わたしは自分が狙われている事をわかっていながら飛び出した。
だって、わたしの為に限界まで身を擦り減らしてる好きな人を止めたいから。これでも人並みには戦闘できるから、一人を気絶させて隙を作り逃げた。
女の子が男性の成人に牙を剥き、さらには大怪我をさせた。その窮鼠猫を噛む行動は、大きな大きな隙になった。
こういう時のために、わたしは鍛えてきた。だけど、逃げるんじゃなくて勇者のように立ち向かい独りで解決したかった。
彼等に電話しよう。そうケータイを取り出した。だが、ケータイは真っ二つ斬れ切り口からは火花が散る。
驚いたわたしはケータイだったモノを手放す。
「お嬢さん。抵抗せずに捕まってください」
長身でわたしより二回り歳を取ってそうな執事の格好をした男性が闇から姿を現した。
両手には小さな鎌が収まっている。
わたしは剣と盾を背から手に移動させ臨戦体制を取る。
「例えそれが本物の剣や盾だったとしても、敵いませんよお嬢さん。ましては布製、大事な物ならば構えない方が得策かと」
「黙って連れていかれるわけにはいかないんです」
わたしだってわかってる。
でも、わたしは捕まるわけにはいかない。わたしが捕まったら悲しむ人がいるんだから。
恐怖を噛み殺して、立ち向かう。戦うべき時は今なんだ。今戦わなかったら、何のためにわたしは強くなろうとしたか後悔する。
いや、永遠に後悔するだろう。
それは人生という道の中で、好きな人と結ばれても永遠に付き纏う足枷になる。
「残念です。ならば、実力行使しかありませんね」
わたしが瞬きをすると執事が踏み込む。
その踏み込みだけで、間合いがつめられてしまう。あまりにも速い。盾で防ぐしかできない!
「ぎゃっあ」
「紙の盾ですか。ふむ」
どうにか、拳を腹から盾に変更する事ができた。
盾は大破し、季節外れの雪が降っている。勢いは殺せず、わたしの身体はビルの壁に叩きつけられた。
背中が痛い……。
でも、あんなの腹に食らっていたら間違いなく気絶はしていただろう。
でもでも、もうあんな馬鹿力を防ぐ物もなければ、今の衝撃で剣を手放してしまった。
「無駄な抵抗でしたね」
立ち上がれないわたしを見下ろしてくる。そして注射器を懐から取り出し、こちらに向けてくる。
たすけて……。たすけて!
「一人の少女が屈強な男に立ち向かって無駄な事があるわけねぇだろ」
聞きかった人の声が届く。
英雄は、人の叫びを聞いて助けに来てくれる。
「いえ、無駄が増えただけですよ」
注射器は粉々に砕け散る。
「ナイシン君」
彼はバチバチと不穏な音を立てる特殊警棒を手にして、わたしを悪者から守るように立ちふさがった。
わたしの憧れた英雄だ。でも、その背は傷だらけに見えてしまう。
だってわたしは英雄という存在が、どれだけの身を削って人を助けているかを知ってしまっているからだ。
「やはり、貴方はその歳にして人の数倍以上の時間を過ごしているのですね」
「鋭いな。ホヤケ、俺が睡眠をしてないのは、いつものことだから気にするな。俺の祝福という名の呪いでやってることだ」
「え」
「なるほど、睡眠時間を削っているという訳ですか」
寝てると思った。彼が口にしたのは、人としてあり得ないこと。
わたしはその場で固まってしまった。
彼は。
俺は鎌切を前にして、少しだけ弱気になっていた。
隙が一秒たりともなく、計画なく襲い掛かれば手に持った鎌で腹を裂かれるだろう。
ヤクザぐらい簡単に倒せるようには鍛えて、実戦も積んでたつもりだった。それ以上の存在だ。軍人、または暗殺者で殺しのエキスパートだろう。
「ふむ、とても趣味がよろしい特殊警棒ですね。完全にリミッターを解除し、他を傷付けることに一切の容赦がない」
「俺の趣味じゃないんだけどな」
これは俺の物ではなく、彼女の物だ。
よく試験者にされる。試験者にするのだけは勘弁してほしい。
「さて、お喋りも楽しいですが、先に仕事を。おっと」
落とした写真にはかなり肥えた醜い中年の男性だった。気持ち悪い『来府零志亜』というサインまで入っている。
「主様は忠誠心とつまんないこと言って携帯させるから、敵に漏れるんですよね」
「オデブな主人様にはラブドールでも買い与えてくれ」
「我儘な豚に何を言っても無駄ってご存知ですか?」
「お前さ慕ってないだろ、主を」
ツンデレかと思ったが、その瞳から嫌悪が溢れ出ている。そこから、どれほど主人が嫌いか理解できる。
お互い臨戦体勢になるが、石のように動かない。どこからから水滴の垂れる音がした。
その刹那、俺たちは動き出す。
「やはり、斬れませんよね」
右からの鎌を避け、左の鎌を特殊警棒で防ぐ。
どちらかでも当たっていれば、首が飛んでいただろう。
その行動が俺の予想通りで、武器を無くそうとしてきた。だが、ミャナが改造した武器だ。そんな簡単に斬れるはずがない。
電気が弾ける音と金属音が静かな裏路地に何度も何度も響き渡る。
「やはり、一筋縄ではいきませんね」
「なぁ、なんで慕ってない奴の言う事を聞いてるんだよ」
「簡単な話です。私が唯一お慕いしたいと思う人の大切な子だから」
会話していても、お互いに手を抜かず自然と殺気が言葉に宿る。
「じゃあお前の慕っている人もアレと同等だっ」
「あんな生きる生ゴミ生成装置と同じ訳がないでしょう!!」
本気を出したのか、鎌が一瞬見えなかった。
運良く防げたものの、次から見切らないと不味い。
「その人に任されたからか、お前は甘やかしてるのか?」
「甘やかす、というよりは『優しくしている』だけですよ。叱らず笑い相手の考えに否定しないのは、最高級の優しさなのではないでしょうか」
「それを甘やかすって言うんだよ」
「では、甘やかして何が悪いと?叱るなんてお互いに消耗するだけ、ならば最初から優しく笑いあってた方が幸せじゃないですか?」
「……」
彼の言っていることは正しいのではないだろうか。
俺はそう思ってしまった。それが隙になってしまったのだろう。いや、隙を見せずとも最初から敵わなかった。
相手の踏み込みから手の動作、なにもかもが速く動体視力が追いつかなかったからだ。
右鎌で特殊警棒は飛ばされ、左鎌で腹を横に深く斬られた。そして特殊警棒を再び拾わせないように、ダメ押しで切り傷に蹴りを入れて吹き飛ばしてくる。
身体中が痛く、何がなんの痛みかわからない。
「違います!その人がより良くなってほしいから、口に出したり行動してるんです。あなたは臆病で自分が傷付きたくないだけ」
「強いのは口だけですか?より良くなってほしい?嘲笑すらできない答えをありがとうございます。相手がそれを望んでいなかったら、ただのお節介になりますよ」
鎌切がホヤケの言葉に頭にきているのか、俺から視線を逸らす。
俺の『祝福』を使うなら今しかない。
「望んでいなくても、理解してもらえるように歩み寄っていくしかないんです。あなたはただ、『その人に酔ってる自分が好き』なだけの臆病者なんです!」
「この女ァ!」
俺は寄り添おうとした手を差し伸べた家族の手を切ったんだ。
謝りたい……!だから、彼女を守らなければ。ちょうど、近くに落ちていたホヤケの剣を握りしめる。
本来の目的を忘れ、ホヤケの命を刈り取ろうと鎌を振り下ろしている。
間に合わな──。
「ぐうっ、な何をした」
脳内が怒りで染まりきっていたと思っていたが、こちらの様子もしっかり把握していたようだ。
命を取った後に避けようと考えていたのか、剣は吸い込まれるかのように肩に命中する。
吹き飛びはしなかったものの、骨を折る嫌な感触が伝わってきた。
自分も何が起こったのかわからない。でも、二回世界が歪んだのはわかる。
「鋼鉄になり更に加速する繊維……マジシャンか君は」
訳がわからないが、彼女が助けてくれたのだろう。
「大丈夫⁉︎僕も参戦するよ」
俺たちを守るように、ミャナが鎌切の前に立ち塞がる。
両手には特殊警棒が収まっている。気のせいか、俺の使った特殊警棒の何倍も電流が強い気がする。
「撤退するしかありませんね……」
鎌切は不利を素早く判断し、去っていった。
俺ら二人なら勝てる相手だっただから残念だ。
「ナイシン君、お腹は大丈夫ですか⁉︎すぐに救急車を」
「いや、いらない。もう血が止まってるだろ?」
「えっ⁉︎え!」
「僕は周りを監視しておくね」
俺は呪いや祝福の事を彼女に洗いざらい話した。家族と離れている理由から、その原因が自分にあることなども。
彼女は驚きつつも引かず真剣に聞いてくれた。
「わたしから言いたい事があります。寝てください」
「俺は睡眠が必要ないって──」
「人になりたいなら、人らしく必要なくても寝て夢を見ることが大切なんです」
「人らしく日々を過ごせってことか」
ホヤケは深く頷く。
「今までの道は苦しくてもナイシン君に通ずるものですから否定はしません。でも、少しは足を休めて良いと思います」
「今までの道か……」
辛いことの連続だった。それでも、辛い中で彼女達と出会えた。
足を休めるか、新しい道が見えるだろうか。それでも、休むのはこの件が片付いてからだ。
そしたら、久々に就寝し休むとしよう。
「正直に言ってほしい。弱いところを見て失望しただろ」
「ナイシン君に出会う前のわたしなら失望してました。でも、そういう一面も大切なモノなんです。神様でも完璧が不可能なんですから人なんて夢の夢なんです。神話でも神様欠点だらけです」
「その通りだ。ったく、俺たちが一番良く知ってることのはずだったのに」
思い返せば、単純なことだった。
自分の立場を入れ替えれば、自ずと答えがでる問い。自分がおかしくて仕方ない。
「これからは、一人で抱え込み過ぎないでください。仲間をもっと頼ってください」
頬を伝う一滴をホヤケは指で掬い上げる。
「あと、話してくれてありがとうございます」
「話さないと納得してくれなかっただろ」
「いえ、問いませんでした。無理に聞いても、それはその人の為じゃなくて安心したい自分の為になっちゃいます。だから、ずーと言わなくてもわたしはナイシン君と一緒にいました」
「ホヤケも変わったな。以前ならどんどん聞いてくる奴だと思ってたんだが」
「それはわたしが大切な人の為に何も出来ないと考え込んで、焦っていたからです。今はこうやって自分がいて癒すのが、一つの力で寄り添うってことはこういうことなんだと思ったからです」
俺の周りの女性は逞しいな。情けないのは俺だけだ。
「一つお願い聞いてほしいです」
「なんだ?言ってみろ」
「一緒に怒られてくれませんか?」
「叱るのはって言ってたくせに、怖いのか」
「それとこれとは別なんです!怖いに決まってるし、わかってても嫌なんです〜」
えんえんと泣き、ホヤケは俺の腰にまとわりついてくる。
「あーわかったわかったから、一緒に怒られてやるから離れろ」
「ナイシン君、大好きです」
「んなっ‼︎」
満面の笑みで言われた告白は、心を鷲掴みするには十分過ぎた。
俺はこの美しい花のような少女を守りたい。
帰宅後、ホヤケは一人で怒られた。大体そうなることはわかってたけど。
外で待っている間に電話をかけた。
「もしもし、父さん。今日は──」
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