第9話 消して壊れぬ桃色の花

英雄に弱点はない。英雄の輝きは決して衰えない。英雄は泣かない。

 英雄は。

 英雄に対する期待は永遠に膨らんでいった。

 大きな背に任せっきりで、わたし達は彼の心を救わなかった。

 だから、一人で全てを解決させようと命を投げ打ってしまう。

呪われた二人の少女と世界を救うために。

 彼はずっとひとりぼっちだった。彼に仲間なんて最初からいなかったのだろう。


 

「はい、私の勝ち。なんで負けたか考えておきなさい」

「なんで、こんな下ネタ製造機に成績で負け……しかも学年トップって!買収したでしょ」

「普通最高ですわ!」

「力は使うべき刻にだけ解放するのが、ベストだ」

「ワフちゃん、ミャナちゃん、ナイシン君で学年トップ3を独占……」

「僕としては、ワフちゃんとナイシンくんがゲームを鍛えながらその点数を取れる事がよくわからないよ」

「要点を纏めて効率的に勉強してるだけだ。ったく、赤点がいるとは思わなかったぞ」

「進学しない予定だったから仕方ないでしょ!」

 定期テストが返却され、ホヤケの店に集まり騒いでいた。

 中間期末とテストがあり、今回は期末でテストを見せ合うのは初めての試みである。

中間テストの時期はホヤケとカランセンがいがみ合っていたのが原因だ。

 

「これブラックバイトです。やめましょう、わたしの所でもバイトできますから」

「ゲームで尚且つ給料はかなり高いのよ。あんたみたいな個人事業主が超えられると思うの」

「やめてください」

「いまはあなたの力がいるの」


「カランセンさん、もう少し勉強しましょう。わたしも頑張りますし、きっとみんなも優しく教えてくれるはずです」

「優しく教えるよ、しっかり手の筋肉が記憶するように」

 ミャナが微笑んでいる。

 笑み。いや、企んでる顔だ。邪悪なオーラが溢れ出ているように見える。

「……わたしは優しく教えます。安心してください」

「ありがとう、ホヤケ。わたしの味方はあなただけよ」

 がしっと抱き合う二人。

 ここの黒ゴマ団子を食べてから、カランセンはホヤケの店『万寿堂』の常連となり仲が深まっていた。

 ホヤケはカランセンの家を掃除しに行ったりしてるようだ。宣伝してくれたお礼らしい。

 雨降って地固まって良かったと思う。俺が原因で喧嘩してほしくないから。二度と自分が原因で喧嘩する様子を見たくないから。

「みんな、こんにちは。あっナイシン君、花のアドバイスありがとうね。とても喜んでくれていたよ」

 おしとやかな男性が料理を持ってきてくれていた。彼はホヤケの父でここを切り盛りしている店長だ。

「へぇ、ナイシン君ってお花に詳しかったんですね」

「幼い時も思っていたけど、知識量には感心するわね。でも性知識はまだまだのようね。だから私が」

「手をワキワキさせるな。絶対に教わらないから触るな、触るなって言ってるだろ、おい」

 胸を触ろうとしてくるワフの手を跳ね除ける。

「二人は仲が良いようですっと」

「どこを見て誰にメールしたんですか!?」

「肌を重ねた仲だから」

「もうほんと、黙ってくれないか」

「はははは」

 その喧嘩を見て、ホヤケの父は我が子を見るように小さく笑っていた。

「お父さん、お母さんは?」

「いつも通り創作中だよ」

「今日はわたしがご飯作るから連れてきてね。根負けしないでほしい」

「なるべく努力はするよ」

 ホヤケの母は小説を書いているらしい。この時間はいつも書いているようで、俺たちと顔を合わせたのも数えられるぐらいだ。

「これ、絶対に利益取れないどころか赤字のメニューじゃない」

 カランセンはこの店に来るたびに、メニューとにらめっこしている。

 以前にホヤケの父にアドバイスしていたが、聞く耳を持ってくれなかったらしい。

 それっきり、カランセンは無理にアドバイスをしようとはしていない。だけどメニューを見るたびに唸るようになっていた。

「このイベントの発生条件」

「あまり助言はしたくありませんけれど、ヒントは勝手に敵が動くですわ」

「それはヒントではない。アンサーだろう」

 ヒバとグロリーは真っ先に料理を取り、会話しながら食事をしていた。

 ゲームの話だろうか。それにしてもヒバが俺と同じぐらい心を許す相手が増えてよかったと思う。

 俺がいなくなっても、その人が支えてくれるだろうから。

「また、鉄分定食かよ。ちゃんと鉄分サプリ持ち歩いてるだろ」

「先月、反応なくて家に言ったら倒れてましたよね!」

 図星を突かれて言い返せない。

 だから小さくなって彼女のお叱りを待つ。

「ははは、また叱られてるのナイシン。そんなに萎縮するなんてアソコみたい」

「ワフちゃんも他人事じゃないです。同じように貧血になりやすいんですから」

「ふふふ。私はね。そこのイン○とは違うのよ」

「ワフちゃん、いい加減にしないと夕飯抜きです」

「はい、ごめんなさい」

 ワフは俺と同じように身体を萎縮させていた。

 情けない話だが、俺達はホヤケに夕飯を作ってもらっている。正式にはカランセンに料金を支払い頼んでいる。カランセンが頼んでいるというわけだが。

 まぁ、ホヤケに頼んだのもカランセンとワフと俺が一切、衣食住ができないからだった。ホヤケが来るまでバイト部屋は悲惨なことになっていた。奇跡的に虫は湧いていなかったが。

「わたしを見てないで冷めちゃう前にいただいてください」

「考えごと」

「ホヤケに見惚れてたのわね~」

「よっし、表出ろワフ。今日こそは手加減しない」

「返り討ちにして調教してあげる。貴方の動きなんて手に取るようにわかるわ」

「ふ・た・り・と・も」

「「ごめんなさい。いただきます」」

 俺達はホヤケの一喝で萎縮し、素早く席に座り手を合わせた。

 彼女には勝てない。



「さてと、勉強をしないとな」

 椅子に座り続けていたので軽く背を伸ばす。

 ケータイで現在時刻を確認する。そこには二十三時と出ていた。

「時間関係はしっかりしてるんだよな。配信きり忘れてないよな、ふぅ」

 マイクや配信ソフトをもう一度確認する。ちゃんと切れているようだ。

 以前、配信をきり忘れて喘ぎ声が入ってしまい。カランセンに𠮟られたのだ。

「俺の配信が大人気になるとは」

 カランセンのチャンネルに声だけ出て、知らないうちになんか人気が出た。

 カランセンは『ナイシンを出せ』というコメントに疲れて、俺に自分のチャンネルを持てと命令されて創設した。

 休憩のため動画をつけると、玄関からのノック音がリビングに届く。

『ここら一体で女子生徒が誘拐されてるらしいですよ。キクちゃん』

『ベラちゃん。聞き込みの結果だけど、かなり誘拐事件が起きてるみたいダヨォ。事件にならないから裏で何かありそうダヨ』

 闇を暴いたり色んな所に冒険する人達。俺のお気に入りでよく見ている。

 誰かが訪れたのでモニターを消す。一瞬だけ背景が見えたが、馴染み深いところに見えた

 玄関に行き、客を迎え入れる。

「こんばんはです」

「ああホヤケか。こんな時間にどうしたんだ」

「夜食を持ってきたので、一緒に食べませんか?っていうお誘いに来たんです」

「本音は?」

「衣食住ぬきうちチェックです。夜食はサンドイッチです」

 小さな袋を持ちながら少女は目を輝かせて言う。

「わかった。上がってくれ、でも楽しいもんなんてないからな」

「はぁい」

 楽しそうに返事をして、先にリビングに姿を消してしまう。

 ため息を小さく吐いてから、ゆっくりと彼女を追う。

「窓に花を置いてるんですね。同じ花?なんていう花ですか」

「どちらもスカビオサって花。ちょっと気に入ってな、試しに白と紫を買ってみたんだよ」

 俺は折り畳み式テーブルを広げ、お茶とコップを用意する。

「ナイシン君は優しいですね。こんな時間に上がらせてくれるなんて」

「ちょうどお腹が空いてただけだ。あと俺は優しくない、送ってやるからすぐに帰れよ」

 お互いにタイミングを合わせて『いただきます』という。

 ホヤケの料理は本当に美味しい。彼女と友達になって良かったと改めて実感する。

「ナイシン君の趣味はやっぱりゲームと勉強なんですか?」

「勉強は好きでも嫌いでもない。ゲームはまぁ楽しんではいるから趣味なのか」

 友人と協力してやるのが好きだからしているが、ゲーム自体が好きかと言われれば疑問に感じる。

「聞き方を改めます。ナイシン君は何オタクですか」

「女の子はオタクじゃなくてファンって聞くだろ。わからない、オタクやファンになるほど熱中したことはないからな」

 ホヤケはにこにこしながら、話を聞いている。

「ナイシン君、表情が豊かになってきましたね。最初会った時とは別人みたいです」

「色々と状況が変化したからな」

 本当に一人でいる時間が極端に減った。

「それにわたしも一役になれてるか不安なんです。だから、もっともっとサポートしますので、言ってくださいね」

 『そんなことないホヤケだって』とは言えなかった。



「おい、一。あの土地の買収はどうなってる」

「難航しています。限界まで金額を釣り上げましたが、応じる気配がありません」

 暗い部屋の中で椅子に座る大男は机を勢いよく叩く。グラスは倒れ酒が零れ落ちる。「ちゃんと用意して実物を見せたんだろうなぁ」

「同伴して確認しております。大金を見せても怯むことなく、一蹴されましたね」

「庶民ごときが。大人しく金を受け取っていうことを聞かないなんて!」

 大男は怒りを抑えられず、歯を鳴らす。

 それを長身の男は静かに傍観している。

「ヤクザでもなんでも使え。あの土地は絶対に手に入れろ」

「そこまで必要な土地だと思えませんが、かしこまりました」

「必要だろう?政府のクズを釣るためのさ、餌の確保にもなるからな」

 今度は口を大きく開き下品に笑う。

「最初に忠告しておきますが、かなり難航すると思われます」

「なぁに、ただの庶民だ。それは調査済みだ」

 長身の男は最後に一言だけ呟く。

「あまり気乗りしませんね」



 わたしの目覚めは怖い大人の怒号から始まった。

「起きちゃったか。こういう時ぐらいは寝ていて欲しかった。大丈夫だ、無視しよう」

「おらぁ、さっさと土地渡さんかい!いるんだろう、開けろ!」

 父は静かにわたしに笑顔を見せてみる。

「ホヤケ、今日からお母さんのところに行きなさい」

「嫌です!わたしも一緒に戦いたいです」

「遊びじゃないんだ。お願い、僕に任せて」

「わたしが生まれる前もそうやって大怪我したのお母さんから聞いてます。だけど、今回はわたしがいるんです。守りたいんです」

 だから、わたしは強くなろうとした。

 それなのに。

「君は僕たちの希望なんだ。この店は城で君はお姫様なんだ。ここを守るのもそういう理由なんだよ。友達と笑い合う君を見ていたいから」

 わたしはお父さんの言葉に背を向けた。


 わたしは普通の女の子と趣味があまりにも違った。

 お母さんから英雄の話を聞き、それからというものRPGや勇者の物語にハマっていた。

 勇者に憧れお姫様を情けない存在だと考えていた。だからお姫様にだけはなりたくなかった。

 守られているだけの存在。周りに迷惑をかける諸悪の根源。自分の身も守れぬ愚かな象徴。

 わたしはわたしがお姫様と言われるのが一番嫌いだ。

 女に生まれたことに後悔はしていない。だけど、弱い自分が許せない。誰かに守られるよりも守れる存在になりたい。

 彼らと出会って強く強く思いを抱くようになった。

 彼らに迷惑をかけたくない。だから、わたし一人で解決したい。

 守られたくない。自分の身は自分で守りたい、そして大切な人を守れる存在になりたい。



「待たせたわね、帰りましょう」

「んああ、もうそんな時間か」

「ソウルメイト、油断大敵」

「はい、王手終わり」

「んなああああああ」

 偶々拾った将棋でヒバ達と遊んでいた。

 太陽は橙色に輝き今日の役割を終えて就寝を迎えようとしている。

 ヒバが負けそうになり将棋盤をひっくり返そうとしていたので手を先に王手を取った。

「なんでオレの動きを読んでくるのよ」

「猪突猛進すぎますわよ。わたくしてじゃなくても対応できますわ」

 将棋の待ち時間はスマホのゲームで対戦していた。

「あら、ホヤケがいないわね。何か言ってたかしら」

「今日は一緒に帰れないって。あと店に来ないでほしいって言ってたよ」

「珍しいな、いつもなら率先して俺たちの手を引いて帰るのに。家族と喧嘩でもしたのか」

 この中で一番に行動力があり、引っ張り回すのに。放課後になって、全員が集まったら毎日のように自分の家に誘うのだ。

「わたくし嫌な予感がしますわ」

「貴方が嫌な予感とか物騒な事を言うと毎回のように的中するのよね。これで当たったら的中率八十パーセント越えるんじゃないかしら」

 ワフは小さくため息をつき、目を桃色に輝かせる。

 彼女は大きく目を見開いてから細める。

「ナイシン、今すぐマッグの大きな交差点に向かいなさい。マッグに一番近い右折レーンで前から数えて二番目の真っ黒な車両を注視しなさい」

「うろだろ!っん、わかった」

「三階というのに無茶をする」

 俺はワフの命令を聞きながら、窓から外に飛び降りた。

 少し痛いがこれぐらいは大したことはない。

 早く目的地に着くために足をひたすら無心で動かす。



「ああ、くっそやってられるか」

「大事に扱えって言われてんのに、傷付けやがって。俺は責任取らないからな」

「はぁ?お前も一発殴ってただろ。女のくせに、とか言ってな」

「外傷がないように殴ったからな。お前の攻撃は外傷あるんだよ」

「二人とも女だからといって、気を抜きすぎた結果だ。お前らが悪い」

「んーんー!」

「うっせぇぞ、黙れ女」

「んっげっふげっふ」

 腹を殴られ嗚咽する。

 拘束されているわたしを挟むように大男二人が座っている。

 わたしは手足に切り傷があり、出血が止まっていない。何度も腹を殴られて、息をするのも苦しい。

「どっちいくよ」

「右折して裏路地に入れ。あそこなら人がいないしな」

「じゃあ、裏路地でちょっとやってもいいだろ?生意気だけど顔や身体はいいんだしさ」

 必死に抵抗するが、わたしの力では拘束はびくともしない。例え拘束が外れても男二人に挟まれている。

「今日はクソ女に良く出会うな。ひよこみてぇに遅く歩いてんじゃねぇぞ」

 右折して薄暗い裏路地に車が入っていく。

「とりあえず、ここで一休憩だ。俺は向こうで煙草吸ってるから、やることやっておけ。そんな状態で運んだら、首が飛ぶ」

「なぁ、少し」

「ああ、うるさい。やっていいぞ、ただし本番はダメだ」

「流石、兄貴」

 運転席に乗っていた大男が裏路地の奥へと消えていく。

「さて、楽しませてもらうとしますか」

「じゃあ、俺上使うわ」

「んーーんーー!」

 たすけて!たすけて!!

 声すら出せず芋虫のように動きながら、目を瞑りひたすらに懇願する。

恐怖と自分の弱さに対しての情け無さに涙が溢れ出る。

「穢らわしい手で触ってんじゃねぇ」

 目を開くとわたしはお姫様抱っこされていた。


「ごめんな。切る余裕までは無い、痛いだろけど少しの間だけ我慢してくれ」

 俺は汚い裏路地の中でも綺麗そうな所に、ホヤケを優しく下ろす。

「んー、んー!」

「俺なら大丈夫だ。だから目でも瞑っていてくれ」

 あんまりゴミ袋を被せたくないが、仕方なく隠すために被せる。

 女の子にゴミ袋を被せるなんて、終わった後に殴られても文句は言えないだろうな。

「クソ野郎!ヤクザに喧嘩売って、ただじゃ済まねぇぞ」

「ヤクザだったのか、あまりに弱すぎてチンピラだと思った」

「てんめぇ!!」

 俺はホヤケを守るために再び人の身体の紅い花弁を咲かせる。


 彼の戦い方はあまりにも見てられなかった。

 肉を切らせて骨を断つ。なんて言葉では表せられない。命を切らせて魂を断つが似合うだろうか。どちらにせよ、自分を大切にする気が感じられない。

 ヤクザからの攻撃を食らうが、諸共せず反撃する。その様子にヤクザは徐々に恐怖を感じているようだった。

 あえて食らっているようにも見える。相手を怯えさせるためなのか、それとも……。

 わたしでもわかるほど、彼はヤクザより圧倒的に強いと断言できた。

「お前は!何を背負ってるんだよ!!」

「弱い自分だ」

 ついにヤクザが根負けし、大きな隙を見せる。彼はその隙を見逃さず、ヤクザの腹に拳をい一発叩き込んだ。

 ヤクザは腹を抑えて、芋虫のように地面で這い回っている。

「……」

 彼の背後からナイフを構えて静かに突進してくる。

「んーーーー!」

 気付いてほしくて大きな声をあげる。だが、あまりにも遅すぎたと感じた。

「なんだよ!お前は」

 最小限の動きで彼はナイフの刃を掴んでいた。

 彼の表情は微動だにしていない。手からは鮮血が溢れ落ちている。

 それを見てヤクザは完全に萎縮してしまっている。ヤクザは片手を腰に回そうとした。

「大人が銃を学生に向けるなんてみっともないと思うよ」

「があああああ」

 バチバチという音と共にヤクザはドミノのように倒れた。

 彼のピンチに駆けつけたのは、見慣れた青空のような髪の持ち主のミャナだった。

「無茶するね。もう少し慎重に戦おうよ」

「これでもマシになった方だ。とりあえず、俺は血だらけだからホヤケを頼む」

「肝心のお嬢様はどこにいるの?」

 彼はわたしをひ指差す。するとミャナは大きくため息を吐いた。

 わたしは彼に対して恐怖よりも哀しみを抱いた。



「乱家が絡んでくるとは。迂闊にヤクザを使えなくなりましたね」

 月明かりの下で調査書の束を見ている。

「あのゴミにも同じ様に万寿堂のお嬢様を狙えと言われるでしょうね」

 長身の男は首を傾げる。

 計画は完璧で人気もカメラも無かったはずなのに、彼らは特定してきたのだ。

 まるで助け声を聞いてヒーローが現れたかのよう。

「写真から見ても学生とは思えない目をしてますね。彼らがやられたのもようやく納得できました。少し楽しみですね」

 長身の男は小さく笑う。

 彼が黙ると少女達の悲鳴が僅かながら聞こえてくる。



「盗撮盗聴してるけど、まだホヤケの誘拐を諦めてないよね」

「それを警察に」

「相手も権力者だから揉み消されるわよ。それどころか、こっちが情報を仕入れてるのがバレて、最悪な状況に立たされるわね」

「じゃあ、どうすれば」

「ミャナが盗聴盗撮のためにハッキングや仕掛けを施してくれたから、相手が弱点を晒すまで待てば良いのよ」

 ミャナは静かにピースサインを出している。

 彼女に全て役割を奪われてしまったようで、何だかなぁ。というか、もう既に誰が仕向けたかまでわかっているのが怖い。

「そして時間を稼ごうとオレの乱家に頼ったの。結果は一日しか稼げなかったけど」

「それでは、ホヤケを守護し時間を稼ぐのがすべきことか」

「そうなるわね。だからこそ、隠れていて欲しいんだけど聞かないの。ナイシンでも言い聞かせられなかったんでしょ」

 ホヤケは一緒に戦うと話を聞かない。

 気持ちは痛いほど理解できる。自分のために戦っているのに自分は何もできないというのは残酷だから。

「お姫様が誘拐されたらゲームセットなのに。これが厄介な姫キャラを持ってしまった主人公の気持ちなんでしょうね」

「前言撤回しなさい!!」

 グロリーが机を叩き勢い良く立ち上がる。

 そしてワフと睨み合う。見えないが、彼女達の間で火花が散っているのだろう。

「仲間で歪みあっても解決には至らない。時間稼ぎというが、いつまでもできるものではない。ゴール地点はなんだ?」

「ゴール地点は『何故ここの土地を欲しがるか』を知ることね。それさえ知れれば、対策法をオレが作って共有するわ」

 俺は首を傾げ質問する。

「単純に土地が欲しいだけじゃないか?」

「ここの土地は何にも使えないわよ。学生や主婦が来るぐらいの土地を必死に奪う必要はないわ」

 こういう関係だと知識と頭が回るカランセンが言うのだから本当なのだろう。

 それにしても、ここそんなに悪い土地なのか。確かに裏路地が多くて、少し駅から遠い立地にあるけれど。

「土地が欲しいことがブラフかもしれないし、罠かもしれない。だから今は目的を行動しないと相手の掌で踊らされるってことでしょう?」

 色々と理解できた。つまり。

「俺が常にホヤケの側にいて守ってれば良いってことだろ」

「そこで俺達と言ってくれないのが、何ともソウルメイトらしいが」

「オレ達も協力するわ。とりあえず、大和日本倭の活動はしばらく休止ね」

「人が沢山いれば、目につくし派手な行動は取れなくなるんじゃないかしら。毎夜花火やゴムでも」

「ここで『大和日本倭』の交流会を開くってのはどうかしら?」

 グロリーの出した提案が静寂を生む。

「それね。ちょうど良いわね、早速オレはホヤケの父親さんと話をすませてくるわ。ナイシン、一緒に説得に来なさい」

「まだ誰も肯定してない。俺以外は静かに首を縦に振ってたのか」

 カランセンに手を引かれ、店の奥へと連れて行かれる。

 俺一人だけでも何とかしてみせるし、お前らを危険に晒したくないんだけど。

 俺はホヤケの父親に自分は反対だと伝えたが、『君一人で守る気だろう?なら承諾できない』と意見を突っぱねられた。

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