第6話 恐れず、終幕に咲こう

 私は大きなおおきな英雄の背を見て育った。

 私。

 この名称を使うのはいつぶりだろう。

 私を使わなくなったのは、決して嫌いなわけではない。

 大切な人からの助言だからだ。

 英雄になりたいのなら、『私』を使うな。だから、鍵をして閉じ込めた。

 だが、このセカイでは感情が膨れ上がり使ってしまう。

 私は英雄になりたい。

 英雄の栄光や名声が欲しいわけではない。

 彼の背が大きく、その人になりたいと思ったからだ。

 英雄になって、いろんな人を救いたいと思った。だけれど、私は大切な人を傷つけるばかりで救いもできない。

 哀れな愚者なのだ。

私は英雄にはなれない。

 それどころか、周りを傷つける猛毒の花だ。

 優しさという蜜で誘き寄せ、運命という猛毒で大切な人を苦しめる。

 大団円を笑顔で迎えることを許さない意地の悪い神様に苦しめられている。

 だから、私は幸せな世界を望んではいけないのだ。

 残酷な運命という毒針が待ち構えている花道なのだから。

 私は私の英雄を救い、息絶えよう。

 いや、私だけではない。みんなの英雄だ。

 英雄を助けに行こう。

 英雄はきっと自らの命と引き換えに人を助けようとしている。

 だから、こんな呪物のような私で救えるのなら安いものだ。

 その姿と顔には霧がかかっているが、きっとわかる。

 私にとって英雄は、どの花よりも美しい花だ。

 因果交流の裏で咲き、誰かの背をひっそりと押している。

 多くの人に嫌われるが、誰よりも優しく私では不釣り合いな素晴らしき人。

 あの人こそが、本当の英雄と呼ばれる人なのだろう。

 だから、救うのだ。いや、救わねばならない。

 私は憧れの英雄の一人を大きく傷つけた。

 二度目なんて許されていいはずがない。

 こんな私が生きていたら、更に人を……。

 私は英雄にはなれない。

 もう永遠にだ。願うことすらも許されない。

 見たくもない光景を見せられ続けている。耳と目を閉じたいのに閉じさせてくれない。

 このみっともない終幕を閉じたい。

 せめて美しく散りたい。


 

「どこから驚けばいいんだよ……」

 夜空にある白い闇にいる。

ヒバに手を引かれて空に駆けだしたと思ったら、瞬きすると白い闇の中にいた。

その中に翠緑な葉で埋め尽くされた道が現れたのだ。

 ここは草道と白い闇しか存在しない。草道の下を見ると夜空がある。

 なんとも、不思議な空間だ。真っ白なノートの上にいるみたいだ。

 何処へ続いているのか、そもそもここは何処なのか。

 その疑問を抱えているが質問できていない。

 ヒバは重く閉ざした唇を動かす。

「我が一回しか使えないヒロインまでの花道だ」

「さっきからヒロインってんだよ、詳しく教えてくれ。そもそもここは何処なんだ」

「此処は何処でもない。終幕と開幕の間にある余興。花が散った後の世界」

「わからねぇよ……」

 今まで以上に理解できないことを口にする親友に苦渋を噛み締めた顔を向ける。

 でも、ソウルメイトが何かを出したのは理解できた。

 だったら単刀直入に。

「この世界を創ったのは──」

「ソウルメイトを除いた全員だ。それ以上は答えられない、これは自己犠牲を善と感じる愚かな英雄を救う為の物語だ。だから、教えられない」

「なんで、俺の為に……」

「我もそうだが、ソウルメイトは我らの英雄だ。そんな英雄の最期がアレで当事者が納得できると。否、我はできない」

 唇を強く噛み、血が滴れ落ちる。

 居心地が悪い。最悪だ。逃げたい。なんで俺は生きているんだ。

 少しずつ思い出が蘇ってくる。いや、思い出していた。

 俺はあの日、死にそうになった。

「死の運命を捻じ曲げるなんて、お前らは神様に喧嘩を売ってるのか。俺の命が終わるなんて、生物の摂理だろ。受け入れてくれよ」

「それが本当に生物の摂理なら受け入れただろう。そうではないから、抗っているのだ。これは神、いや人のための終幕でもある」

 やっぱり。

「だったら、だったら」

「我にはソウルメイトを見殺しにするという選択肢は持ち合わせていない。そして自らも犠牲になる選択肢も。だから、耳を傾けて欲しい」

「そういうことなら、話を聞く」

「拳で語り合わないというのか。少し期待をしていたというのに。安心しろ、夜空には落ちない」

 ヒバは簡易的なシャドーボクシングを見せてくる。

「この世界の俺がどうであれ、やらねぇよ。そんな時間もないんだろ」

「理解しているのなら仕方ない。我も苦痛は避けたいが、ソウルメイトとは喧嘩を行ったことがなかったからな!」

「んがっ!なんで殴るんだよ」

 頬にヒバの硬い拳が入り、倒れて尻餅をついてしまう。

 怒りと寂しさと悲しさが混じり合った見たこともない顔で倒れた俺を見ていた。

 俺はゆっくりと立ち上がり、服を叩く。

「……拳で語ってはくれないのだな。理不尽で尚且つ不意打ち、怒りを露わにする場面だろう」

「何年、ソウルメイトでいたと思ってるんだ。お前が正しくないことで手を出さないことは、一番よく知っているからな」

 ヒバが俺に一歩ずつ近づいてくるのに反応して、ゆっくりと目を瞑る。

 反撃の意思がない事を伝えるために。

 ヒバがどんな表情をしているかはわからない。殴って収まるのなら、顔面が潰れるまでしてもらって構わない。

 拳は飛んでこなかった。襲ってきたのはヒバの体重で抱擁されていた。

「甘やかすことだけが優しさなんじゃないぞ、ソウルメイト!仲がいいからこそ、その人の理不尽な行為に怒るべきなんだ」

「……わからない。だって人を傷つけるじゃないか、元の仲に戻れなくなるじゃないか」

 俺はそれを経験した。だから、人を責めない。

 修復不可能にまで、壊れてしまった家族の関係。

「自分だけ責めて相手の悪口を責めないのは、相手への優しさにはなりえない。だから、厳しさも一つの愛の形なんだ」

「……」

「それに何のために『ごめん』があるんだ。間違えを恐れるな!」

「……うるさい」

「どうせ、引きこもっていた理由も。大切な人を傷つけたくないだろう。自分だけが傷つけば……と軽率な考えの中で」

「何が何が悪いんだよ!!」

 初めてここで俺は声を荒らげた。

「自分を大切に出来ない者は誰も大切には出来ない。自己満足だ」

「俺の何が──」

「テンプレだ。その答えに返す答えは『我には理解できない』だ。だが、だが、逆の立場で思考すれば自ずと答えは出てくるだろう。自分の大切な人が理不尽で苦しんで欲しいと、ソウルメイトは願うのか」

「そ、それは」

 俺の言葉が詰まったところをみて、ヒバは畳み掛ける。

「この世界を創造した我らはナイシンを大切に感じている。だからこそ、あんな全ての負を背負って死ぬような終幕を我らが易々と受け入れるはずないだろう。ソウルメイトも同じようなことをするだろう」

 何も言えない。

「自分だけが傷つけばいい、その考えはソウルメイトの大切な人を傷つけていることを努々忘却するな。大切な人が傷付くことは、痛くて耐え難いことだ」

 ここでヒバと俺は黙り込む。

 そして肩に水滴が落ちると共に話を再開する。

「……ボクは情けない。嫌われるのが嫌で言えなかった。それにこんな世界の果てで、あまりにも卑怯な言い方だ。ボクらはソウルメイトに甘えていた、ごめん、ごめん」

 ヒバが『ボク』を使う時は隠し事一切なしで、心から言葉を出しているときだ。

「謝らないでくれ……」

「謝るに決まってる。だって、ボクらは助けられるばっかりで、君の苦痛を見つめられなかった。ボクも含めて君に甘えすぎてた。ボクらは君の人生を滅茶苦茶にしたんだよ。そう責めているんだ」

 ヒバの抱きしめる力が放すように弱々しくなっていく。

 俺は逆にヒバを強く抱きしめた。

「そんなことない。俺はお前と出会えて良かった。相談しなかった俺が悪いんだよ、自分を責めないでくれ」

「ボクは分かっているさ。と言っても、君からそれを言葉にして伝えてくれて、ほっとしてる。ありがとう」

 その感謝の言葉は心臓に突き刺さった。

 そしてヒバは一呼吸して続ける。

「だから、ボクも言う。君と出会い共に歩んだ煌めく日常は、何よりも宝物なんだ。とても大切なものも手に入った。女性だらけだけど、愉快なゆかいな仲間たちも手に入れた」

「お前が、俺を振り回してくれたからだろ……」

「いいや、ボクの英雄。君が因果交流で可憐に咲く花だったから。ボクだけじゃ手に入らないものばっかりだった。君とボクらの考えは一緒なんだよ」

 ──ありがとう。

 再びヒバは感謝を言葉にする。

 そして、ゆっくりと二歩三歩と下がっていった。

「こうして、男同士の熱い抱擁もいいね。今までできなかったから、君とこう触れ合えるのは嬉しいし殴れたのも良かった」

「人を殴って喜ぶなよ」

 その瞳は真っ直ぐで、暗い闇を見てはいなかった。

「さて、ボ─いや我よりも重症なヒロインたちがこの花道の先にいる。我の英雄よ、彼女らを救ってほしい」

「ようするにギャルゲみたいに彼女たちを説得するんだろ」

「……雰囲気台無し。簡略化するなら、その通りだ。だから、我の知恵を借りるべきだと、そう思わないか」

「ああ、ソウルメイト。ばっちりなアドバイス頼むぜ」



 空は落ちた。 

 輝きもしない暗い白の夜。

 夜空に咲く星の姿は消え去った。

 人々は空に生かされていたのか、星が消える毎に薄くなって消えていく。最初から、そこに存在なんてしてなかったかのように。

 人々はそれには気が付くことすらなく、いつも通りの平穏な日常を送っている。

 この世界に幕が下ろされる。

 キャストを配置しなおさなければならない。

 次の世界のために、違和感がないように。

 そして、この魂たちが再びあの世界へ帰れるように。

 少女は世界を巻き込み、大切な人を取り戻すため舞台をセットする。

 同時にこれは呪いの返却でもある。

 力、奇跡、そんなものを人間が使いこなせるわけがない。それは呪いと大差ないのだ。

 神はきっとこの力を探している。

 ならば、憤怒される前に返却しなければならない。

 こっちだって、こんなもの背負って生きていくなんて冗談じゃない。

 普通に暮らして人として命を終える。できれば、愛してる人と一緒に命を終えたい。

 だから、どんな魂であれ保護し元に戻せるようにしなければならない。

 如何なる理由が有ろうとも、どんなに悪人の魂でさえも保護する。

 さあ、世界を循環させよう。

 大切な人を取り戻し、太陽の下で咲かせるために手を尽くそう。

 彼の終幕を後悔が無きよう終わらせよう。

 彼が断念した望んだ終幕へと至るために。


 

「不変だ、あの時と一切。唐突に婚約などと、いくら可憐な少女であっても許されない」

「そういうなって。彼女たちだって勇気を振り絞って──」

「何故、お付き合いを跳躍して婚約に至る!YESでもNOでも死という結末。こんな理不尽に憤怒しても良いのだぞ」

 俺は女性と付き合ったことがない、元居た世界でもこちらの二つの世界でも。

 心に抱いてた思いを友人が言葉にしてくれて少しだけ嬉しい。

 いきなり結婚だもんなぁ。

「恋愛の先輩として教えてくれないか」

「はぁ……付き合いを始め二週間で元居た世界は崩れ落ちたが」

 ヒバは元居た世てに彼女がいた。

 正直、彼女の攻めが凄まじくヒバは振り回されていたように見えた。事件を重ねる毎に彼らの愛は深まっていたと思う。

 というか、出会って数日で付き合い始めたと思っていた。

「教授するならば、お付き合いはゴールではない一つの過程だろう」

「どの口が言う、あんなにベタベタだったくせに。見てるこっちはあまりの熱量に枯れそうになったわ」

「我らは心が繋がっているからな、思い人の心を読むなんて朝飯前」

「それは流石にかっこつけすぎだろ」

 勝ち誇ったように、鼻で笑ってくる。

 最初おどおどしてたと思ったら、ある日を境にベタベタしやがって。

「まぁ、我らも様々な喧嘩を乗り越えて至った結果だ。特に議論となったのは、ソウルメイトとひと時も離れず側にいたことだが」

「だから、俺にかまうなって言っただろ」

「雨降って地固まるだ。そういう記憶もまた良きものとして心に咲いているのだ」

「彼女さんかわいそー。酷い彼氏さんだ」

「ソウルメイトだけには言われたくない。告白もできない腰抜けめ」

「んぐぅ……」

 図星過ぎて言い返すことができない。

 自分を卑下して、告白しなかったからなぁ。告白しようとは思ってたんだが、先を越されてしまった。

「我も告白をされた側だが」

「腰抜けじゃん」

「彼女は負けず嫌いだ。告白するのも時間の問題とはいえ、先に告白されるのが嫌だったのだろう。だからといって、皆の前で不意打ちのように告白と接吻をするのは卑怯だろう」

 彼は照れながら頬をかいていた。

 彼女達と出会った日、いきなりヒバはキスされた後に告白された。ヒバは考えさせてくれと答えを保留にしてきた。意味があったのかわからないぐらいベタベタしてたが。

 こうやって過去を手繰ることで少しずつだが思い出せている。だけど、まだまだ足りない。

「かなり記憶を取り戻したようだな。それでも我だけでは完全に記憶を蘇らせることはできないだろう。惚気話は終いにしよう」

 正直言うと、とても気になる。

 どんなに甘ったるくてもソウルメイトが迎えた終幕を聞きたい。

 それよりもだ。

「ワフが俺のことを」

「その選択自体が破滅へと向かうと認知して、舞台をリセットする為に及んだ行為なのだろうな」

「殺す必要あるかなぁ」

 弱々しく呟く。

 一瞬とはいえ、耐え難い痛みだ。あんな痛みは元居た世界でも味わったことはない。それでも仲間のためであるのならば、耐える。だから一言だけでいいから零して欲しい。

「それだけ複雑な問題なのであろう。少なくとも彼女は情に踊らされていないのだろう。冷徹ながらも、正しい判断をしている」

「……」

 そんな彼女を殺そうとしたのか……。

「慈悲深いソウルメイトのことだ。『そんな彼女を殺そうとしたのか、なんて愚かなのだろう』とでも考えているのだろう。彼女は覚悟を持ってソウルメイトと敵対している」

「だから、言葉の後半までは考えてねぇよ」

 こいつらは勘が鋭くて嫌になる。

「少しは前を向けるようになったか。それならば」

 その呟きはとても小さかったが聞こえた。

 そして、再開してから見せた笑顔で一番美しく咲いていた。だが、胡蝶の夢だったかのようにほんの一時だった。

「ソウルメイトよ。自分だけのヒロインを探し出せ」

「ヒロインって。その前に──」

「お付き合いはしたか?お互いにそれを恋情だと確かめたのか」

「いや、それでも、お付き合いでも──」

「婚約とお付き合いは似て非なるものだ。お付き合いとはお互いに好きな人を自分に染め上げる期間だと考えている。そもそも我らのように、最初からお付き合いする前にラブラブなのが少数なのだ」

「隙あれば自語りしやがって。だから、俺が彼女達の色に染まれっていうのか」

 無言でヒバは首を横に振る。そして縦にも。

 いやどっちだよ。

「ソウルメイトは色がない状態。だが、君は好きな花があり染まっていた時期が存在していた。だから、その花を探すんだ」

「それでも殺されたらどうすればいい。また作戦会議か」

 ヒバは小さく否定した。

「ここで助言をした後に我はしばらく冬眠をする。次の世界で出会うのは、我だが此処にいる我ではない。これが最初で最後の作戦会議だ」

 いきなり放たれた別れの言葉に固まる。

「そんな憐みの表情をしないでくれ。別れというのは始まりでもあるのだ。悲しいことだらけではない。それに少しほんの少しだけのお別れだ、笑顔で駆けてくれ」

 俺とは対照的に涙を浮かべながらもヒバは笑顔を咲かせる。

「それがお前の選んだ自分も幸せになれる花道なんだろうな」

 ヒバは小さく頷く。

 その瞳は真っ直ぐこちらの瞳を捉えていた。いや、彼女との希望溢れる毎日を見ているのかもしれない。

「我には思い人もいる。思い人とソウルメイトをどちらも取れる最善の選択肢だ。我は犠牲で成り立つ未来を選べるほど謙虚ではない」

「なら、ならいいんだ。元居た世界に戻ったら、一緒に──」

 俺の言葉は聴こえただろうか。そして思いは伝わっただろうか。

 いや伝わったのだろう、驚愕と安心した顔が混ざった顔をしている。

「だから、だから、この時までソウルメイトは趣味を秘めていたのだな。そんなの決まっているだろう。もちろんだ!」

 ヒバは俺の胸に強く拳を突き付けた。

 俺は笑顔を咲かせているだろうか。きっと大丈夫だろう。彼も笑ってくれている。

「というか、この世界は──」

「これはヒロインではなく、友人エンドというものだ。例外中の例外。気にするな、またこの世界に戻ってくるだろう」

 そうなのか。

「この花道?お前の説明だと、交通する方法があるんだろ」

「駆けろ」

 原始的~。

「徒歩は許されない、駆けろ!男なら振り向くな」

「ああ、くっそ。わかったよ。またな、もしお前が犠牲になってたら地獄まで追いかけて連れ戻してやるからな」

 背を向けると強く押された。

 それだけ言って、足に力を込めて駆ける。この白い闇の中、緑色の花道を踏みしめて。

「それもぜひ見てみたいが、我は思い人がいるのだ。這い上がっても脱出する。また会おう、ソウルメイトよ!」

 振り返らない。

 いや振り返らなくても、表情が読めるようだった。だから最後にこれだけは言おう。

「俺が女だったら、お前に惚れてただろうな」

「ふっ、そんなことがあっても、我は今の思い人に勝らないだろうな。ソウルメイトの二人でもな!!」

 先すら見えない白い闇の奥の奥へ。希望の光の見えない常闇へ。

 


 ソウルメイトの背が見えなくなってしまった。

 ボクの選択は彼らには拒絶されてしまうかもしれない。 

 ボクは強欲だ。ソウルメイトの二人も救えない選択肢なんて最初から選ぶ気がない。

 これは裏切りだ。

 嫌われてもいい。ボクはこの道を選んだ。後悔なんて絶対しない。

 ボクも大きくなったのだと、嫌でも思い知る。

 ナイシン。彼はボクにとっての英雄だ。

 独りの時間を壊し、虐めという地下から救い出してくれた。気が付けば、仲間が沢山できていた。

 そして新たなソウルメイトさえもできた。

 このソウルメイトは、ボクらにとって特別な意味がある。

 そして思い人まで。贅沢なことに両思いだった。

 告白された時、心にとんでもない衝撃が襲ってきた。

 同じ気持ちだったことを伝えると、彼女はより一層に美しい笑顔を咲かせた。

 今思えば、ナイシンに与えられてばかりの人生だと思っていた。

 けれど、ボクも思い人に沢山のものを贈っていたのだ。

 人がより良く生きようと努力しているときは、誰か為になっている。

 それを理解したボクは、この終幕の中で一番強い存在だろう。

 だから、やらなければならない。

 世界も友人も恋人も強欲に全てを救おう。

 呪い?奇跡?神?

 人が超えれるものだ。人が超えられないものなんてない。

 だから、これは些細な壁でしかない。

 それに──。

「ソウルメイトの趣味を聞けて良かった」

 彼は本当に背負い過ぎだ。

 趣味すらも閉じ込め、自分を貫いていたのだ。

 それを知ってしまえば、迷う必要なんてない。

 問題は寝坊しないで、終幕に起きれるかだ。

「……」

「来てくれたのか、我の思い人よ」

 独特な気配で自分の思い人がいることに気が付く。

 その人は真っ黒な影となっていた。

間も無く世界に幕が下ろされる。

 影が一緒に歩もう、と手を差し伸べる。

 ボクはそっと自分の手を重ねる。

 すると、彼女の思いが手を伝って心に届く。

「ありがとう、一人で歩むには自信がなかった」

 ボクは感謝を伝えて、彼女の両手を握った。

 そしてセカイは。


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