第4話 孤独ノ終幕 後半~幸福を告げる自己愛の強き花
目を開けば、太陽の日も届かない部屋の中。
「夢じゃないんだよな」
こんな珍妙な世界で一人環っている。
前世の記憶が無ければ、自分という個が変わっていたら苦痛では無かった。割れた硝子の破片のような記憶が心を刺してくる。
俺は何の為に世界を環っているのだろうか。こうしていれば、神様から指令が来るのだろうか。
「教えてくれよ……」
暗闇は優しく抱いてくれるが、答えをくれない。ただ、優しく寄り添ってくれるだけ。
「中身も外見もそっくりって、どんな罰ゲームだよ。罪なら悔いるから、せめて教えてくれ」
自殺を今すぐにでもしたいが、どうせ循環するのだろう。こうして、生き続けるしか選択肢はない。
彼らに関われば、きっと告白するイベントに繋がるのだろう。なら、ひとりぼっちでいい。
「世界一酷いひとりぼっちだな」
ひとりぼっちになりたいわけではない。俺は意外と寂しやがりやだ。一人でいることは、辛く悲しい。
誰か、この循環から救い出してくれないだろうか。
「それでも、生理現象は動かないことを許してくれないか」
腹が俺の悲鳴を無視して鳴く。空腹で死んでは話にならないので、立ち上がって玄関に向かう。
「誰もいないな……」
玄関の覗き穴から、人がいないことを確認する。
十分に注意してから、ゆっくりと押して玄関の扉を開ける。
「……ごめん」
玄関の扉の横には、盾の弁当箱とミャナのメッセージがあった。
『メイシン君。諦めてる時間はないんだよ。カランセンの気持ちを踏みいじるの。何かあったら、仲間なんだから相談してほしいよ』
それに対して謝ることしかできない。
「それにこんな大量に日常品を、カランセンだな。ゲームまである」
隣の袋には一週間分の生活必需品が置いてあった。その中には見たこともないゲームまで入っていた。
パッケージにはブーストモンスターズと書かれている。
「きっと俺が情報遮断してる時に発売したんだろうな」
そういえば、カランセンはゲームが好きだったな。
カランセンとの出会いは……。
今度はカランセンとの出会いを思い出して、時間を潰していこう。
ホヤケと出会った日の太陽が空を橙色に焼く夕刻。
「ねぇなんでそれ待ち受けにしてるの?かっこいいけど女でしょ」
「わかってないなぁ。先輩は男の子よりも何倍もかっこいいんだから」
「わかりたくないわよ。今日は別のゲーセンいこ、嫌な予感する」
そんな女生徒の会話が──
「今日は敵だからな」
「やめてください」
聞こえなかった。徹底的にヒバを叩き潰すことしか考えてなかったからだ。
ヒバとゲームセンターの休憩所に座っていた。お互いに息が上がり、絞り取られるかのように汗水が溢れ出ている。
「ま、まさか、今まで本気を出してなか、はぁ……はぁ……ったなんて」
「口調が、元に……はぁ戻ってるぞ。くっそ……あんな激戦はぁ……」
AZXという大人気バトルロワイアル。
それのバトロワを消し、普通のFPSとして昇華させたのがゲーセンにあるこれだ。見た目は球体で、持参のイヤホンやキーボードなどを刺せたりできる。
ここだけの限定アイテムもあり、ヒバはそれを目的にして遊んでいると聞いた。
なるべく仲間ガチャという運要素を消したいらしく誘ってくる。そして今日は一緒に戦わず、拒否してやると敵同士になった。
お節介を焼かれて怒り心頭だったからだ。ゲームで懲らしめてやろうと意気込んだ。
そこまではよかった……。
「カランセン……強すぎだろ……。なんで、無防備で突っ込んでくる癖に中々やられないんだ」
「ソウルメイトは死守した……神々の舞踏。人には踏み入れられぬ領域」
ヒバの言う通り、アレをキルできたのは俺しかいなかった。それこそ、俺も開始三分まではリスキルされまくった。
相手は残像を生み出すような素早いキャラコンを繰り出してきた。射撃精度も高くこちらも相手の動きや癖を読まなければやられてしまうほどだ。
ヒバをキルするために攻めたかったが、アレがいるせいで防衛するしか無くなった。
今日はヒバをリスキルする予定だった日なのに。
結果は接戦の末に敗北。序盤にポイントを取られてたのが大きな敗因となった。
「ソウルメイト。我に本来の力を」
「出したら、お前が楽しめないだろ。あくまで接待だ。悪く思うなよ、俺はそれでも楽しんだからな」
「ソウルメイトには敵わぬ」
敵わないようにした。
折角、遊びに誘ってくれているのだから足を引っ張りたくない。自宅にはpcはないから、腕を上げる為に一日だけ休んだこともある。だから実力を身に付けるために、何百枚のコインを溶かしたことか。
ちなみに『ゲスト』として遊んでいる。ユーザー登録はしていない。そんなものに興味がないからだ。
「カランセン、プロゲーマー孤高のフェンリル」
「そりゃあ、強いわけだ。もう今日は十分、帰ろう」
「同意」
久々に本気で集中してやっていたので、家に帰ったら倒れるように寝るだろう。
息を落ち着かせて、帰ろうと頭を上げた。
だが、それを静止するイベントが起こる。
「あの、エナジードリンク飲みませんか。取りすぎちゃって」
俺ぐらいの女性が声をかけてきた。
帽子を深く被っているので顔がよく見えない。
声からして女性だいうことと、身体的に俺らと同年代というこは予想できる。あと田舎から来た人なのか、丁寧に喋るのが慣れていない様子だった。
両手にペットボトルのエナジードリンクが握られており、こちらに一人一つずつ差し出してきている。
人違いかと思ったが、どうも周りを見渡す限り人がいない。決して、人が少ないゲーセンというわけではない。
そういう時もあるか、気にするほどでもないだろう。
「ああ、ありがとう。どれぐらい取り過ぎたんですか」
「ええっと、あのゲーム機に束になってる物を調子に乗って三つも取ってしまって」
ペットボトルの蓋を開けると、炭酸が抜ける音がする。喉が水分を求めているので、迷い無く口をつける。
「保存できるだろう」
「これ以上、エナジードリンクを持ち帰ると両親に激怒されてしまうんです」
「ふむ」
鋭い目線でヒバは彼女に質問をしている。
ヒバは警戒をしている声色を出していた。珍しく目も細め威嚇するように彼女を睨み付けていた。
それでも彼は警戒をほんの少し解いて、ペットボトルに口をつけた時だった。
「……あ、れ」
視界が歪み、糸のように容易く意識が切れた。
「……で……ね…の。お……」
聞いたことがない人物の声が聞こえる。何者かに身体が揺らされている。
何十秒かけて、ようやく重い瞼が動く。
「ようやく、起きたわね」
目を開けば、目の前には可愛らしい少女の顔があった。幼い顔つきだが、女性らしさがしっかり出ている。女性だが、少し目が鋭い気がする。
ギラギラ輝く金に近い黄色のポニーテールで凶器のように鋭く口角を上げている。
「ちっかい」
「あっ、ごめん。離れるわね」
あまりにも近い。前髪なんてお互いに触れあっている。
俺が少しでも顔を動かせば、唇が触れてしまう距離だった。顔が急激に熱くなっている。
「これ何本に見えるかしら」
「三本だな。ここは何処で、あんたは誰だ」
手足が縛られ自由に動かせない。力を加えてみるがびくともしないほど強く縛られているが、あまり痛くはない。
周りを見渡すも、情報を掴めそうな物は存在しない。部屋の全体像がわからないほどに暗い。一つのライトだけが、俺たちを照らしている。
だから、愚直に問うしかなかった。
「お友達もつれてくるから、オレが誘拐した目的を含めて話すわ」
「どうして俺たちを」
「聞こえなかったかしら、数分だけ待ってほしいのだけど」
そう言われて、誘拐された側が待てる訳がない。でも、これ以上は刺激しないほうがいいかもしれない。
ヒバがどうなったか心配で落ち着かない。
彼女がケータイで誰かに電話をすると、間も無くヒバが現れた。
彼も同じようにして縛られ、黒スーツの男に力を引っ張られてきた。
「惨めたる行為は……」
「俺なら大丈夫だ。そっちこそ、大丈夫か。顔色が悪いぞ」
「言葉の反復。ソウルメイトも顔色が優れていない」
服の上から見る限りは、何処にも怪我のような物はない。少しは胸をなでおろすことができる。
「まさか、アーケードのゲストとして暴れ散らかしてるのが、あんただったなんてね。ナイシンさん」
「そんなに、暴れてた記憶はないんだが」
「はぁ、ネットを見てないかそれとも興味がないのね。あんたに舐めプされて、嘆いているプレイヤーが何人も湧いてるというのに」
「こいつを主役として立たせたくてだな」
「それが舐めプ。ヒバだっけ、それが来るタイミングで死んで、彼が倒せるように微調整してるらしいじゃない」
「……戦士を愚弄する行為」
酷い言われようだ。あそこまでするのに、かなり精神を削るというのに。
「で、そんなお前は俺に対しての復讐をしたくて誘拐したのか」
「そんなくだらないことするわけないじゃない。というか、ヒバだっけ接待されてることに気が付かなかったの」
「……戦場の手応えが有った。戦う度に我も成長していた」
「まさか、成長することまで計算して調節してたの!?」
「君の話を聞く限りはそうなる。そして、ソウルメイトは分かりやすく口笛を吹いているだろう。それが答え合わせとなるはずだ」
「~~♪」
二人が呆れた顔で凝視してくる。
俺はあくまでゲストだからな。
「なんでゲストとしてやっているの。意味がわからない」
「ソウルメイトは一人暮らしだ。なにせ、家族とバラバラで暮らしている。だから、パソコンを持つ余裕がない。それに興味がないのだろう」
「言い方を変えるわ。献身になってまでゲームをするって頭おかしんじゃないの」
「誘拐した奴に言われる言葉じゃない。俺を誘拐しても、何の得もないってのに」
「……お願いだから、自分を大切にして」
吐き捨てるように言った言葉は、何故かヒバに突き刺さっていた。
ヒバはとんでもなく苦しい顔をしている。
「誘拐した価値はあるわ。オレとAZXのバトルロワイアルのチームを組んでほしいから」
「……我の言葉」
「もちろん、忘れてない。どちらにも欲しいPCを買い与えるわ。こちらがお願いしているのだから、それが当り前でしょ。それに誘拐したのも、あんたらが襲われるのを守るため」
「……やはり、あの静寂は。」
意味がわからない。
なんで俺たちが襲われる理由があるんだろうか。ああ、ホヤケを襲った仲間が復讐しに来たのだろうか。
「なんか深く考えてるみたいだけど。ヒバ、教えてあげたら」
「我々にも事情がある故……」
「じゃあ、後で聞くわ。嫌な予感しかしないけど」
昨日今日で復讐に来るなんて、相当な仲間想いな奴らだ。
「ええっと、ナイシンだっけ、オレとAZXでパーティーを組んでくれないかしら」
「いいぞ」
即答すると、彼女は頭を抱えてため息をついた。
「ねぇ、簡単に自分を売ってるけど大丈夫なの。これ親の元に返した方がいいわよ」
「ソウルメイトは簡単に他人に献身をする。献身する相手を選んでることだけが救いなのだ。色々あったようで彼は親とは絶縁している。いや自らしている」
「……あんた、大変なのね。相当厄介な人なのね」
「なんか、俺さ貧乏神みたいな扱いされてないか」
ヒバの顔は徹夜で勉強した後のような疲労しきった顔をしていた。
俺はヒバに迷惑をかけた記憶がないんだが。
「断られると思って、色々誘い文句考えてきたんだけど。全てパァになったわ」
「それよりも、自己紹介をしてくれないか」
「ああ、ごめんなさい。恐れ慄きなさい、オレはカランセンよ」
「……」
「興味がないから覚えてないのね」
だれだっけ。最近聞いた気がするけど。
カランセンは名前を出せばわかってもらえると思っていたようだ。
「なんで親父ギャグ言った後みたいに、黙り込んでるのよ。さすがに泣くわよ」
カランセンは涙目になっていた。今にも泣きだしそうで、ショックが大きかったことがわかる。
マジで思い出せない。誰だっけか。記憶の奥底でようやく、見つけ出す。
「ああ!あのAZXのバトルロワイアルで強い人か」
「!!」
思い出したことを言葉にすると、暗い彼女の顔に光が灯った。その顔をみて、疑問が頭の中で形成された。
「なんで、そんなに強いのに俺の力を頼ろうとするんだ」
「バトロワでソロモードはないのよ。だから、オレのチーム『大和日本倭(ザ・ニホン)』を作ろうとしてるの」
「日本人じゃないのに、ザ・ニホンって」
カランセンには西洋人のような顔立ちから、髪色まで日本らしさがない。金髪に関しては染めた形跡はなく、完全に地毛だ。
「生まれも育ちも日本人!外見だけで判断してほしくないわ」
「じゃあ、親が外国人なのか」
否定するように顔を横に振った。
「……え。じゃあどういうことだよ」
「どちらの祖父母に外国人がいて、その血が偶然たまたま現れたらしいわね。だから、オレが産まれた時は大騒ぎになったらしいわ。惚気話として、耳に胼胝ができるほど聞かされたの」
「日本人らしく黒に染めないのか」
「親が与えてくれたものだから、それを塗り潰そうとしないわね」
「……」
その言葉は少し胸に刺さり、唇を噛む。
「で、我もチームに加入するのか」
「ヒバも結構な実力を持っているから、加入してほしいと考えてるわ」
「じゃあ、我もソウルメイトと同じく加入しよう。ただし、告げることがある」
「決まりね。ええと、改めて聞くけど、あなたもチームに加入してくれるかしら」
「男に二言はない」
断る理由が見つからなかった。
彼女は何か言いたげだが、問い詰める様子はないようだ。
「……わかったわ。じゃあ、食欲から堕とそうと思って準備した料理があるんだけど、食べていかないかしら」
「いや、それは流石に」
「ソウルメイト、恩義は受け取っておくもの」
「今日はこんなことばっかりだな……」
やたらと異性から与えられてばかりだ。こんなに恩を受け取って、返せると思えない。
それにまた──。
カランセンは袖の中からナイフを取り出した。
「ナイフでロープを切るから、じっとしてないと掠り傷ができるわよ」
「なんで袖の中に入ってんだ」
「護身用よ」
「なんで、こんな女の子とばっかり」
今の女性の社会では武器を護身用に持つのが流行っているのだろうか。
「……ああ、鳴いている」
「おい、大丈夫か。ヒバ」
ヒバはPCを見ると軽くよろめいた。
俺はそんな彼が倒れないように、背後から両肩を持つ。
「その神具、合わせて平凡な民家が建つ」
「……」
一瞬だが、全身の生命機能が止まった。
「地雷な野良と連続でマッチして、怒という感情すら消したような顔しないで。ちゃんと人件費も払うわ。働き次第だけど、最低でも三十万はどうかしら。バイトしてないんでしょ、ちょうどいいと思うんだけど」
「こっちが固まっている間に、話をどんどん進めるな。ヒバが死んで俺も追いつけない」
「……生きていて良かった」
「確定申告に関しては、オレがなんとか」
「止まってくれ、頼むから。本当に待て!せっかち過ぎだろ」
「ああ、進学するなら──」
「ああああああああ。本当に止まれ!止まれって言ってるだろ」
大声をあげて、必死になって彼女の口を止める努力をする。
「こういう面倒くさいことは、ちゃっちゃと終わらせるに限るわ。そこまで言われたら止まるわよ」
ため息と共にようやく彼女の口が止まった。
勝手に色々なことが進展して、俺もヒバも情報の波に押しつぶされるところだった。
「取り敢えず、その機材はいくらするんだ」
「多分だけど合わせて五百万はしなかった……したかもしれないわね」
「俺たちに、そんな価値があるとは思えないぞ」
「平凡な装備で十分」
「少なくともそれだけ投資する価値があるって考えてるの。だから、喜んで貰いなさい。それとも、別に欲しいものがあったら買ってあげるわ」
一周回って、というか怖い。素直に喜べるはずがない。
「ここにオレが譲渡した契約書と、それにかかる贈与税とかも」
「悪意がないことは分かったが、なんでそんなに」
「何度も言ってるじゃない、これはオレの投資よ。だから、あんたらはオレの期待に応えてくれるように頑張ってくれれば問題ないわ。もちろん、ずーと拘束はしないわよ。逆効果になるから。だから、必死になってオレの期待に応えてちょうだい」
カランセンは俺の胸に強く拳を突きつけた。
彼女の真っ直ぐな瞳を見て、バラバラな気持ちは一つに纏まった。
「じゃあ、あなたに任せる。連絡先も交換した方がいいだろ」
「ようやくオレの気持ちが伝わってくれたようね。ありがと、色々と進めておくわ」
「感謝をいうのは、逆にこっちなんだけどな……」
いくら、仕事みたいな関係とはいえ、何から何まで与えてもらっている。感謝しなければ、逆に罰が当たるだろう。
頑張って彼女の期待に応えるとしよう。
「進学するなら、報告して。全額負担してあげるから」
「せめて、貸すといってくれ。もらわないからな!絶対返す」
「たかが、数百万でしょ」
「庶民の数百万は、重いんだからな……」
そんな無用で多大なエネルギーを要するやり取りを繰り返した。
「孤独の終幕」
ここで、カランセンとの記憶は終わりだ。
「孤独ノ終幕」
詳しいことは思い出せないけど、あれ以来一人でいる時間が限りなく減少した。とても、充実し輝いていたと断言できる。
それ以上に輝いてた時はあったが、それを思い出せない。
油断して長時間の間、外で思い出に慕っていた。だからだ、会いたくない人と出くわしてしまう。
「ナイシンくん!」
怒鳴り声に気が付くと、目の前にミャナがいた。
逃げようと考えるよりも先に腕を掴まれてしまう。
「なんで、カランセンちゃんどころか僕たちから逃げるのかな。仲間だよね」
振りほどく気を無くさせるような力で腕を掴んでくる。爪を立てられてたら、肉に食い込み鮮血が出ているほどの力だ。
そこから、彼女が自分の怒りをなんとか制御して、話し合いで解決しようとしていることに気づく。
それでも……。
「頼ってよ、なんでも一人で背負い込もうとしないでほしいよ」
「……ごめん」
頭を下げると、掴む力がさらに強くなる。
同じ立場だったら、俺も同じようなことをするだろう。
「答えられないなら、連れていくから」
「……やめてくれ」
「じゃあ、納得できる理由で答えてよ!」
感情を全てをぶつけるような怒声。
それでも俺は。
「答えられたら、解決できたら、俺はここで引きこもってない。俺が諦めの悪さは良く知ってるだろ。そんな俺でも挫けているんだ、独りにしてくれ」
「それは一人で解決しようとしたからだよ。だから──」
「何度も頼った。でも、変わることは無かったんだ。信じられないと思うが、俺は超常現象の渦に巻き込まれてる。人の手で何とかなる領域の話じゃないんだ」
ワフが殺しに来る、は言わない。
言ったところで解決どころか、関係を完全に壊してしまうだろう。リセットされるとしても、そんな姿を見たくはない。なら、俺が秘密を抱えたまま一人でいればいい。
「何年も一緒にいたからわかるよ。大事な人が関わってるんだよね」
「……放してくれ」
「ナイシンくんはどんな絶望的な状況だって、諦めないよね。身も心も渡すどころか、注ぎ込んでくるだよね。でも、自分と大切な人の問題になると──」
「うるさい!黙れ」
「黙らないよ!僕だって、大切な人が背負い込む姿をほうっておけないから。ナイシンくんだって首を突っ込むよね。それと同じだよ」
「──っ」
何も言い返せない。
真っ直ぐで蒼く透き通る瞳が思考回路までも見ているかのようだ。答えたい吐き出したい気持ちが、喉まで言葉として出かかっている。
「ソウルメイト、不治の病が完治したな」
「えっ……」
唐突な登場と唐突な言葉によって、心がぐちゃぐちゃになっていく。
俺の生前の病気は、もちろん生前で親しい人しか知らない秘密だ。その人がいるとしたら、俺と同じように転生した人物しかいない。
声の方を向くと、汗だくになって身体から煙を出しているソウルメイトのヒバがいた。
「奪い取ってしまうが、我とソウルメイトで密談を開く。ここは貸しにしてくれないか」
ミャナは俺を見てから、小さくため息をついてヒバと向き合う。
「不治の病って大袈裟……それなら前から言ってるはずだよ。任せるね、聞き出したこと一言一句教えてよ」
「ありがとう。この恩はいずれ紡ぐ」
ヒバはミャナが去って行くのを見届けてから、こっちを振り向く。
あまりの予想できない展開に固まるしかなかった。泥のようにぐちゃぐちゃになった心も固まっていない。
「さてと、ソウルメイト」
「信じられない。だったら、あなたの日本人だった時の名前を言ってくれ」
この世界でもあちらの世界でも使われていない名。つまり知ることのない名前。
それを答えられるなら、彼は俺の良く知るソウルメイトで間違いない。
ヒバは少し口角を上げてから、一息吐く。
「ボクは広瀬万斉。一緒にこの終幕を終わらせよう」
喜びで心は益々ぐちゃぐちゃになっていく。止まった時が再び動き出した。
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