第1話 さぁ手を叩いて終幕を迎えよう!!
「結婚してほしいです」
……ん?んんんんんんんん、はぁあああああああああああ。
彼岸花のような真っ赤なセミロングの女性からの告白で意識が目覚めた。
おっとりとした表情、少し垂れ下がった瞳、豊満な胸。お姫様の格好がとてもぴったりな女性だ。
包み込むような優しさを持ち合わせた女性からの魅力的な誘い。
即答してしまいそうになるが、唇を噛み締めて我慢する。
「ごめん。ちょっと待って、整理させてくれ」
「大丈夫です。待ちますから」
俺は死んだ……のか?そして転生したら、いきなり人生の最終局面だった。あと大事な記憶が抜け落ちてるのは、理解できている。きっと転生したからだろう。
取り敢えず前世は生きていけば、思い出すかもしれないから後回しだ。
「……」
静かに周りを見渡す。アニメや漫画で見るような立派な王宮だ。天井から床まで手を抜いていないのが素人でもわかる。
記憶を信じれば初めてここに来るわけではないのだが……初めてきた気分だ。
周りを見渡す中で目に留まる集団がいた。女性の三人グループでどれも既知の存在。
「うーん、こんな時に上の空なの。しっかりしてほしいな」
済んだ青空の色をしたボブカットの女性。似合わないドレス、発展途上の身体。それ以外は至って普通。
この世界で幼馴染の村人ミャナ。
「先に告白されて驚いてるだけでしょ。先にされてみっともないわよ」
黄色い水仙のような色をしたポニーテールの女性
目は鋭いものの顔立ちは整っており、まるでフィギュアのような容姿をしている。
この世界で旅を共にした仲間、狩人のカランセン。
「いまから、夜の営みでも考えてるんでしょう」
真っ黒と淡い紫が混じったロングの髪の女性。バストウエストヒップが男が憧れ求めるような贅沢ボディ。凛として華のように綺麗で美しいモデルのような容姿。
この女性もこの世界で旅を共にした仲間、呪術師のワフ・ポリ・レゴー・ルスド。
(いや、長すぎだろ名前……)
仲間はまだ二人いるが、この場にはいない。
「ごめん、もうちょっとだけ待って」
取り敢えず、この世界の情報を頭の奥底から引っ張ってくる。
この国はニョイという。
ニョイは長らく魔王に侵略され続けていた。
そして王国は勇者を異世界から呼んだ。
それがメイシン。つまり俺だ。
なんやかんやで魔王を打倒しお姫様ホヤケに告白されてるってわけだ。
……意味がわからん。
なんで今、記憶を取り戻すんですか。過程は飛ばしちゃ駄目だろ。
だって、彼女は俺のことを知ってるけど俺は彼女のことを知らない。
オタクの憧れ、異世界転生……いや転移なのか。いや、俺は死んだ(?)から転生だよな。
身体は特に変化はない。あるとすれば病気が治っていることだろう。
「あの、やっぱり駄目ですか?」
ホヤケはこちらを覗き込んでくる。
距離が近い。俺が一歩踏み出せば、唇と唇が触れ合ってしまうまで顔を近づけてくる。
彼女のほのかな香りが鼻に届く。本能が叫んで暴れてしまいそうだ。
彼女のことは嫌いではないし、逆に好きという気持ちが外に溢れ出てしまいそうだ。
だから、返事は決まっている。断る理由が存在しない。というか、なんで自分から告白してないんだよ俺。
「も、も、もも」
「待たせてんじゃないわよ!」
カランセンが待ちきれず、声を荒らげる。
緊張し過ぎて上手く喋れない。
だってさぁ。こんなこと転生前もしたことないから、初めてだよ。誰だってこうなる、異性問わず誰でも。
だからこそ、しっかりと彼女に答えなきゃいけない。深呼吸して心を落ち着かせて……。
それに大切な記憶を取り戻すためにも、この世界で生きていきたい。
さらに、こんな魅力的な女性と結婚できるんだ。富も名誉も愛する人も全てが手に入る。
だから、問題はない。
だから答えは……。
「もちろん!これからよろしくお願いしま─」
元気よく答えようとした、誰にも聞こえるように大声で。
だが、それは途中で途切れてしまう。
喉が見えない何かに潰されたからだ。呪いのような力。
記憶の中で該当する技が浮かび上がる。酸素が足りず視界が定まらずぼやけ始める。
「ぐぁがっ─」
「ナイシン君!?」
息ができず、首で血が止まっている。
まずい苦しい助けて、たすけて……という心の声も掠れた雑音になる。
これは夢じゃない。現実だ、現実の痛みだ。
なんで記憶が戻って早々に死ななきゃいけないんだ。
生きてやる、どんな裏技を使っても。あ、やっぱ駄目だ。視界がきえ……。
「がぁっ……ぜぇぜぇぜぇ」
「大丈夫?飲み過ぎたの?」
瞼を開くと、別の景色が広がっていた。
西部劇に出てくる酒場だ。だが、西部劇とは少しだけ違うのは近未来的要素が存在する。ケータイやテレビなど、そういう道具がある。
テレビでは白髪で桃色の目をした少年たちが、バトルロワイヤル優勝というニュースが流れていた。
俺だ。見間違えることはない。容姿すらも以前の俺と同じなのか。
「ナイシンくん大丈夫?僕はミャナだよ、わかるよね」
「だから、少しお酒は控えた方がいいって、言ったんです。そう思いますよね、ワフさん」
「へにゃあああ」
心配してくれるミャナ、厳しいことをいうホヤケ、酔いつぶれているワフ。
服装は洋服になって変わっているが、人物は同じ……なのか。いや同じだと言い切れる。名前まで一緒だ。何が起こってるんだ。
また転生したのか、また今記憶を取り戻したのか。そして大切な記憶は抜け落ちている。
あまりにも気持ち悪い状況だ。
先ずはこの世界で覚えている事を思い出して、状況を整理しよう。
ここはスリー・ラビット・ブーティという国。
バトルロワイヤルの世界といえば簡単だ。
鉛玉も爆薬も使わない。データを弾として飛ばしている。
なので、体力を削り切った相手は死ぬことなく、とある待機所へと移動させられる。
戦争でも血が流れないのが特徴的だ。要するにサバゲーとARが融合した世界。
この世界で行われる全世界大会の場で、チーム戦およびスクワッド(四人と補欠一)として俺たちは優勝した。
メンバーは俺、ワフ、カランセン、グロリー。補欠はヒバだ。
ヒバとグロリーもまた前の世界にいたが、あの場にはいなかった。
ヒバは男でグロリーは女。
ヒバは優しい薄緑の髪色をしている。中二病で俺のソウルメイトだ。
グロリーは赤と黄のドリルツインテールで瞳が海のように蒼い。
二人は仲良く端っこでテレビを見ている。
ミャナはこの酒場の看板娘で、ホヤケは雇い主という関係性だ。
酒場は貸切状態で宴をしている。優勝した祝杯をあげているというわけだ。
この世界もまた事後だ。優勝したあとであり、甘い蜜を味わう時である。
「夢なら覚めてくれ」
「なに言ってんのよ。嬉しすぎて気でも狂ったの」
「ぶべっ。もう少し優しくしてくれ」
カランセンに励ましの意味合いで、勢い良く背を叩かれる。
狂ってるのは神様だと思うんだ。今の仲間たちは前世を覚えているのか……。
ダメ元で聞いてみよう。もしも変な目で見られたら酔ってると言い訳もできるから。
「なぁ、異世界のニョイって国を知ってるか」
「いきなり、なに。真面目な顔をして。知らないわね、聞いたこともないし……ニョイ国って知ってる?」
その場にいる全員が首を横に振った。
少しだけショックだ。それでも大切な情報ではある。
「そうか、ちょっとした宝のある国って聞いたんだ」
「どうせ、風俗のお土産話でしょう」
呂律が回らないほど酔ってた人が、こういう時だけはっきり言わないでくれ。
「いつ行ったのよ。いいなさい!」
「流されるな、カランセン。おい、ミャナも言ってくれ」
カランセンに胸ぐらを掴んで、ぐわぁんぐわぁんと揺らされる。助け舟をミャナに出すしかない。
「僕のお店以外でお酒飲むなんて許さないから」
「おい、沸点が違わないか。ってかお前も鵜吞みにするんじゃねぇ」
「それは信じられないよ。だって、ナイシン君は常にラッキースケベ狙ってます」
いや、狙ってねぇよ。ってか、そんなの体験した事な……いよな?
俺たち仲間なのに、味方がいない。誰か助けて。
「待たれよ、我が翼達。ソウルメイトに威厳を損失する覚悟があると思考しているのだな」
容姿は男として最高級なのに、口から溢れ出す痛々しい言葉で女性にふられた童貞が止めてくれた。
全世界でもソウルメイトだった人物。ん?全……前だ。前。
それにしても、ムカつくこと言いやがって。
「ワフさん、解説お願いします。どうもわからなくて」
「つまり、『お前ら、ナイシンはヘタレだぞ』ってこと」
考える間もなく彼の言葉を翻訳できるのは、付き合いの長い俺とワフとミャナだけだ。
理解できることが、一生の悔いだ。
「こういう話だけ楽しそうに入ってくるわね」
「ソウルメイトとして茨の道は共に歩むべきものだからな」
「お前はトゲを増やしてるだけだろ」
「運命というトゲが悪戯しようとも、我はソウルメイトのノアの箱舟になる」
こいつはどうしようもなく、どちらもどうしようもないから俺とヒバと助け合って生きてきた。
だから自分達はソウルメイトと呼んでいる。
彼に『転生し続けてる』なんて言ったら、どんな助言をくれるのだろうか。
その前に喜びそうだな。この世界でも転生ものは流行っているから。話を聞いてくれる前に質問攻めにされそうだ。
それでも聞かないだけ損というものだ。
「なぁ、ソウルメ──」
「ナイシン君。それよりも、カランセンから大切な話があるみたいです」
言葉を遮るようにワフは言った。
カランセンは火でもつけられたかのように顔を赤く染めていく。そういえば、カランセンはこの世界で初恋をしたアニメのキャラと酷似している。
だから、彼女の赤く染まる魅力的な顔を見ているこちらも顔に熱が集中する。
だが、身体は極寒。
身に危険を感じているからだということには、いやでも理解できた。
だって、俺の予想が正しければ。鈍くてもわかる。
「けっこんしてくくく、らしゃい」
小悪魔というべき告白に、俺は固まるしかなかった。
目元を真っ赤にして、答えを待つ可愛らしい小悪魔がいる。
ここまで状況が酷似。
偶然?そうだとしたら神は質が悪い。
殺される理由があるのか。
記憶を辿ってはいるが、そんなものはない。それに彼女たちが、殺人をする人ではない。
死と愛が頭の中で混ざり合う。寒くて熱い愛であり熱くて寒い死。
告白と登場人物は、しっかり記憶している。だが、前の世界でのことは何一つ思い出せない。
(何かを成し遂げたことしか……)
登場人物の名前と容姿が似ていること、告白され殺されたことだけしか覚えていない。
前世があるとはいえ、俺はこの世界の住人だ。……登場人物が同じ?
夢という説が上がる。夢であっても死という苦痛からは避けたいし、何より起きた時のトラウマになるかもしれない。
最初の死でトラウマになってない自分に尊敬すら覚える。
取り敢えず、当たって砕けろだ。
「ごめん、告白の答えを出す前に聞きたいことがあるんだ」
「大丈夫……よ。それで答えが貰えるなら」
カランセンは渋々承諾してくれた。
その渋々と受け入れる姿は、捨てられた子犬のよう。胸に罪悪感が突き刺さる。
「前世のこと覚えている人っているか」
その場にいる全員が首を横に振る。
一応聞いてみたけど、やっぱり駄目か。
「なんですか⁉︎前世に想い人がいてカランセンの告白を受け入れられないと仰るの。許しませんわ!」
「……グロリー、そんなわけないだろ。カランセンも真に受けて、ボコボコ殴るな」
カランセンはぐるぐるパンチをぽこぽこと背に食らわせてきた。
「じゃあ、最初の間はなんなのよ」
彼女は怒りと嫉妬が混じりあった上目づかいで、睨みつけてきた。
その様子を見て、胸に何か刺さるような痛みが走った。俺にもわからんし、即答しようとしたはずなのにな。
馬鹿にされてもいいから、状況を正確に答えよう。
「突然すぎるんだが、俺は何故かこんなタイミングで前世の記憶を取り戻したんだ」
真剣な目と声色を作り訴える。
俺があからさまに態度を変える、賑やかな酒場は静まり返った。
今まで戦ってきた仲間だけある。雰囲気だけで察してくれるのは、ありがたい。
「同じようなシチュエーションで、さらに全員が同じ名前だったんだ」
「……それ夢じゃないの。深刻そうな話をしてるけど」
「予想が間違ってなければ、俺が告白に答えを出したら殺されるんだ」
決して、嘘ではない事を伝えるために、笑われないように真面目に顔を崩さず話す。
死にたくないんだ。これが、夢だとしても。
わかってくれたのか、やれやれと肩を振りグロリーが指示をする。
普通は一蹴されるような話だが、エピローグで仲間との好感度が最大まで上がっていることに助けられた。
「わたくしは入口を見張りますわ。しっかり、安心できるような環境を作ってあげますので、カランセンの気持ちに応えて差し上げて」
「ホヤケとミャナは二階の部屋に行って。私は二階から、周りを注視します」
「わかりました」
「うん、わかった」
二人は急いで階段を駆け上り、部屋へと入ったと思われるドアの開閉音が聞こえる。
「我はソウルメイトの背を守護ろう」
「近くには怪しい人物どころか気配もありません。ですけれど、メイシン様の勘は良く当たりますので、わたくしは周辺を巡回してきますわ」
扉が閉まるのを確認してから俺たちは向き合う。
「みんな、ありがとう。この恩はすぐに返す」
人が来そうな所は見張ってくれている。そして背後は親友が守ってくれているのだ。
ようやく安心して、告白に応じることができる。石橋は叩いてなんぼだ。
カランセンは二人三脚で隣にいた相棒だ。俺に楽しさを思い出させてくれた。夢に向かう素晴らしさを教えてくれた人。だからこそ最も愛おしい人。
緊張しているのか、いつも向日葵のように走り回ってた彼女と思えないほど、両手でズボンを力一杯握りしめ目線も逸らさないように努力している。
前の異世界でホヤケに惚れていたのが嘘かのように、彼女への好意に対する未練が存在しない。
今はカランセンしか見えないし、愛していると断言できる。だから、彼女への答えは迷わずとも決まっている。
「俺もカランセンと結婚した─」
「ナイシン!」
一つの発砲音と一つの薬莢が落ちる音。
俺の視界は、一つ消え去った。
物理的な激痛よりも、精神的な激痛が心臓を圧縮してくる。
信じたくはなかった。信じている者に撃たれたのだから。
「ワフ、なんで……」
ワフはスナイパーライフルをこちらに向けていた。その銃口からは、白い煙が舞い上がっている。
俺を殺してる犯人はワフだ。
夢。
いや、失っていた古い記憶。
忘れてはいけない、一番大切な記憶だ。
俺は最初の生で一瞬たりとも手放さないよう保存していたはずだ。
だが、今となっては完全に忘却している。
観ている映像はモノクロの花畑だ。
丸三角四角。花はどのような種類かわからないように、形が統一されていない。それどころか瞬きをすると無規則に形が変わっている。
花畑というのに一切の美しさが存在しない異質な空間。
無色、無臭、無味。あらゆる無が心を刺す。
何も存在しない白と黒が支配する闇の世界。
それでも、身体は絶望で足を止める事を許してくれず導かれるように自然に動き出す。
何もかも特徴を無くしているが俺には心当たりがある場所だ。
家族と大喧嘩をした日、場所すらもわからない駅に降りた。そして辿り着いたのが、この花畑。
その時と見ている光景は同じだろう。絶望という闇の中で花なんて見ている余裕なんて無かったから。
不意に足が止まる。
丘にいる華を見つけたからだ。
小さな花を見つめ、満面の笑みを浮かべる華。
だが、顔には不細工で不揃いの線のようなモザイクがかかっている。
判断できるのは、今の俺と同じように小さい子供ということだけ。
その笑顔を見て、心の隙間が埋まっていくような不思議な感覚に襲われていた。
だから、固定されたかのように瞳孔が動かない。言うことを聞かない体を無理矢理にでも稼働させる。
『あの子と何か繋がれるようなことをしなければ』という使命感。
そして、過ぎ去ろうとしている子に大きな声で呼び止めた。
決して人見知りではないはずなのに、その時は心臓が突き破ってきそうなぐらい動いていた。
だから唇も痙攣して、上手く喋れなかった。
「初めま……し、して。そ、その、──のように美しいでですね」
「どうしたんですか!?」
「あっ……え。はは」
単語すらも発せず、声にならない音しか出なかった。
両膝は地に付き、立ち上がる力も抜けている。瞳からは滝のように涙が溢れ出して、拭っても拭ってもキリがない。
大切な記憶の忘却による悲しみと忘却への自責で心が散ってしまいそうになる。脳のキャパシティがオーバーし五感が働かない。
「あっ……」
「ナイシン君を休憩室にお願いします!!」
お姫様の格好をしたホヤケがいて、こちらを心配そうに見下していた。
不思議なことに、前の世界で消え去った熱い気持ちが溢れ出していた。だが、虚無の状態の方が勝り、何もできなかった。
「お触りします、勇者様」
「失礼します、勇者様」
二人の騎士にされるがまま両肩を持たれ運ばれる。
ようやく放心状態から、意思を取り戻せ始めた。
「なんで、忘れてたんだ」
あの記憶はとても大切で忘れてはいけなかった記憶。前世だから、という理由で片付けるには納得できない。
俺はあの時、あの笑顔に助けられたんだ。だから、俺という人物が存在する。
それなのに、もっと詳しく思い出せないのだろうか。悔しくて悔しくて、何かに苛立ちをぶつけてしまいたい。
だから、壁を殴ろうとした。だが、紙一重のところで拳を止める。
「ちっ、こんなのじゃ、根本的な解決にならない」
苛立ちをぶつけても、問題は解決しない。今はわかっている情報をまとめよう。
告白されて答えると殺される。
どの世界でもワフが殺してくる。
そして世界がループしている。
他の世界へ転生?する時、その前の世界の明細な情報は覚えてられない。
「あとは、告白イベントが中断されても殺されないか。やっぱり、告白イベントがフラグなんだな」
パターンが変わったという可能性はあるが、中断されてもこうして生きているのだ。少しだけ前に進んだと、前向きに考えることにしよう。
「お邪魔するね。大丈夫かな、ナイシンくん」
空のように蒼い髪や瞳を持ったナイシンが躊躇なく部屋に侵入してくる。
「ノックぐらいしろよ、親しき仲にもだろ?」
「そんなことした、逆にナイシンくん怒るんじゃないかな?」
表情は真顔で変化がないように見えるだろうが、彼女は小さく笑っている。
無愛想で笑顔を滅多に見せない奴だ。俺も彼女も勝手に一人で突っ走る癖が有り、お互いがお互いを牽制するという仲だ。
「大事な告白時にナイアガラの滝を作って、崩れ落ちるって酷いことするね」
「言い訳をしたいが、言い返せないな。ったく、ミャナが最初に来て大丈夫なのか?俺と親密な仲だと思われるぞ」
「わかってるのに、そんな酷いこと言うんだね。ホヤケちゃんに頼まれたから大丈夫だよ」
「そうか、悪いな。一日休ませてほしいとだけ、伝えてほしい」
「うん、そういう予定だった。だから今日はしっかり休んで、ホヤケちゃんの告白に応えてあげてね。次、同じ事したら呪いで殺すから」
「勘弁してくれ……」
呪詛だけ吐くと、彼女は部屋から去っていた。相変わらず三人の時じゃないと必要な事だけを喋って去ってしまう。これでも親友だというのに。
さて、どうするか。
ベッドに身を預け、横になって力を抜く。
「二つの世界で死に戻りしてるのか……」
転生とループをしている。まるでアニメのような展開だ。
ったく、転生を望んでないんだから、喜びそうなオタクを選んでくれよ。
「ちっとも嬉しくない。でも、告白されるのは少しうれしい……か?」
それが死のトリガーになっているんだから、嬉しい状況ではないか。それでも彼女達に告白されると、心が跳ね上がるほど嬉しいのだ。
世界によって恋情の対象が変わり、移動すると前の世界へ思いを寄せた人に恋情の花弁一つもない。まるで最初から咲いていなかったかのように。
まだまだ問題点はある。何度、何回死んで大丈夫なのだろうか。何度、ループがあるのだろうか。寿命で死んだら、ループするのだろうか。
様々な不安が脳裏を駆け巡るが、『告白イベントで殺される』を避けることが最優先だ。
「俺はYESと答えてきたな。じゃあ、NOでいくか……」
一時的に振って、事情を話してこちらから告白すればいいだろうか。
「痛いし、悲しいし、寂しいけど、諦めるのは性に合わないからな」
好きな人の告白を振るというのは、理由があったとしても心が痛い。
俺の長所は『諦めない心』だ。悪く言えば『しつこい』。
最終目標は決まっている。
「前世の記憶を取り戻すして、みんなで平和に暮らすだ」
それだけが、俺の望みだ。決してハードルは高くない。
彼女らのために俺は再び咲き誇ろう。
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