終幕に咲く花と追憶の蝶

鉄井咲太

プロローグ

 これは、彼女たちの終幕を人として再開し終わらせる物語である。

 

 桃色の花びらが散る季節。

 終幕を温かく包み込み、開幕を彩るもの。

 幾度となく訪れた変哲のない駅。

 脳が寝ていても、身体が覚えてるのでホームまで導いてくれる。

 この階段も何度も何度も踏みしめた。

「んふ。えへへへ」

 今日という日が楽しみで、心臓が踊り就寝できなかった。

 そのせいか、いつもより肩が重く体力がみるみるうちに削れていく。

 楽しみで変な笑みが溢れ出てしまう。

 黄色の線の前でしっかりと止まる。

 ここで死んでしまっては心残りすぎる。

「背後にも人はいない!」

 母さんに何度も、路線に押されるという事件が起きたことを聞かされた。

 だから、背後に人がいないかを確認するのが習慣となっている。

 何度も言うようだが、俺は死ねないのだ。

 生きる理由があるからだ。

 以前の俺とは違い、彼女を愛し共にいたいと考えたからだ。

 今日は出会い、再会して、結ばれる運命の日。

「つまり、俺にとって今日はクライマックス」

 心の声がブレーキで止まらず、ホームにいる全員に聞こえる音量で出てしまう。

 激しい羞恥心が沸き上がり、下をうつむく。

 姉と大喧嘩して、家を出た幼少期。

 優しい大人に起こされて、知らぬ駅で降りた。

 そして少し歩いた先にある─

「えっ……」

 視界が歪み、立つことすら困難になる。

 貧血だ、しっかり対策してきたはずなのに。

 何かに捕まろうとしたときには遅かった。

 想像を絶する揺れで足元が揺らつき、路線に落ちてしまう。

「はは、うそだろ」

 目を開けた時には、目と鼻の先に電車があった。

 死ねないってのに……。



「結婚してください」

 目を開けると、終幕だった。

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