神が世界を滅ぼす理由
地球よりもはるかに科学的、かつ精神的に進化した星の住人がいた。
彼こそが地球人の言うところの神であるが、実はただの宇宙人であった。
「地球を長らく放置し過ぎたな。地球人はとても進化したようだ……」
地球は彼が作ったのだ。宇宙はビッグバンから始まったと思っている地球人がいるとしたら、それこそが無知な地球人たる証拠である。
「核ミサイルとやらは厄介だ。あれがいくつか爆発したら地球が壊れてしまう……」
地球は大宇宙の中で自然に生まれるべくして生まれたと地球人は思っている。偶然が重なって絶妙なバランスで生かされていると思っている人間たち。そこに地球外部からの何者の意思も介在していないと思っている人間を、彼はとても滑稽に思っていた。
「愚かで何も知らない人間に地球を破壊されたら本末転倒だ……」
はるか昔、彼の意識を分離させてサルに注入することで人間ができあがった。人間は彼の意識のコピーにすぎない。
「まさかサルが私の地球を壊すまでに進化するなんて思いもしなかったよ。こうなれば人間をすべて殺してしまうしかないだろう……」
彼の宇宙船には、地球上の生物を一瞬にして蒸発させてしまう熱線装置を備えていた。それだけではない。ボタンひとつで流星を海に落下させて大津波を起こしたり、太陽からの放射エネルギーを減らして地球を凍らせてしまうことも可能だった。人間の運命は彼の一存にかかっていた。
「人間を処分したら次はどうしようか……。植物に意識を持たせてみようか。今度こそ素晴らしい地球の管理者となるに違いない……。楽しみは際限なく広がるなあ、はっはっは……」
地球は彼のシミュレーションゲームなのだ。地球は彼の大切な遊び場であり、ここまで長年苦労して作り上げた遊び場を、人間たちに壊されるかもしれないことを非常に不快に思っていた。
しかし、そんな人間といえど、彼の意識がコピーされた長年地球で暮らしてきた生物だ。彼はほんの少しの同情心から、人間の意見も聞いてみようと思い立った。
「どれ、あの島にいる人間に様子をうかがってみるとしよう」
彼は科学レベルが最も発達したとある国の、とある街の上空へと宇宙船を移動させた。そこには人間の作った大きな建物があり、その建物の間を高速で移動する四輪の乗り物がビュンビュンと行き交っていた。そして、忙しそうに歩いている人間たちの一人に焦点をあて、その心に直接語りかけた。
「エッヘン、私は神である。えーと、神であるぞ……」
街を行きかう人間たちの心に何度となく呼び掛けても、驚くことに誰一人として彼の問いかけに答えようとしなかった。地球を作ったばかりの時、こんなことはなかった。呼びかければすぐに彼に気が付き、神が現れたと恐れおののき、どの人間もその場でひれ伏したものだ。
恐らく呼びかけた人間の質が悪かったのだろう。そう思った彼は別の静かな場所に住んでいる人間を探すことにした。
「山の中で一人で暮らす老人がいるぞ。あの老人に呼びかけてみることにしよう」
彼は宇宙船を移動させて、山の中のポツンと佇む一軒家に一人で暮らす老人の心に直接語りかけた。
「私は神であるぞ。人間が地球を壊してしまう前に、私が人間を殺し、地球を壊して作り直すがそれでも良いか?」
「おや、神様。昔からの予言通り、やはり地球は滅びるのですね。どうかお許しください」
喧騒から離れて孤独に暮らす老人は、彼の声に気が付くことができた。しかし、老人は少々誤解をしているようだ。
「老人よ、予言が世界を滅ぼすのではないぞ。人間が自ら滅ぼすのだ。しかし、それでは困るので、その前に私が人間を全員殺すのだ」
老人は神の声を聞いて嘆いた。
「なんということでしょう、神様、どうか怒りを鎮めてください」
「それはならぬ。地球を守らなければならぬのだ」
その時、どこからともなく大音響が鳴り響き、地面が大きく揺れた。老人は驚いて家から飛び出した。山奥の老人の家は簡素な作りだったため、屋根が落ちてぺしゃんこに潰れてしまった。
「神よ、どうしてこんなにひどい仕打ちをするのですか! 私が何をしたと言うのですか?」
「老人よ、今の地震は私が起こしたのではない。人間たちが森林を破壊し、大きな深い穴を掘り、不自然な建造物を建てるから、それを振り払うため地球が自ら震えたのだ」
「地球は生き物とでもいうのですか? そんな非科学的なことは信じられない。あなたは神ではない。鬼だ悪魔だ、あぁ、悲しい……」
地球人の無知にあきれてものが言えなくなった彼は、今度は大海原に移動して、大きな船に乗った一人の屈強な船乗りに話かけた。
「私は神であるぞ。人間が地球を壊してしまう前に、私が人間を殺し、地球を壊して作り直すがそれでも良いか?」
「おや、神様。昔からの予言通り、やはり地球は滅びるのですね。どうかお許しください」
やはり、その船乗りも誤解をしているようだ。
「船乗りよ、よく聞け、予言が世界を滅ぼすのではないぞ。人間が自ら滅ぼすのだ。しかし、それでは困るので、その前に私が人間を全員殺すのだ」
船乗りは神の声を聞いて嘆いた。
「なんということでしょう、神様、どうか怒りを鎮めてください」
「それはならぬ。地球を守らなければならぬのだ」
その時、どこからともなく大津波がやってきて、船乗りが乗る船は転覆してしまった。海に投げ出されてプカプカと浮いていた船乗りは天に向かって叫んだ。
「神よ、どうしてこんなにひどい仕打ちをするのですか! 私が何をしたと言うのですか?」
「船乗りよ、今の津波は私が起こしたのではない。地上の不浄物を振り払うため地球が自ら震えて大波となったのだ」
「地球は生き物とでもいうのですか? そんな非科学的なことは信じられない。あなたは神ではない。鬼だ悪魔だ、あぁ、悲しい……」
地球人の無知にあきれてものが言えなくなった彼は、今度は人間たちが宗教と呼ぶ施設で働く宣教師に声をかけた。地球の仕組みをよく理解していると思ったからだ。
「私は神であるぞ。人間が地球を先に壊してしまう前に、私が人間を殺し、地球を壊して作り直すがそれでも良いか?」
「おや、神様。昔からの予言通り、やはり地球は滅びるのですね。どうかお許しください」
やはり、その宣教師も誤解をしているようだ。
「宣教師よ、おまえもか……。予言が世界を滅ぼすのではないぞ。人間が自ら滅ぼすのだ。しかし、それでは困るので、その前に私が人間を全員殺すのだ。そして別の生物に地球の管理を任せることにする」
宣教師は神の声を聞いて嘆いた。
「なんということでしょう、神様、どうか怒りを鎮めてください」
「それはならぬ。地球を守らなければならぬのだ」
その時、彼は思った。人間たちがそろって口にする予言とはいったいどのようなものなのだろうかと。
「宣教師よ、ところで予言とはなんだ?」
「予言とは、これから起こることです。神様、あなたが私たち人間の未来を示してくれたではありませんか?」
彼は思い出した。はるか昔、彼が地球に一番最初に作った人間たちに、地球でこれから起こることを話したことがあった。それを人間たちは何千年ものあいだ語り継ぎ、そして本として残し、そして現代にいたるのだった。
「おぉ、あの時の話をまだ覚えていたのか」
「もちろんですよ神様。私たち人間はあなたを尊敬しています」
彼は宣教師の言葉を聞いて気分が良くなった。しかし、その気持ちは長く続かなかった。
「神様、私たちの宗教はあなたの予言を世界に広めております。すべての人間があなたの言葉を信じているのです。神の予言は成就すると。」
彼はキラキラと目を輝かせている宣教師を不憫に思った。あの話は、彼にとって予言でも何でもなかった。争えば分裂する、悪いことをすれば報いが来る、それが重なれば地球が壊れてしまうこともあると、ごく当たり前のことを伝えただけだったのだ。それなのに宣教師は、それがこれから必ず起こることだと信じ切っていたのだ。
「神よ、あなたが火の雨が降ると予言されたので、私たちはミサイルをたくさん作らせて、世界に降らせたのです」
「神よ、世界が終わるときに疫病が流行ると神が予言するので、流行性ウイルスを作って世界にまいたのです」
「神よ、世界が終わるときに飢餓が起こると神が予言するので、バッタを大量に飼育して増やし世界に放ったのです」
「神よ、私たち人間はあなたを尊敬しています……」
彼は困惑した。もしも神が地球を壊すような予言をしたと信じているのなら、なぜに神を尊敬するのだろうかと。
「それは、この本に書かれています。神の一部から私たち人間がつくられたと神が語ったからです。我々はあなたの子だからですよ!」
彼は恥ずかしくなって月の裏に隠れてしまった。
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