第5話 奴隷として
いや、お前らの目は節穴か?
どう見たってスキルが書いてあんだろうが!
この燦々と輝く六個のスキルが見えねーのか?!
そんな俺の心の叫びも虚しく、兵士達の怒りは増して行く。
「クソ奴隷が!無駄足だったじゃねぇか!」
そう言って俺の父親を蹴っ飛ばす。
「ぐはっ!」
蹴飛ばされた父親が壁にぶつかり、家が揺れる。
それを見た母親は怒るどころか卑屈に謝り続ける。
「申し訳ありませんでした。申し訳ありませんでした」
「ふん、クソどもがっ。てめぇらは罰として明日からの労働を倍にする!」
「そ、そんな、二倍なんて死んじまいます!」
「奴隷がいっちょまえに文句垂れてんじゃねぇ!」
「ゴハッ!」
更にお腹を蹴られた父親は地面にうなだれ、呻き声をあげる。
「貴方!」
叫び声をあげて父親に駆け寄る母親。
その二人を尻目に、兵士は鑑定石を持って出て行ってしまった。
「ぐっ……」
「貴方、大丈夫!?」
「だ……大丈夫だ、ゴホッゴホッ!」
母親が背中をさすり、父親が咳き込む。
そして、それが治ると、二人同時に俺の方を見て、
「……はぁ」
と深いため息を吐いた。
こいつらマジぶっ◯してやろうか……。
前世以上に理不尽なため息をつかれるとは。
期待されることがこんなに腹がたつことだとは思わなかったぜ。
「はぁ……、明日も仕事だ……、金も出ないのにな……」
そういうと父親は立ち上がり、藁束が敷いてある床に寝転がる。
「貴方……ご飯は?」
「いらん。吐きそうだ。俺の分はお前が食べろ」
「そう……ありがとう」
そう言って父親は寝息を立て始め、母親はもそもそとすでに冷え切った見た目から不味そうなご飯を食べ始めた。
そして、その日を境に両親は過剰に俺に接するのをやめた。
そして、本当に労働を二倍にされたらしく、クタクタの状態で帰ってくることが多くなった。
その結果、夫婦の営みも完全になくなってしまい、俺は一人っ子のまま七年の月日が経った。
「はぁはぁ……」
俺は息を殺しながら、目の前にいる獲物を狙う。
獲物は時折あちこちを見回し、警戒しながらもゆっくり俺が作った罠へと近づいて行く。
その数秒後……。
「ピュギー!」
掛かった!
そう確信するとともに俺は獲物へと走り出す。
すると、そこには一匹のウサギが掛かっていた。
「よっしゃー!」
そう喜びながらも、俺は手早くウサギの解体を済ませ、血抜きをする。
その後、近くに作っておいた火起こし場に行き、火をおこす。
そして……。
「うめぇーー!マジウサギの肉うめぇーー!」
焼きあがったウサギの肉に食らいつくなり俺は叫ぶ。
あれから五年、俺は自分の食べるものは自分で探すという自給自足生活を送っていた。
理由は簡単だ。
俺は一歳前の歯が生え始めた時から乳離れをした。しかし、食い扶持が二人から三人に増えたのにもかかわらずうちに配られる配給は少しも増えることはなかった。
ただでさえ一人前あるかどうかという量の食事を二人で食べていたのに、そこに俺という三人目が現れたのだ。
あまりにもひもじすぎて死にそうだった。
これはやばいと考えた俺は、飢えと戦いながら生きる方法を考えた末、森で狩猟生活を送ることにしたのだった。
「はぁー、食った食った。んじゃ、帰りますか……」
また使う火起こし場の火を丁寧に消し、近くの水場で手を洗い、俺は家への帰路に着く。
30分ほど森の獣道を歩き、俺は自分が生まれ育った村に戻る。
奴隷村。
俺の村は通称そう呼ばれている。何故なら、この村に住む人口のおよそ八割が奴隷だからだ。
しかもその奴隷達の主人はたった一人。
ここら一帯を納める領主であるオードリット・イール・ド・ゼーゲンの私有奴隷である。
一度だけオードリットを遠目に見たことがあるが、肥え太った豚、そう表現するのが正しい見た目をしていた。
手には宝石をジャラジャラつけ、頭には頭が大きすぎてハマっていない宝石がついたハット、太りすぎて入る服がないのか、下っ腹が少しだけ出ていた。
その性格も両親の扱いからも想像していたが、周りから聞こえてくる噂も酷いものばかりだった。
そしてその噂を裏付けるように、この五年間でたった一度だけこの場所に現れたオードリットは、目の前を横切ったという理由で子どもを斬り殺した。
その後、この奴隷村で一番可愛いと俺が思っていた15歳くらいの少女を無理やり連れ去っていった。
風の噂では、オードリットの屋敷でモノのように扱われているらしい。
そんな男の配下の兵士達も当然そういう人間の集まりである。
相手が自分より強ければ、へこへこと頭を下げ、弱ければ理由もなく暴力を振るう。
特に男の扱いは酷い。女は一応主人であるオードリットに気を使って殴ったりしないのだが、その代わり男には容赦しない。
殴る蹴るは当たり前。酷い時には集団でリンチされている奴隷もいた。
この七年間でそれで五人死んだ。
もちろん書類上は事故死である。
そんな村に俺はすぐさま見切りをつけた。
早々に村を出れるように、奴隷をやめられるように準備を進めている。
その準備の一環が、一人でも生きていられるように狩をすることだ。
罠は前世の知識でたまたまサバイバル本を読んでいたのが幸いした。
血抜きや簡単な罠の作り方をうろ覚えながらも試行錯誤を繰り返し、今ではそれほど時間をかけることなく作れる。
ここまではまあ普通のことだ。いや、もちろん普通ではないのだが、異世界でなくても昔の地球でも可能である、という意味でだ。
ここが異世界であるという決定的理由。
その一つ目は俺の足の異常な速さである。
俺は今、七歳である。それにもかかわらず、五十メートル近い距離を七秒未満で走りきることができる。
正確なタイムや距離ではないのだが、目算と大体の体内時計で恐らくそれくらいだと思う。
つまり、百メートル十五秒をきる。
既に俺の前世の足の速さを超えている。
理由は恐らくこれが俺のスキル欄にあったレア度5の神速の力なのだろう。
しかも記憶が正しければ、18+36と書かれていた。つまり、俺のAGIは1上がるごとに3上がるのと同じということになる。
強すぎて笑えない。
そして二つ目は、魔物の存在だ。
森に入って数ヶ月、静かに俺の狩場に向かって走っている途中、それはいた。
緑色の肌に、人間の目の直径の三倍はあるであろうギョロギョロとした瞳、人間の子供くらいの身長。
俗にゴブリンと呼ばれる魔物だ。
最初見た時は自分の見ていたものが信じられず茫然としてしまった。たまたま運が良くゴブリンからは死角になっていた為、向こうが俺に気づくことはなくやり過ごせたが、今後は分からない。
用心のために俺は夜兵舎に忍び込みナイフを一本失敬した。
その後度々ゴブリンを見つけるものの、なんとかやり過ごせていけている。
正直リスクが高いし、何かしらの準備はしたいのだが、いかんせん俺は何も持っていないのだ。
それにお腹が空きすぎてやばい。
今日のウサギも二日ぶりのご馳走だったのだ。
そんな貧困生活を送る俺の生活を変えたのは……一人のエルフの存在だった。
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