第4話 鑑定石

どうやら俺は奴隷として生まれ変わったらしい。


確かに俺は奴隷でもいいと言った。そりゃ言ったさ。

だけどさ、普通冗談だって思うでしょうよ。

奴隷に生まれ変わりたい奴なんているわけがない。


そんな奴がいたら相当なドMだ。


「うっうー(くっそー)」


完全に場の空気に流されてしまった。

これが典型的な日本人のダメなとこである。

口ではああ言ったけど実は……という奴だ。

昔それで言葉を鵜呑みにして行動した結果悪者にされたことがある。


本当はどこか辺境の小さな国で働く必要がないくらいには地位の高い貴族になりたかった。

それがまさか奴隷にされるとは。


完全に後の祭り状態である。


それにしても、と周りを見回してみる。


マジで汚い。俺の前世の荒れた部屋よりも汚い。こんな所に赤ん坊を寝かせておいていいのだろうか。


俺が寝ているのも汚らしい藁束の上であり、俺が着ているのもろくに洗ってもいないであろう麻布である。


そして周りを見渡してみても五畳ほどのスペースしかない。

他に部屋があるというわけでもなく、この部屋に大人二人と俺が住んでいるのである。


大学生の一人暮らしでももう少し広いぞ。

俺をあやしている母親も昼頃には農作業でもしているのかいない。

昔は一日二食が普通だったと聞く。

だが、この家は一日一食が基本のようだ。

しかも、俺の前世の家の飯よりも不味そうで量も少ない。


もちろん俺が今食しているのは母親の乳である。しかし、出が悪いのか全然お腹いっぱいにならない。

明らかに足りないのである。


あとその度に謝ってくるのはやめてくれ。別に文句は言ってないから。


夕方ごろ、父親が帰ってくると汚い手で俺をあやそうとしてくる。


「よーしよしほら、高い高ーい」

「……」


しかし俺がほとんど無反応に困惑したのか微妙な表情になる。


しょうがねぇな。


「キャッキャッ」

「お、おお、笑顔になったぞ!」


と、大変喜んでいた。

こんなんでいいのかよ。


「元気に育つんだぞ!お前だけが私達の希望なんだからな」


期待が重い。どんだけ苦しい生活してたんだ。

会話の節々にネガティブな発言があるんだよなぁ。


前世の俺よりも現実に嘆いている気がする。


そしてその数日経ったある日の事だった。


俺がいつものように藁束の中でボォーッとしていると、数人の足音が近づいてくるのが聞こえてきた。


ガシャン、ガシャンという鎧が擦れるような音がふたつ。

そしてその後ろからは、へこへことした両親の声が聞こえてくる。


兵士か何かと一緒に来ているのだろう。


そして挨拶もせずにドカドカと家に入ってきた。

やはり玄関から顔を出したのは軽装の兵士だった。

そして部屋を軽く物色したあと、俺を見つけると口を開く。


「こいつがお前の言っていたガキか?」

「ええ、そうですそうです!」


兵士は俺を見るなり何か胡散臭そうな視線を向けてくる。失礼な奴だ。

そして父親も手もみをしながらしきりに頷いていた。

頼むからそんなにへこへこした姿を息子に見せないでくれ。情けなくなる。

そんな俺の願い届かず、二人はペコペコとし続けている。


「見てください、このふてぶてしい顔!生まれて数週間ほど経ちますが、未だに一度も泣いたことはないのです!」

「……確かにふてぶてしい顔をしているな」

「そうでしょそうでしょ!こういう子にこそ特殊な才能が宿るものですよ!」

「……まあいい。優秀な人材は奴隷でも大歓迎だからな。とっとと終わらせてこんな臭いところからおさらばさせてもらおう」


すると、兵士の一人が抱えていた布の袋から丸い一つの宝玉を取り出した。


「お、おお……、そ、それが噂に聞く……」

「そうだ。ボルドー伯爵様から特別にお借りした鑑定石だ」

「おおー!素晴らしい輝き!まさしく一級品の魔道具です」

「ふん、お世辞はいらん、早速やるぞ」


そういうと兵士の一人が俺の手首を掴んでその玉に触らせてきた。

どうやら俺があまりにも他の赤ん坊とは違う反応をしていたが為に、無理をして主人から鑑定石を借りてきたらしい。


正直、いい加減諦めろと思っていたのだが、鑑定石を借りてきたことには感謝したい。


「ステータスオープン!」


兵士がそう口にした途端、俺の目の前に光り輝く文字列が浮かび上がってきた。


{アルト/Lv.1}

{男性/AB/6533/7/8}

{人族/奴隷}

{HP 26}

{MP 123}

{STR 21}

{VIT 12}

{AGI18(+36)}

{魔法}

{スキル}

 レア4 MP上昇率大

 レア5 神速

 レア6 我が矛は最弱なり、我が盾は最強なり

 レア7 魔力全吸収

 レア7 無詠唱

 エクストラ 言語理解


「おおぉぉーー」


凄い。俺のステータスが表示されていた。

無茶苦茶スキル持ってるじゃないですか!

流石にこんだけスキル持ってるやつはそうそういないんじゃないだろうか。

もしかしたら一人平均十個とか持っている、みたいなオチがあるのかもしれないが、少なくとも俺の常識からいえば生まれた時から六個ものスキルを持っているのは異常だ。


両親グッジョブだったぞ。あんたの息子は天才だ。


そう思っていた。少なくとも兵士の次の言葉を聞くまでは。


「なんだ……、一個もスキルも魔法才能も持ってねぇじゃねえか」


そんな衝撃的な言葉を口にした。

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