第3話 転生したら奴隷だった件について

そして、眩い光に目を眩ませてる。


暫くすると、遠くの方から声が聞こえてくる。


「…………!……!」

「……」


耳がよく聞こえない。

だが、どうやら、何か言い争っているように聞こえる。


(これ、ヤベェところに生まれたな……)


どう考えてもウェルカムベイビーという感じではない。

なんてところに転生させてくれたんだ、神様。


そんな気持ちを抑えて、とりあえず声を聞き取るのに集中してみる。


「……え、……ったな……」

「……」


未だうまく聞き取れない。

しかし、どうやら日本語を喋っているように聞こえる。


おいおい、まさか実は転生した先って俺がが生まれる坂上宏人として生まれた頃に戻ったとかじゃないだろうな?


いわゆる二十年前の地球にタイムスリップしてしまった可能性を考えた。


しかし、男の次の言葉がその可能性を消す。


「セリア、よく頑張った」


セリアという、恐らくおれの母親であろう。

どう考えても日本人じゃない。

まだはっきり見えるわけではないが、顔立ちも西洋風だ。

前世の母親の顔ではない。


しかし、話している言葉は日本語なのだ。わけわからん。


「この子には辛い人生になるかもしれん。だが……」

「ええ……いつかここから解放されるように」


そんな戯曲によく出てきそうな場面が目の前で繰り広げられるが、それを見ている俺の心は冷めている。


二人で盛り上がっているところ悪いんだけど、生まれて早々に不穏な言葉を効かせるのはやめていただきたいんだが。


解放ってあんた……。


どう考えても普通の家庭ではなさそうな雰囲気だ。

もしかして上位貴族に搾取される下位貴族だったりするのだろうか。

それとも領主から重税を課せられる平民だろうか。

どちらにせよ、大変な未来が待っているのは間違いないだろう。


「ウウー」(なんつう家庭に転生させてくれたんだ神様……)


歯が生えそろっていないため、口から出たのは赤ちゃん言葉だった。


「お、おおすまない。子どもの前でするような話では……いや、そもそも」

「この子、ええ、全くとして泣かないわ……」


両親らしき男女が俺の顔を覗き込みながらハテナ顔をする。

その顔立ちは西洋人といえば、大体の人が想像するであろう、言ってしまえば平均的な顔立ちをしている。


その両親の血が流れているのなら、俺の未来の顔面偏差値も安定することだろう。


「も、もしかして……病気なんじゃ……」

「そ、そうかもしれない……、しかし……病気だったとしても治せるお金なんてどこにも……」


心配そうな表情で俺の顔を覗き込みながら二人は相談する。

しかし、精神年齢二十歳の男がそう簡単に泣くわけがない。


やっとボヤけていた視界が徐々に晴れてきた。

そこで俺が着目したのは彼らの服。

麻布のようなボロボロの服を着ており、服のあちこちが継ぎ接ぎだらけ。

糸で縫い合わせるような余裕さえないようで、所々穴が空いている。

しかも、どう見ても子どもを取り上げていいような清潔な服装ではなく、汚らしい。

衛生環境も最悪なようだ。


「ああ……そう言えばお隣のバートンとこの子どもも産まれてすぐに病気に罹って……、ご主人様が少しでもお金を出してくればと嘆いていた」

「……出してくれるわけないわ。ご主人様は私達のことなんて物としか思ってないのだから」


ご主人様という事はこの二人はどこかのお偉いさんに仕えているということだ。

しかし、ほぼ無給なのだろう。

とんだブラック環境に生まれてしまった。


「チクショー!せめて……俺が……」

「貴方、やめて!どうしようもなかったのよ!」


何がどうしようもなかったのだろうか。


「それにまだ……病気と決まったわけじゃないわ。見て、この子の賢そうな目を」

「……そう、だな。よく見れば凄い頭の良さそうな目をしている」


男の方は先ほどの狼狽した様子から一転して、少しだけ安心したような表情になった。

それはそうだ。喋れないだけで理性は大人だからな。


「この子は生まれたばかり。もしかしたら凄い優秀なスキルや魔法才能を持っているのかも……」


ここで、やっとファンタジーらしい言葉が出てきた。

この世にはこんなみすぼらしい格好をした人間でも知っているような地球ではありえないものがあるらしい。


スキルや魔法才能。

やべぇ、ちょっと興奮してきた。

恐らく二人の言い方から見るに、それらは先天的なもののようだ。

俺にはちゃんと才能があるのだろうか。


いや、そう言えば転生する前に神様がなんかくれるみたいなこと言ってたな。

もしかして俺、才能あるんじゃねぇの。

それを見るにはどうすればいいんだろうか。

何か声に出すとゲームみたいに自分のステータスをいつでも見れるのだろうか。

それとも鑑定的ななものがあるのだろうか。


「くそっ……見ただけじゃわからねぇ……」

「魔眼石は無理でもせめて鑑定石でも使えれば……」


新しい言葉が出てきた。

魔眼石と鑑定石。

どちらもステータスを見るために必要なものなのだろう。

自力では見れないらしい。


「……」

「……」


沈黙が漂う。

無い物ねだりをしても仕方がないじゃないか。

無いもんはないんだよ。


気持ちはわかる。俺も前世じゃ才能があればとか思ってたし。

しかし、生まれたばかりの子どもに言うことじゃない。

せめてそう言うのは二人だけでやってほしい。


男は項垂れ、女も顔を伏せる。

暫くして、男は沈黙を破り太ももを叩きながらこう言った。


「俺が平民なら……この子のステータスを見るためのお金を工面できるのに」

「……」


本当はなんとなく自分の置かれた状況は分かっている。ただ、ほんの少しの僅かな希望に縋っていただけだ。


違ってくれ。

そんな俺の微かな希望をうち壊したのは、男が決定的な一言を口にした。


「奴隷として生まれたとしても、才能次第じゃ成り上がれるんだ!」


俺の現世は……奴隷だった。

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