第25話

ここにきてから仕事を休んだのは、それが初めてだった。


その次の日、猫山が三谷の部屋にやって来た。

「昨日、お仕事休んじゃったんですね。無理しないでと言ったのに」

猫山は少し涙ぐんでいる。

それを見て三谷は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「ごめん。でも女子中学生が行方不明になったと聞いて、居ても立っても居られなくなって、つい」

「それはみんな知ってるわ。でもみんな聞かなかったことにしたの。三谷さんが無理をするといけないから。それなのに仕事を休むまで無理しちゃうなんて」

「ほんとうに、ごめん」

すると猫山が三谷に抱きついて言った。

「そんな優しい三谷さんが大好きです。でも本当に無理をしないでくださいね。みんなが心配しますから」

「わかった。もうしないよ。絶対に」

猫山は体を離すと言った。

「無理をしたから、ごほうびのキスはなしですよ」

猫山は、三谷のほほを指で軽く触ると出て行った。


毎日確認しているから間違いはない。

封印の玉が九尾の狐を封印した時よりもずっと大きくなっている。

それももう十倍に近い。

これでもまだ不足だと言うのだろうか。

明神さんからOKのサインがまだ出ない。

九尾の狐だって一国を混乱させたほどの大妖怪だ。

天逆海はそれほどまでに強力な妖怪なのだろうか。

妖怪と言うよりもどちらかと言えば神に近い存在であることはわかってきたが。

三谷は明神に直接聞いてみた。

「どうしました」

「明神さん、聞きたいことがあるんですが」

「なんです」

「封印の玉がかなり大きくなりました。明神さんならわかるでしょう。これで天逆海を封印できますか?」

明神は三谷に手を掲げながら言った。

「ほう、これは素晴らしい。こんなにも大きな封印の玉は私でも見たことがない。でもこれでは天逆海を封印できない。でももう少し。あと少しなので頑張ってください」

――まだか。

三谷は思わずへたり込みそうになった。

しかし明神はもう少しと言った。

それならもう少し頑張るだけだ。

「わかりました。ありがとうございます」

「いえいえ、お礼を言うのはこっちだよ。無理せずに頑張ってください」

「はい。わかりました」

三谷は一礼すると自分の部屋に帰った。


次の日、三谷はあることに気がついて明神を訪ねた。

「はい、なんですか?」

「前回、封印の玉を私の体から出すのを明神さんがやってくれましたが、今回はどうするのでしょうか。私は自分でだす方法をいまだに知らないのですが」

三谷は封印の玉を育てることに夢中で、それを自分で出す方法をいまだに知らないことに気がついたのだ。

明神が言った。

「それには訓練が必要だが、今それをやると、そこまで大きく育てた封印の玉が出て行ってしまう。だから今はその訓練は、やりたくてもできない。今回も私が出すから、三谷さんはそのまま玉を育ててくれないか」

「わかりました」

我ながらなんでこんな大事なことに気づかなかったのかと思いながら、三谷は部屋に戻った。


次の日、三谷がアパートに帰ってくると、少しだけだがなんだか騒がしかった。

どうやら管理人の部屋からのようだ。

部屋の前まで行ってみると、中から亀田の声がした。

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