第24話


気がついた。

三谷が目覚めた時にはお昼を過ぎていた。

十二時間以上寝ていたことになるが、まだ疲れていた。

――早く玉を十分に育てたいんだが。

あまり無理をして倒れてしまうと元も子もなくなる。

とりあえず休んでいると猫山が入ってきた。また鍋を持って。

「はい、栄養たっぷりの雑炊。どうせまたちゃんと食べてないんでしょ」

猫山は鍋を三谷の前に置き、隣に座った。

身体がぴったりと密着している。

猫山は鍋の蓋を取り、れんげで雑炊をすくった。

「はい。あーん。熱いですから気をつけてくださいね」

確かに熱かった。

三谷は少しずつ口に含んだ。

「はい、次。あーん」

ずっとそんな感じで三谷はほどなくして雑炊を食べ終えた。

雑炊は疲れていても食べやすくていい。

それに猫山の作る雑炊はうまいのだ。

「はい完食。とにかく三谷さん、頑張るのはいいんだけど、くれぐれも無理だけはしないでね」

そういうと猫山はほほのキスをして出て行った。

――とにかく倒れない程度に頑張るか。

三谷はそう思った。


天逆海は妖怪だが、一部では女神として扱われていることを、三谷は知った。

男性の神でも投げ飛ばすほどの力があると言う。

――こりゃあ強敵だわ。

三谷は改めて身を引き締めた。

それにしても三谷をはじめとして、みんなが不思議に思っていることがある。

天逆海はなぜここにやって来たのか。

九尾の狐の敵討ちかとも思ったが、九尾の狐と天逆海は特に仲がいいわけではないらしく、どうやらなんの接点も持っていないらしい。

人間で言うと、会ったこともない人だ。

ではなぜ今、この妖怪荘にいるのか。

管理人によれば、時折いなくなることがあるが、ほとんど部屋から出てこないと言う。

これまでに何をしたかと言えば、河童を一匹さらっただけだ。

妖怪荘の住人で天逆海に襲われた人は一人もいない。

下界に降りてきた天逆海にしては、やけにおとなしいと皆が言う。

普段どれだけ暴れん坊なんだと三谷は思ったが、おとなしいならそれに越したことはない。

天逆海が本格的に暴れないうちに、できるだけ早く封印の玉を作るだけだ。

三谷はそう考えた。


朝起きてニュースを見ていた。

三谷は朝食をとるときにいつもニュースを見ているのだ。

そしてその日のトップは、県の北のほうの小さな町で、女子中学生が行方不明になったことだった。

――この町だ。

この町にも小さいながら中学校がある。

そんな田舎の町の女子中学生が一昨日から姿を見せないと言う。

――まさか天逆海が……。

天逆海がやったとは限らないが、やっていないと言う保証もない。

その可能性は高いと考えられる。

なにせ相手は人や妖怪、なんなら神でも食べてしまうかもしれないと言う化け物なのだ。

――これはのんびりしていられないな。


その日、三谷は仕事から帰ると、明日も仕事なのにもかかわらず、倒れるまで封印の玉を大きくした。

そして次の日、三谷は仕事を休んだ。

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