第20話

「妖怪は人間に化けると完全に人間と同じになるんだ。結婚もできるし、子供も産める。女性の妖怪ならみんなそうなる。ここにいる女性もみんなそうだね」

そう言われて三谷は思わず猫山を見た。

猫山は三谷と目が合おうと、真っ赤な顔をしてうつむいてしまった。

今度はみんながそれに気がついた。

「おやおやこれは」

「まあ、お若いことで」

「まあ、最初からわかっていたけどね」

三谷も赤い顔でうつむいていると、明神が言った。

「まあ、いまはとりあえずお酒を飲みましょうか」

みんなそれにならった。

三谷も飲んだ。

それもかなり多く。

とにかく三谷は恥ずかしかったのだ。


ふと気がつくと、自分の部屋で寝ていた。

朝の七時。

もう出勤する時間だ。

三谷は急いで着替え、朝飯も食わずにアパートを出た。


その後は特に大きな変化はなかった。

九尾の狐が封印されたにもかかわらず、管理人はともかく亀田も猫山も小野塚も明神までがアパートに住み続けているのだ。

管理人に理由を聞くと「楽しいからでしょう」と答えた。

確かにみんな楽しくやっていた。

そして三谷はと言うと、猫山との仲が深まった。

お互いの部屋を行き来するようになっていた。

もちろん住人全員の公認だ。

三谷はこの幸せがずっと続くといいと思っていた。


そんなある日に、新しい入居差が来た。

年齢は五十代に見える女性。

大きな目、大きな鼻、大きな口の日本人離れしていると言うよりも、人間離れをした顔の五十代に見える女だった。

部屋は六号室。

九津のいた部屋だ。

すぐに管理人の部屋で全員が集まり会議が行われた。

参加者は管理人、亀田、猫山、小野塚、明神。そして三谷だった。

「どうしよう。あんな奴が来るなんて」と管理人。

「とんでもない奴が来てしまったわ」と猫山。

「今すぐにでも逃げだしたいところだ」と亀田。

「でもあいつ、なんでここに来たんだろう」と小野塚。

「とにかく由々しき事態だな」と明神。

三谷はある程度は悟った。

まだなんの説明も受けてはいなかったが、とにかくあいつは妖怪で、明神でさえ警戒するほどのやばい奴だということだ。

三谷は聞いた。

「あの女はなんですか?」

管理人が答えた。

「あいつは天逆海(あまのざこ)です」

「あまのざこ?」

「妖怪で、人や妖怪を喰う妖怪です」

「人や妖怪を」

「そうです。ですから妖怪にとっても人間にとっても敵なのです」

「そんな奴がこのアパートに来たのか」

「そうです」

明神が口をはさんだ。

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