第17話

三谷が考えていると、悲鳴を聞いたのだろう。

管理人。亀田、猫山、小野塚が飛び出してきた。

「どうしました?」

「今のは何なんですか?」

「狐の悲鳴に聞こえたが」

「間違いなく九尾の狐の悲鳴だわ」

三谷は四人に先ほどの出来事を伝えた。

すると四人とも顔をしかめて考え込んでしまった。

「どうしましたか?」

三谷の問いに管理人が答えた。

「三谷さんの体の中では、封印のエネルギーが育っています。それにあいつは気がついたんですね。だから逃げ出してしまったんです」

「そんなあ。せっかくここまで大きくしたのに。もう戻ってこないんですか?」

「ええ、自分からは戻ってこないでしょう」

「えっ、それじゃあ……」

「探します。私たち全員で。なんとしてでも三谷さんの前に連れてきます。三谷さんは気にせずに封印の玉を育ててくださいね」

「わかりました」

「それじゃあみんな、行きますよ」

「おう」

「はい」

「はいよ」

四人は妖怪の姿になると、あっという間に三谷の視界から消えた。

人間では無理な技だ。

さすが妖怪と言いたいところだが、そんなことに感心している場合ではない。

九尾の狐の力は四人の力と同等、いやそれ以上だと考えた方がいいだろう。

そんなやつを、本気で逃げているやつを、果たしてここまで連れてこられるのだろうか。

そのてんが非常に不安だが、三谷にはどうすることもできない。

逃げた九尾の狐を探し出す能力なんて三谷にはないし。

四人に託すしかないのだ。

――玉を育てるか。

四人が何とかして九尾の狐を連れ帰ってくるかもしれない。

その時のために玉を育てておかなければ。

三谷はそうしながら待つことにした。


あれから一週間がすぎた。

この間、三谷は誰の姿も見ることはなかった。

三谷にできることは玉をそだてること、それだけだ。

そして三谷は毎日玉を育て続けた。

一週間前よりは確実に大きくなっている。

しかしこれぐらいで十分なのかはわからない。

わからないが三谷は育て続けるしかないと思った。


みんながいなくなって十日後のこと。

なんと妖怪荘にあらたな住人がやって来た。

管理人もいないというのに。

背がかなり高く、手足の長い中年男性。

モデルのようなスタイルで、その顔はとにかくイケメン。

もうめちゃめちゃイケメンだった。

彫が深く、ギリシャ彫刻のような顔だ。

男は三谷が見ている前で、八号室に入っていった。

当然のようにちゃんと八号室の鍵を持っている。

男は少ない荷物を入れ終えると、三谷のところにやって来た。

そして言った。

「今日からここでお世話になる明神龍一です。管理人とは話ができているから、不在ですけど入居させてもらいますよ。今後ともよろしくお願いしますね」

声も力強くてよく通る、イケボだった。

たいていの女なら惚れてしまうような男だ。

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