第16話

「九尾の狐は本来の力を取り戻したら、邪魔者は全て始末するでしょう」

「邪魔者?」

「そう邪魔者。それは私たちのことです」

「!」

思いつかなかった。

考えてみれば当然で簡単なことなのに。

なぜそれが頭に浮かんでこなかったのか。

管理人は顔を近づけ、小さな声で言った。

「私たち全員。もちろん猫山さんもです」

三谷が固まっていると管理人が離れた。そして言った。

「頑張ってくださいね。三谷さんなら必ずできます」

管理人はそのまま出て行った。

三谷は考えた。

九尾の狐を封印しないと、猫山が殺されてしまう。

それは嫌だ。

絶対に嫌だ。

そんなことは考えられない。

なにがなんでもそれは阻止しないと。

――やってやるぞ。

三谷は集中した。

これまでとは比べ物にならないほどに。

時間は少しかかったが、その日のうちに小さいながらもちゃんとした封印の玉ができた。


封印の玉の塊はできた。

あとはこれをさらに大きくするだけだ。

三谷は頑張った。

仕事で疲れて帰ってきても、毎日欠かさずに玉を少しずつだが大きくし続けた。

休みの日にはそれこそ朝から晩までだ。

玉は一気には大きくならなかったが、一日一日確実に大きくなっていった。

そのころには管理人をはじめとして、亀田、猫山、小野塚も様子を見に来るようになった。

そして猫山は訪れるたびに

「三谷さん、頑張っていてすごい!」

と抱きついてくるのだ。

これだけやられては頑張らないわけにはいかない。

封印の玉はどんどん大きくなっていた。

――一流の陰陽師なら一日かからないと聞いたが。

三谷は陰陽師としては超がつくほどの初心者だ。

そうかと言ってそれに甘えているわけにもいかない。

九尾の狐が力をつければ、敵対するものをみんな殺してしまう。

もちろん猫山も。

そして九尾の狐がいつ力を取り戻すのかがわからないのだ。

一日たりとも無駄にはできない。

三谷はそう考えた。


そんなある日のこと、三谷はアパートの玄関先で九津に会った。

もともと九津はほとんどアパートに帰ってこなかったので、三谷が会うのは久しぶりだった。

その時の九津の反応がすごかった。

三谷を見ると、目を丸くして三谷を凝視した。

いつもはどこか余裕をかましているような九津なのに、こんなにも動揺した様子の九津を見るのは初めてだ。

「ぎゃあああああっ!」

九津は大きな叫び声をあげると、九尾の狐の姿になり、そのまま空高く飛んで行ってしまった。

――なんだあ、今のは?

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