第15話
そもそも封印の玉の基礎となる小さな玉と言っても、三谷には明確なイメージがわいてこなかった。
おそらくそれが、玉ができなかった原因なのだろう。
「わかった。やってみるね」
「はーい、頑張ってくださいね」
そう言うと猫山は空の弁当箱を持って出て行った。
部屋を出る前に、三谷に向けて飛び切りの笑顔で小さく手を振った後に。
猫山が出て行ってから三谷は考えた。
――俺が強く想いをのせられるものか……。
それはすぐに頭に浮かんできた。
三谷が強く想いをのせられるもの。
それは猫山だ。
他にはない。
――やってみるか。
三谷は猫山みみで最初の小さな球を作ることにした。
最初はさすがにうまくはいかなかった。
しかし猫山を強く思うことは三谷にとって苦にはならない。
むしろ逆で、強く思えば想うほど、なんだか幸せな気持ちになるのだ。
何度も何度も繰り返してやってみた。
すると日が沈みかけた頃。
――できた。
三谷はへその下に小さなエネルギーの塊を感じた。
最初の小さな玉ができたのだ。
――あとはこれを封印の玉として大きくするだけだ。
三谷は夜が更けるのも忘れて、玉作りに没頭した。
最初の玉は作り出せた。
しかしその後は順調とはいかなかった。
エネルギーを大きくするのに苦労し、封印に使える玉にするのになかなか進展がなく、外に放出することもできなかった。
つまり一か月近く経ってもほとんど成長していなかったのだ。
――これではいかんなあ。
三谷は考えていた。
そこに管理人がやって来た。
「三谷さん、就業を始めて一家月近く経ちますね。成果はどうですか?」
「それが……」
三谷は今の状況をそのまま正直に伝えた。
それを聞いて管理人は考え始めた。
三谷は管理人が何かを言うのを持っていたが、管理人はずっと考え込んでいる。
三谷はどうしようかと思ったが、そのまま待つことにした。
すると一時間ぐらいしてから、ようやく管理人が口を開いた。
「それは九尾の狐を封印したいという想いが、まだ少し足りないからではないでしょうか」
「えっ」
三谷はとにかく一生懸命にやってきたつもりなので、管理人の言葉はちょっと意外だった。
「それが今の状況の一番の原因だと思われます。そうですね。では想像してみてください」
「なにを、ですか?」
「もし九尾の狐を封印できなかったとしたら、どうなるでしょうか」
「うーん、九尾の狐が本来の力を取り戻したら、この日本に混乱が巻き起こる」
「そうです。でもその前はどうでしょうか」
「その前?」
「ええ、その前です」
三谷は考えた。
考えてみていろいろと頭には浮かんだのだが、どれも実感はわいてこなかった。
管理人は三谷をしばらく見ていたが、やがて言った。
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