第13話

三谷は全て読んだ。

分量は思っていたほどは多くはなかった。

「読みました。陰陽師の術と言うのは、自分の中にある内なる力をエネルギーとして外に出す、と言うことでいいですか?」

「そうです。自分の内なるエネルギーを呪文や道具の力を借りて外に出して術と成すんです。そういうことです。三谷さんの修行と言うのは、意志や想いの力によって内なるエネルギーを作り出し、封印の玉として育てて同じく意志や想いの力で外に出すということです。意志や想いが陰陽師の術と成るのです」

「精神的なものが大きいですね」

「そうです。陰陽師になるのも陰陽師の術を使うのも、意志や想いの力を高めること、そして集中力を養い、それを自由にコントロールするすべを身に着けることで、ほとんど精神修行と言っていいですね。そのコツも単純なもので、成るという強い想いと集中力がカギになりますね」

三谷はもっと忍術や山伏の修行のようなものを想像していたが、そういうものとは違っていた。

これは完全に精神修行だった。

「もう一度聞きますが、この俺が陰陽師になれますかね?」

「三谷さんに陰陽師としての素質がどれほどそなわっているのかは、私にもわかりません。しかし三谷さんは私たちの結界を破るという、普通の人間ではとてもできないことをやってのけました。しかも無意識のうちにです。なんだかの特別な力を持っていることは間違いありません」

「そうですか」

「自信を持ってください。意志や想いを術として成すには、迷いがあっては絶対にできません。自分を信じて想いを高めることが大事なのです」

「わかりました。やってみます」

「お願いします。期待してますから」

管理人は深々と頭を下げると出て行った。

三谷はそのコピー用紙をもう一度読み返してみた。

――さて、どうなることやら。でもなにがなんでもやらないと。

三谷はそう思った。


玉を作れ。

何事にも基礎が必要だ。

それはエネルギーの作成にも移動にも。

術を成すエネルギー。

その元をまず作り出さなければならない。

管理人がくれたコピー用紙。

いろいろ書いてはいるが、要は自分の意志、想い、集中力と言ったものがほぼ全てなのだ。

最初に作り出すのはへそのすぐ下のあたり。そこに頭のてっぺんから徐々に下に向かって全身のエネルギーを集めてきて、封印の玉となる基礎を作るのだ。

とはいっても今までの人生の中でそんなものを作ったことはなく、考えたこともない。

数日間やってはみたものの、へその下あたりにどんなにわずかなものでもできたという感じがまるでしない。

なにもないのだ。

三谷は考えた。

やり始めてまだ数日だが、進展はゼロだ。

一ミリたりとも進んではいない。

――こんなことで本当に陰陽師になれるのだろうか?」

そんなことを考えていると、ドアがノックされた。管理人だった。

「どうですか。少しは進んでいますか」

「いや、全然です。俺、本当に陰陽師になれますかね?」

すると管理人は考えて言った。

「今やっていることを理解してもらうために、少し寄り道にはなりますが詳しくお話しましょうか。厳密にいえば三谷さんは陰陽師にはなれません」

「えっ」

「まあ、聞いてください。陰陽師とは当時は仕事であり資格であり、時の政府が許可を出したものです。今でいうところの難しい資格を持っている国家公務員と言ったところでしょうか」

「そうなんですか」

「今の日本は陰陽師の許可書なんて発行していません。ですから今は陰陽師なんて存在すらしないんです。それに陰陽師になるためには、天文学、算術、医学など様々な専門的な知識が必要になります。でも今はそんなことは学んではいません。今修行しているのは、妖怪を封印するすべだけです。陰陽師のやるべきことの中では、ほんの一部にしか過ぎないのです」

「そうだったんですか」

「それでもそれ一つでも習得すれば、今の日本においては唯一無二の存在になれます。私の知る限り現代日本においてそれを習得している人間は一人もいません」

「なるほど」

「ですから陰陽師になると言うよりも、陰陽師の術の一つを使うというのが正しいですね。ですから、自信を持って修行に励んでください。三谷さんが今考えているよりも易しいことをやっているのですから。頑張ってください」

「はいそうじます」

管理人はそのまま出て行った。

本物の陰陽師になるわけではないことを三谷は理解した。

そうかと言ってやるべきことは今までと同じだ。

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