第12話
すると猫山が三谷に抱きついてきた。
「うわーっ、やっぱり思っていたようにいい人だった」
普段はゆったりとした服ばかり着ているので、スレンダーな体格だと思っていたが、抱きつかれると二つのふくらみが意外にも豊かであることを三谷は知った。
猫山に抱きつかれている三谷に管理人が言った。
「そうですね。それじゃあ三谷さんには陰陽師になってもらいましょうか」
――陰陽師?
そのあまりにも想定外の言葉。
三谷は戸惑った。
しかし周りの反応は違った。
「陰陽師か。それはいいね」と小野塚。
「陰陽師。さすがろくろ首だ。俺たちの中の最長者だ。いいこと思いつくね」と亀田。
「それがいいわ。そうしましょう。三谷さんが陰陽師だなんて、素敵」と猫山。
「ちょっと待ってください。俺が陰陽師になるんですか?」
三谷が言うと、管理人が答えた。
「そうです。妖怪を殺すことは妖怪でも人間、例えば武士や僧侶や神主でもできます。しかし雑魚ならともかく、九尾の狐ほどの妖怪を封印できるのは、陰陽師しかいません。九尾の狐を殺すことは、数をたためばならなんとかできるでしょうが、そうなるといずれまた復活します。それよりも封印してしまった方がより安全なのです。ですから三谷さんには陰陽師になってもらって、九尾の狐を封印してもらいたいんです」
三谷はしばらく黙っていたが、やがて言った。
「陰陽師って、どうやってなるんですか? そもそも俺なんかがなれるもんなんですか」
管理人が答える。
「私は長く生きてきて、人間とも交流を持ち、陰陽師の方々とも何回かかかわったことがあります。中には陰陽師に関して詳しく教えてくれた人もいました。それに陰陽師にかんする古文書も何冊かあります。それらと私に知識を合わせれば、陰陽師になる方法はわかります。それに陰陽師は、正しく修行すれば誰でもなれるんです。もちろん持って生まれた才能、個人差はありますが。三谷さんは私たちの結界を無意識のうちに無効化してしまった非常に稀な人間。おそらく陰陽師としての素質は十分にあるのではないかと思っています」
「そうですか」
「陰陽師になってもらえますか?」
「うーん。いいでしょう。陰陽師になります」
「きゃああ、ありがとう」
少し離れていた猫山がまた抱きついてきた。
二つのふくらみがもろに三谷に当たる。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」と管理人。
「頑張ってね。私たちの希望の星だわ」と小野塚。
「ありがとう。もちろんできる限り協力させてもらう」と亀田。
「三谷さん、ありがとう。私嬉しい」と猫山。
「わかりました。頑張ります」
それを聞いて、狭い部屋で四人が歓声を上げた。
とりあえず三人は帰った。
猫山だけが部屋に残っていた。
猫山が聞いてきた。
「私たちが怖くないんですか。それが不思議。ほとんどの人間は妖怪を怖がるのに。それ以前に、妖怪の存在を信じていない人が多いのに」
「この目で、自分の目で見たものは信じるさ。それに猫山さんもそうだけど、管理人、亀田さん、小野塚さんが悪いことをするなんてとても思えない。それなら人間のほうに、やばくて悪い奴がいくらでもいる。それに比べれば全然怖くなんかない」
「三谷さんって不思議な人だわ。最初から思っていたけど。結界も全く効かなかったし。結界があると、姿かたちが妖怪に戻っても、周りの人間からは人間にしか見えないんですよ。おまけに私たちに協力して陰陽師になってくれるなんて、本当にありがとう」
「いえいえ、みみちゃんのためなら」
「えっ?」
「いやなんでもない」
「とにかく何度も言うけど、本当にありがとう」
猫山は抱きつき、三谷のほほにキスをした。
「それじゃあ、また」
猫山は出て行った。
三谷は猫山にキスをされたところを軽く触ってみた。
そして思った。
ここだけはしばらく洗わないでおくぞ、と。
次の日、三谷の部屋に管理人が何枚ものコピー用紙を持って現れた。
「私が見聞きしたところで大事なことと、古文書のなかから必要と思われるものを書き出しておきました」
「パソコン使えるんですね」
「使えますよ。そんなことよりとりあえず、読んでみてください」
題名はズバリ「陰陽師になる方法」だった。
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