第11話
三谷がそう言うと、四人とも激しく驚きの色を現した。
「えっ、まだ出て行くと決めていないんですか?」と猫山。
「てっきり逃げ出すものとばかり思っていましたが」と管理人。
「こりゃあ、驚いた」と亀田。
「予想外の展開ね」と小野塚。
三谷は言った。
「それよりもさっきのは一体何だったんですか。それを教えてください」
それを聞いた管理人はしばらく呆けたような顔をしていたが、やがて言った。
「みんなで九津を懲らしめていたんです」
「それは見たのでわかりました。で、それはどうしてですか?」
「九津ですが、あれは九尾の狐なんです」
「九尾の狐?」
三谷は驚いた。
九尾の狐と言えば、妖怪の中でも大物だ。
それも悪い意味で。
三谷は言った。
「九尾の狐と言えば、その昔に退治されたと聞きましたが」
「復活したんです。妖怪は殺されても復活することが、わりとあります。ですから本来は封印する方がより良いのですが。でも前回は殺してしまいましたからね」
「で、言い方はなんですが、九尾の狐がなんでこんな田舎にいるんですか?」
「それは力が足りないからです」
「力が足りない?」
「死んだ妖怪は復活しても、全盛期の力はありません。かつて九尾の狐は中国を混乱に陥れ、日本も混乱させようとしました。復活した今も同じことを考えていますが、とても力が足りません。ですからこの地から手を付けて、少しずつ目標を大きくしていくみたいです。あいつが戦いの最中に口を滑らしましたが、ある程度の力が戻れば、次は仙台あたりに居をかまえるつもりだったようです」
「そうですか。で、あなたがたはその九尾の狐を懲らしめようとしていた。それはなぜですか?」
「妖怪は三つに分かれます。人間と仲良くしようとする穏健派。人間と敵対する反人派。そしてどちらでもないというかそんなものに一切興味がない無関心派。九尾の狐は反人派の代表格です。それで私たちは……」
そこで管理人が口ごもった。
三谷はそんな管理人を見て言った。
「あなた方はどんな妖怪なんですか。なんとなくはわかりますが、一応聞いておきたいです」
「私はろくろ首です」と管理人。
「俺は河童だ」と亀田。
「私は猫又です」と猫山。
「私は雪女だよ」と小野塚。
「そうですか。わかりました。思った通りでしたね」
管理人が言った。
「少なくとも私たちは穏健派です。厳密にいえば、河童は穏健派、反人派、無関心派とどれもいますが、この人は穏健派です」
三谷は気になることを聞いてみた。
「雪女は?」
小野塚が答える。
「あの話は私も知ってるさ。あの話はある程度は本当のことで、あの昔話に出てくる雪女は私なのさ。雪女は雪の精が集まって生まれたもので、河童と違って雪女はこの世に一人しかいない。でもあの話では雪女が老人を殺したことになっているけど、あそこは違うのさ。あのじいさんは勝手に凍死したんだ。それがいつの間にか私のせいにされてしまったんだ。私は人間を殺したことなんか一度もないよ」
「そうですか」
管理人が言った。
「とにかくこの妖怪荘に九尾の狐が来た。おそらくそれは偶然なのでしょう。まさか管理人が妖怪だとは思わなかったでしょうし。しかし今は力の大半を失っているとはいえ元は大妖怪。とても私一人の力じゃあ手にはおえない。それで河童と猫又と雪女に来てもらったんです。そんなわけで短期間のうちにこのアパートに妖怪が集まったんです」
「そうですか。で、その九尾の狐は今どこにいるんですか?」
「悪さをしに出て行ったんでしょう。人をたぶらかせばたぶらかすほど、力が戻りますから。でもまた戻ってきます」
「敵だらけとわかっているのに、ここに戻ってくるんですか」
「戻ってきます。あいつは私たちをなめています。同時にうっとうしいとも思っています。隙あらば私たちを始末するつもりなのです。それに私たちはこれ以上の力の成長は望めませんが、あいつは徐々にではありますが、本来の力を取り戻していってます」
三谷は少し考えて言った。
「そうですか。そんな状況なんですね。それでは僕はどうすればいいのですか?」
それを聞いて全員が口をあんぐりと開けた。
しばらくの静寂の後で管理人が言った。
「えっ、私たちに協力してくれるんですか?」
「はい」
「こりゃあびっくりだ」と亀田。
「そりゃあ協力者は多い方がいいに決まっているけど、まさか人間から協力を申し出て来るなんてね。全く頭になかったわ」と小野塚。
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