第10話

するとふと首が何メートルも伸びている管理人と目が合った。

「えっ、見てるわ!」

管理人がそう言うと、九津をはじめとする全員が、三谷のほうを見た。

「えっ、なんで?」と猫山。

「結界張っていたんじゃないのか」と亀田。

「こりゃまずいことのなったわね」と九津。

「今更だけど、とりあえず戻っとかないと」と小野塚。

すると全員があっという間に普通の人間の姿になった。

三谷は住人たちとしばらくお見合いをしていたが、住人たちは何も言わずにその場を去った。

三谷はそのまま誰もいなくなったあたりをぼうと見ていたが、やがて視線を室内に戻した。

――なんだったんだ、あれ?

どう見ても人間ではない。

コスプレでできそうなものもあるが、首の伸びた管理人や九津の火球なんかはどう考えても無理だ。

小野塚の口から出る小さな吹雪のようなものも。

それにみんな一瞬で普段の姿に戻ったのだ。

着替えたとかそんなレベルではない。

――となると……。

管理人を含めてここの住人は全員人間ではないことになる。

三谷は思い出していた。夜に首だけの管理人を見た。

池では大きな亀の甲羅と人間の頭のようなもの。

前に猫山の頭の上になにか見たような気がしたが、あれは今思うとさっき見た猫耳だ。

そしてアパートの前にあった積もった雪。

あれは小野塚の部屋の下にあった。

住人が人間ではないとするならば、見間違いや何かの偶然なんかではなく、全ての辻褄が合う。

――ええっと……。

妖怪荘。

このアパートの名前がそうだ。

そんな名前のアパートに、堂々と妖怪たちが集まっているというのか。

そんなところに一人だけ人間である自分が住んでいるというのか。

三谷は考えた。

これからどうしようかと。

もちろん怖い。

今すぐにでも逃げ出したいという想いはある。

しかし三谷には、九津はともかくとして残りの妖怪たちになんだかの危険があるとは、とても思えなかったのだ。

それに猫山みみ。

三谷が初めて本気で恋した相手。

人間じゃなかったからと言って、急に全面的に嫌いになるとか怖がるなんてことは、とてもできない。

そんなことを考えていると、ドアがノックされた。

開けるとそこには管理人、亀田、猫山、小野塚がいた。

みんな神妙な面持ちで、特に猫山は今にも泣きそうだ。

管理人が言った。

「入っていいですか」

「どうぞ」

三谷は答えた。

四人はゆっくりと部屋に入った。

「とりあえず座ってください」

三谷が言うと、四人が三谷の前に二列で座った。

管理人と亀田が前。

猫山と小野塚が後ろだった。

管理人が言った。

「見ましたね」

「ええ」

「結界を張っていたんですが、ごくまれにその結界が効かない人間がいます。まさか三谷さんがそうだったとは。残念です」

「残念?」

「ええ残念です。あんなものを見られたからには、三谷さんはここを出てゆくでしょうし。みんないい人だと好意的に見ていたものですから。とても残念でしかたありません」

「出て行く? いや、まだどうするかは決めていませんが」

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