第9話

その高くなっている空き地に九津が真ん中にいて、その周りを管理人、亀田、猫山、小野塚が取り囲んでいた。

離れているのではなにを言っているのかはわからなかったが、全員が九津に向かって口々になにかを言っているように三谷には見えた。

それに対して九津は明らかに不貞腐れた顔をして、だんまりだ。

どう見ても全員で九津を責め立てているように見える。

――あの女、何かやらかしたのか。

そうとしか考えられない。

九津はみんなから嫌われ、警戒されているようだし。

どうやら普段の素行に問題があるようだ。

――おそらく自業自得なのだろうが、アパートの住人全員に正面切って文句を言われたら、九津も住みにくいだろうな。

三谷はそう思った。

相変わらずみんなで九津を責め立てているようだが、何を言っているのかはわからないし、かといってあそこにのこのこ顔を出して「どうしたんですか?」と聞けるような雰囲気でもない。

三谷はそのまま部屋に戻った。


あれから数日が経った。

あんなことがあったので、九津やアパートの住人に何らかの変化があるかもと思ったが、そんなことはまるでなかった。

全員いつもとなんら変わることはない。

そして問題の九津だが、そもそも九津はほとんどアパートに帰ってこないので、その辺のところはよくわからない。

ただ一度だけ九津に会ったが、その時の九津はそれまでと全く同じ感じに見えた。

あの時の影響は何も見受けられなかった。

――しかし九津はいったいなにをしでかしたんだろう?

同じアパートの住人としては当然気になるところだ。

それに三谷以外の全員は知っているだろうし。

しかしそれを管理人とかに聞くのはやめておいた。聞いてもいいことはないと思ったからだ。

――まあ、なにかあれば管理人が言ってくるだろう。

三谷はそう思うことにした。


 それは突然のことだった。三谷が休みの日に部屋でごろごろしていると、なにか音がした。

なにかの爆発音のような音が。

――なんだ?

三谷は窓から外を見た。

そこにはアパートの前から道までの平地のところで、九津をアパートの住人全員が取り囲んでいたところだった。

その点は前に空き地で見たのと同じ構図だが、前回とは大きく違っているところがあった。

違うのは九津をはじめとしたアパートの住人全員の姿だった。

九津の頭には二つの大きな獣の耳が生え、後ろには太く長いしっぽが何本もあった。

そして手から火球のようなものを発生させて、それを自分を取り囲んでいる住人たちに投げている。

それが地面に落ちると、小さな爆発が起こっていた。

住人たちはそれらをかわしていた。

管理人は顔も体も管理人のままだが、その首が異常に伸びていて、九津の周りを一周していた。

そして時折、九津に頭突きをかましている。

亀田は顔は一応亀田だが、口が前方に大きくせり出してアヒルのような口になっていた。

そして背中には大きな亀の甲羅、頭には皿のようなもの、手には水かき。

全身緑色のその姿は、どう見ても河童だった。

亀田は九津の火球をよけながら、九津を平手でたたいていた。

猫山は頭に猫の耳にしか見えないものがあり、顔には左右にピンと伸びたひげが数本生え、お尻尾すぐ上のあたりから長い二本のしっぽが伸びていた。

よく見ると手のひらには肉球があり、短く太くなった指には長い爪がある。

まるで猫の手のようだった。

そして火球をよけながら、時折九津を引っかいている。

小野塚は真っ白い着物を着て、そして口から雪のようなものを九津に向けて吹きかけていた。

全員が九津を取り囲み、九津の投げる火球をよけながら九津を攻撃しているのだ。

みんな人間離れしたスピードで動き、九津の火球は一発も当たらないが、周りの攻撃も九津に当たってはいるのだが、九津にダメージがあるようには見えない。

言わば硬直状態のような感じで、どちらかが優位にはならない戦いで、同じ戦況がだらだら繰り返されているのだが、問題はそこではない。

――こいつら人間じゃないのか。

三谷は驚き固まり、それをそのまま見ていた。

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