第8話

九津の隣であり、九津につぐ二番目の二階の住人だ。

――なんでここには飛び切りの美人ばかり来るんだ?

三谷にはわからなかった。

そして男は三谷以外は亀田一人である。

亀田は管理人を含む四人の超絶美人をいったいどう思っているのだろうか。

三谷はしばらく考えた。

そしてこう思った。

亀田は四人の美女のことを、特に気にかけてはいないだろうと。

それに四人目の美女が来たからと言っても、三谷の関心は猫山一人なのだ。

今までととりたてて変化はない。

三谷は猫山以外は気にしないでおこうと思った。


ある日、三谷が会社に行こうとアパートを出た時に、気づいた。

――なんだあれ?

地面の上に白いものが見える。

近づいてみると、ある一面だけ地面が白くなっていた。

地面の上に白いものがあるのだ。

触ってみてわかった。

――雪?

四国出身の三谷は雪というものをほとんど見たことがない。

しかし全くないわけではなかった。

生まれて二度ほどは薄く積もった雪を見たり触ったりしたことがあった。

そしてそこにあるのは何度見直しても間違いなく雪だった。

あったのは猫山の部屋の前だった。

猫山はもう部屋にはいない。

大学に行ったようだ。

――それにしてもこれは……。

東北と言えども今はまだ九月だ。

それにここは標高は少しはあるが、高地というわけではない。

雨は降るが雪なんか降るわけがない。

しかしここにあるのは確かに雪なのだ。

――小野塚雪……。

雪のあった猫山の上に住んでいるのが小野塚だ。

しかも名前が雪。

――いやいや、そんなバカなことがあるわけがない。三谷、お前おかしいぞ。

名前が雪だからと言って雪を降らせることができるなんてわけがない。

三谷は自分のバカげた考えを、自ら否定した。

そうとはいえ、この時期に二メートル四方ぐらい積もっている雪。

高さは10センチくらいだろうか。

これはやっぱりおかしい。

おかしいからと言ってその理由は三谷にはわからない。

わからないしここに雪があるからと言って、三谷になにかするべきことと言うのもなにもないし、その必要もない。

――あっ、いかん。

三谷は慌てて時計を見た。

こんなところで時間をつぶしていたのでは、仕事に遅刻してしまう。

三谷はその場を離れた。

離れた時に誰かの視線を感じたような気がしたが、無視して車に乗り込んだ。


ある日、三谷が仕事から帰ってくると、管理人を含む住人全員が空き地にいた。

アパートの前は道だが、アパートの西側は空き地になっている。

そしてそこから少し高いところもまた空き地なのだ。

アパートの前はゆるい上り坂になっているが、空き地は雑草だらけとは言え平たく整備されているので、段差があって手前の空き地よりも高くなっているのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る