第7話

――ほんと、どうしよう。

三谷にとっては何百回目のどうしようだった。


ある夜、三谷が部屋でいると、三谷の部屋の前を誰かが通った。

一階なので部屋の前を誰かが通るとよく見える。

夜なのでカーテンを閉めていたが、少しの隙間がありその前を通る人物が見えた。

一瞬見えたその人物は猫山みみだった。

しかしその一瞬、三谷は猫山の頭の上に何かが見えたような気がした。

頭の上に何かがついていたような、ついていなかったような。

三谷は少し考えたが、思い切ってカーテンと窓を開け、そこから首を突き出した。

しかし猫山の姿はもうなかった。

直前にアパートの入り口を開け閉めする音がしたので、猫山はもうアパートの中なのだろう。

――何だったんだ、今のは。

一瞬のことだったが頭の上に見えたもの。

三谷はそれをどこかで見たように気もした。

そして自分の記憶を探ってみたが、はっきりと見たわけでもないので、結局思い当たるものは浮かんでこなかった。


猫山が学生だと知ったのは、猫山の頭の上に何か見えてから数日後のことだった。

管理人との世間話で話題に上ったのだ。

近くに小さな小学校と中学校はあるが、高校すらここにはない。

おそらく大学生なのだろうが、一番近い大学までも車で軽く一時間はかかる。

猫山が原付を持っているのは知っているが、あれで通っているのだろうか。

往復三時間近くかけて。

調べてみると、当然のことながら大学の近くには学生用のアパートがいくつもある。

そこがすべて埋まっているとは考えにくい。

現にネットで見ると入居者を募集しているところはいくつもある。

少し離れたところにも、選び放題にあるのだ。

それなのになぜ往復三時間近くかかるこの妖怪荘と言う変な名前のアパートに住んでいるのか。

それが三谷にとっては不思議だった。

その理由を聞きたいと思ったが、それを本人に聞く勇気は三谷にはなかった。


ある日三谷はふと思った。

三谷が来る前にはこの妖怪荘には管理人一人しかいなかった。

そして九津が来た。

九津は最初、全くと言っていいほど外出をしなかった。

ここ最近は逆にアパートにいることがほとんどないが。

しかし最初にほとんど外出をしなかったということは、どこかに勤めているとは考えにくい。

そして亀田もほとんど部屋からは出ないようだ。

二人とも仕事はどうしているのか。

在宅ワークと言う可能性もないわけではないが、あくまで見た印象だが、そんな雰囲気には見えない。

猫山は出かけない日もあるが、出かける時は朝早くからここを出ている。

片道一時間以上かけて大学に通っているとなれば、それも当然だと言えば当然なのだが。

常駐の管理人と猫山はともかく、九津と亀田の生活サイクルは普通ではない。

それにこのアパートの住人は全員が容姿、そして雰囲気がまるで普通ではない。

入ってきたときは、三谷一人だったというのに、二か月もたたないうちにこのありさまだ。

――うーん。

三谷はなんとも不可解だった。


ある日、また新しい入居者が来た。

その年齢は九津と変わらないくらいだろうか。

管理人のような日本人離れした顔ではなく、九津のように純日本人と言った感じでもなくその中間と言ったところなのだが、とにかく飛び切りの美人だ。

――うそっ!

結果としてこの妖怪荘に住んでいる四人の女性が四人とも、女優やアイドル顔負けの容姿なのだ。

――いったいなんなんだ、ここは。

三谷は驚きを通り越して呆れてしまった。

名を小野塚雪と言う。

そして小野塚は七号室に入った。

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