第6話

これは運命なのではないかと。

三谷があいさつすると猫山は少女の笑顔で返してくれる。

それが何度も重なったため、三谷の中の妄想が膨れ上がっていた。

一歩間違えればストーカーになるような思考に。

付き合っているわけではなく、世間話すらほとんどしたことがない。

ほぼあいさつだけと言っていい状況なのに。

ただ三谷がストーカーと違うのは、今は全く付き合っているわけではないということを十分認識しており、猫山を付け回すようなことは決してしなかったことだ。

――うーん、なんとかきっかけをつくらないと。

三谷は毎日そればかりを考えていた。


しばらくして玄関先で亀田に会った。

「こんばんは」

「こんばんは」

そのとき三谷は、ちょっとよからぬことを思いついたのだ。

三谷は言った。

「亀田さん、今度新しく入ってきた猫山さん、とっても可愛いですね」

「うん、可愛いな」

亀田は明るくはっきりとそう答えた。

その反応は、猫山のことを本当に可愛いとは思っている。

しかしそこには恋心や下心はない。

三谷はそう感じた。

――これでライバルが減ったのかな?

二十歳になるかならないかの女の子が、三十代の男に恋するとは考えにくいが、女性の好みと言うのはわからないものだ。

おじさん好きの女の子だって中にはいる。

しかし亀田が猫山に対して異性としての関心がないのなら、その可能性はより低くなるだろう。

三谷は我ながら妙な勘繰りをしたものだと思った。

亀田が猫山に関心がないのは少し不思議だったが。

――あんない可愛いのにな。

男の好みと言うのもいろいろだ。

三十代で年上好きという男もいる。

そこまで考えたところで三谷はふと思った。

ここには三人の女性が住んでいる。

そしてその三人が三人とも、日本でもトップクラスの女優かアイドルに負けない程の容姿の持ち主なのだ。

東北でもこの辺りはとびぬけて美人が多いところなのだろうか。

しかし三谷はコンビニやスーパーにはよく行く。

田舎だがコンビニやスーパーにはそれなりに人がいる。

しかしそんな美人には一人もお目にかかったことがない。

もちろん店に来ている女性をしらみつぶしに見ているわけではないが、あれほどの美人がそこにまぎれていれば、嫌でも気づくはずだろう。

しかしそんな女性には一度も会ったことがない。

飛び切りの容姿を持つ女性は、このアパートにいる三人だけなのだ。

――これは運がいいと見るべきなのか。

考えたが答えは出ない。

どちらにしても三谷の興味のある女性は猫山一人なのだから、他は関係がない。

三谷はそう思った。


そのしばらくは何事もなく過ぎた。

猫山とは相変わらずよく会うが、あいさつ以上の進展はない。

三谷は女性と話をするのはあまり得意ではない。

と言うよりも。どうでもいい相手ならいくらでも話ができるのだが、気になる女の子相手ではどうにも口が回らない。

――さすがにこれは、なんとかしないと。

幸い猫山は相変わらず少女の笑顔であいさつを返してくれている。

嫌われているとはとても思えない。

そうかと言って異性として興味を持たれているかと言えば、その辺はかなり微妙だ。

基本的には明るくて人当たりのいい女の子だ。

おそらくたいていの相手には同じ笑顔を向けるだろう。

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